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泣き虫男は俺様アイドル  作者: 陽芽子
20/24

喧嘩の後でして





















◇◆一週間後◆◇




あれから、沖田さんとは、仕事の話以外はしてない。




私は、彼を避けるように、顔を合わせようとせず、食事の時間や、帰る時間まで、まちまちにしていた。




そんな日々を送る中…




「打ち合わせは欠席されたので、番組内容の最終確認をして下さい。」




移動中の車に揺られながら、沖田さんに資料を渡す。




距離を置く為に、話し方を敬語に戻した私。




「分かった。」




だけど、沖田さんは何も言わない。




「スタジオ入りしたら、共演者さんに挨拶して下さいね。」




「面倒臭せぇ。アンタがやって。」




「分かりました。」




感情も何もない、無機的な会話。




……違う。


これは会話じゃない。


業務連絡だ。




霧がかったような、言い知れない気持ちを乗せて、私たちを運ぶ車は、目的地へと急ぐのだった。
























―――スタジオに着いて、沖田さんを楽屋に残し、私は他の共演者の楽屋を回る。




「あ……。」




今日は、一週間前に打ち合わせをしたバラエティー番組の収録日。




私は、山本さんも一緒に共演する事を、すっかり忘れていた。




だが、挨拶しない訳にもいかない。




“コンコン……”




躊躇い勝ちにノックをすると、“はい”と言う声が聞こえた。




「失礼します。」




中に入って来た私を見て、山本さんは目を丸くする。




「……あれ??

莉子ちゃん…??」




鳩が豆鉄砲を食らったような表情をしながらも、山本さんのその目が、何かを期待するように揺らいだ。




「挨拶に来ました。

本日共演させて頂く沖田を、よろしくお願い致します。」




言ってから頭を下げると、顔を上げる頃には、山本さんの瞳が残念さを物語っている。




「なぁ~んだ。

マネージャーの件、OKしてくれると思ったのに。」




そんな山本さんに、返す言葉を探す私。





「……それは…」




私が言いよどんでいると、明るさに満ちた声が返ってくる。




「でも、沖田くんを差し置いて莉子ちゃんが挨拶に来てくれるなんてね。

僕に会いたいと思ってくれてたんだったら、嬉しいな。」




勘違いも程々にして欲しい。


私は、沖田さんに代わって挨拶に来ただけだ。




そう言おうと、口を開きかけると……




「期待してもいいかな??

僕のマネージャーになってくれるって。」




沖田さんに負けず劣らずの綺麗な顔が、私に迫っていた。




その距離に焦るものの、気付くのが遅すぎたと、後悔する。




「すすみません……。

…沖田の楽屋に戻りますので……」




両手で、山本さんの体を押し返そうと試みるものの、ビクともしないどころか、間は縮む一方。




そんな時……




「……へぇ。…真っ昼間からお盛んな事で。」




楽屋の扉付近から、別の男性の低い声が。




その声を放った主を知った私は、放心してしまう。





何かを考える余裕すらも失った私は、ただ立ち尽くす事しかできない。




それでも、二人の会話は聞こえてくる。




「沖田くんさぁ、何か僕に恨みでもあるの??

いっつもタイミング良く邪魔するよね。」




「アンタ、ここに何しに来てんだよ。」




「仕事だけど??」




「フン。…俺にはそうは見えねぇな。」




「そうかもしれないね(笑)

実際、莉子ちゃんを口説いてたワケだし(笑)」




「アンタも趣味悪りぃな。

そんなダルマ女、口説いてどうすんの。」




「…ただ口説いてるワケじゃないよ。」




「あぁ??」




「…莉子ちゃんに、僕のマネージャーになってもらおうと思ってる。」




…山本さんのその言葉を最後に、楽屋内は沈黙に包まれた。




「………。」




何も言えない私と…




「………。」




押し黙る沖田さん。




「………。」




沖田さんの出方を待っている山本さんは、勝ち誇ったように笑っている。





だが……




「何やってるの、アナタ達。」




その空気を切り裂いたのは、また別の人物だった。




山本さんが、その人物に気付いて、小さく声を上げる。




「あ…緒方さん。」




どこからの会話を聞かれていたのかは分からないが、緒方さんは冷静さを保ちつつ、顔を歪めていた。




「莉子。」




私に楽屋を出るように、顎で指し示した沖田さん。


貫くような彼の声に、私はビクリと反応する。




「はっ…はい。」




下を向きながらも、私は沖田さんと共に、足早に山本さんの楽屋を出た。




「来い。」




次の一歩を踏み出そうとしたその瞬間……




「えっ??」




沖田さんの手が、ギュッと私の手首を捕まえる。




どこに行くのか、質問もさせてもらえないまま、私は引っ張られた。




「……ホイホイと触られやがって。

…浮かれてんじゃねぇよダルマ女。」




誰も通らない非常階段で、沖田さんの怒声が響く。





「…すみ……ませ…

ご迷惑……お掛けして…」




沖田さんが来てくれなかったら、今頃どうなっていただろう。




考えただけでも、恐怖を感じる私は、上手く言葉を口にできなかった。




「……別に。…アンタの迷惑には慣れたから。」




私が震えてる事に気付いたのか、沖田さんの口調が優しくなったのに気付く。




「ほ…本当に……ごめんなさい…。」




優しくされると涙が出そうになる。


その優しさを放り投げて逃げ出したい。




そうしないと、またあの時の気持ちに逆戻りしてしまう。




「…迷惑なら、いつでも受け取ってやるよ。

…でも…心配は受け取れねぇから。」




やっぱり彼は優しい。




「申し訳ありません。

次から気を付けます。」




これ以上彼に優しくされると、言ってはいけない言葉を口にしてしまいそうで…




“好きです”




言葉を噛み殺す私。




優しくされない為には、自分がシッカリしなくちゃ…。





自分に喝を入れるものの、私の体は正直に震えている。




「どうして欲しいんだよ。」




私を試すような沖田さんの目が、直線を描いて刺さった。




「……どうして…欲しいって……」




沖田さんの言葉の意味が、掴めない私。




「震えてんだろアンタ。

どうして欲しいか言えよ。」




抱き締めて欲しい。


逃れられないくらいに。


そのまま彼に奪われたい。




「……大丈夫です。

……すぐに…落ち着きますから…。」




でも、私から出たのは、またしても裏腹な言葉。




元通りに戻そうとしてくれた沖田さんの言葉を、私は冷静に振り切るしかなかった。




「……あっそ。」




私が彼を求めてしまえば、その時点で全てが終わる。




彼の側を離れるくらいなら、私は何度だって押し殺す。




“好きです”




この言葉を……。




彼には言えない。




絶対に…


絶対に……。




















―――バラエティー番組の収録が始まり、私はカメラの後ろで見守っていた。




さっきの出来事なんて、想像もさせないような彼の雰囲気。




山本さんも、にこやかに笑っていて、順風満帆に収録は進んでいる。




「さっきの話だけど…」




小さな声が、背後から聞こえた気がして、振り返ると……




「緒方さん…。」




いつものように腕組みをしている緒方さんがいた。




「盗み聞きするつもりはなかったんだけど、聞こえたわ。」




やっぱり……


山本さんの楽屋で話していた事を、緒方さんに聞かれたのか…。




気まずさで下を向く私とは対照的に、緒方さんは淡々と話す。




「まさか、迷ってないわよね??」




「迷ってません。

私は山本さんのマネージャーになる気はありませんから。」




緒方さんのその質問には、迷いなく明確に答えた私。




「ならいいけど。」




緒方さんは、それだけを言うと、私から目線を外し、どこかへ行ってしまった。





―――収録終わり。




「お疲れー。」




「お疲れ様でぇーす。」




そんな声が飛ぶ中、時間通りに収録が終わった。




沖田さんと二人、楽屋へ戻ろうと、廊下を歩く。




「沖田さん。」




私は、おもむろに、彼の名前を呼んだ。




「何??」




無表情で私を見る彼。


冷たさが宿る彼の瞳に、次の言葉が、ねじ伏せられるような感覚になる。




「あの……ちょっと……ADさんに呼ばれてるので…」




「あぁ。行ってくれば??」




「……はい。」




気のない言葉を受けて、複雑な気持ちになりながらも、私は踵を返した。




また……


嘘吐いちゃった…。




ADさんに呼ばれたと、沖田さんに言った私。




でも、私が向かった先はというと……




“コンコン……”




「はい。」




「失礼します。」




山本さんの楽屋だった。




「座って座って♪

お茶でも淹れるよ♪」




ニッコリと笑う山本さんに、私は落ち着いて言葉を返す。





「いえ。結構です。

…マネージャーの件を、ハッキリお断りに来ただけなので。」




私が立ったままで言うと、山本さんは、こちらに笑顔を返した。




「莉子ちゃんって、意外に頑固ちゃんなんだねぇ。」




感情の読めない山本さんの笑顔に、私は一瞬戸惑う。




「そんな事は……」




「僕と仕事した方が絶対に楽しいのに。」




私が言葉を言い切る前に、山本さんの声が重なった。




「それでも私は……」




「沖田くんの側にいたいんだ??

そんなに沖田くんの事が好きなの??

それって恋愛感情??」




声を出すのを躊躇った私に向けられた山本さんの質問責め。




「沖田さんの事を好きな訳でも、恋愛感情を抱いてる訳でもありません。」




ひたすら動揺を隠しながら、キッパリと言った。




「…だったら…僕の所においでよ。」




それはできないと、私が強く言っているにも関わらず、しつこく強要する山本さん。




すると……





「やめなさい、大地。」




私の後ろから、山本さんを制すような声が聞こえた。




「何だよぉー。僕は緒方さんの味方なのに。」




山本さんは、緒方さんに向かって口を尖らせている。




そう。


山本さんを制したのは、あの緒方さんだった。




沖田さんのマネージャーに返り咲く野望を持っていたはずの緒方さんからは、考えられないような発言。




暫く、ボォーッと考えていると、緒方さんが、私の肩に手を置いた。




「あの時、アナタが言った事、私は忘れないからね。」




緒方さんにそう言われ、私はポカンと口を開ける。




「あの時……ですか??」




首を横に傾けて考えたが、何の事やら分からない。




「“沖田 流星のマネージャーは、私が最後です”って、アナタ言ったじゃない。」




苦笑しながら、緒方さんが言った言葉を受けて、私は“あっ”と声を上げて思い出した。




「ふぅ~ん。…そんな事言ったんだ。

本当に健気だねぇ、莉子ちゃんは。

僕は諦めるしかないなぁ。」





薄く笑って言った山本さんは、私から緒方さんに視線を変えて、言葉を続ける。




「ねぇねぇ。莉子ちゃんと二人にしてくれない??」




「大地、諦めなさい。」




緒方さんは、山本さんを諭すように言った。




「諦めてるよ(笑)

だから、最後に莉子ちゃんと二人で話させてよ。」




嫌な予感はするけど…


諦めてるって言ってくれてるし……




私の反応を見ている緒方さんと目が合う。




「あの…少しだけなら、大丈夫ですけど…」




私がそう言うと、緒方さんは呆れた顔をして、楽屋を出て行った。




“パタン”と扉が閉まったところで、山本さんが口を開く。




「馬鹿っぽいから、騙して捨ててやろうと思ったのに。」




「え……??」




何の話をしているのかが掴めずに、溜め息を吐きながら椅子に座り直した山本さんを見つめた。




「あのさぁ、沖田くんのマネージャーなら、もっとまともに仕事しなよ。」




ワッツ??


いきなり説教??


てか、何で説教??





私……


山本さんに好かれてたんじゃ……




「………??」




面食らって、目を瞬かせていると、山本さんが、ニヤリと口の端を上げる。




「もしかして、勘違いしてる??

…本当に、僕が莉子ちゃんの事を好きだと思ってたの??」




「え……そうじゃないんですか??」




困惑気味に、質問を疑問に変えて返した私。




そんな私を見て、山本さんは鼻で笑う。




「やめてよ。

そんなワケないじゃん。

僕は、沖田 流星に憧れてこの世界に入ったんだ。

…なのに、キミみたいな駄目マネージャーのせいで、彼の格が下がってるんだよ。

分からないの??」




呆然と山本さんの冷ややかな声を聞いた後、私は思わずハッと息を呑んだ。




「だから…私を辞めさせようとして……」




「やっぱり馬鹿だね。

今頃気付くあたりが。

自分の危機管理もできてないマネージャーだなんて、沖田くんが可哀想だよ。」




山本さんの狙いは私ではなかった。


意外な真実に、開いた口が塞がらない。





そんな私を無視するように、山本さんの声が続けざまに降ってくる。




「沖田くんのマネージャー辞めて、とっとと田舎に帰りなよ。

田舎の方がキミにお似合いだよ。」




私を騙そうとしたクセに、ぬけぬけとっ!!!!




我に返って、怒りを感じた私は、山本さんを見据えた。




「マネージャーは辞めません。

田舎にも帰りません。」




私の断言に、山本さんは、嫌味を含んだ笑みを見せる。




「それはどうかな。

キミが沖田くんに対する気持ちを捨てない限り、どの道キミは田舎に帰る事になるよ。」




…私の沖田さんに対する気持ち……??


それは……




「何度も言いますけど、私は沖田さんに対して、恋愛観は持ち合わせてませんから。」




私の気持ちは……


誰にも知られる事を許されない。




「あら、そお(笑)??

でも、今に分かるよ。」




「失礼します。」




山本さんといると、全てを見透かされそうで、私は強引に話を切って、彼の楽屋を出た。





扉に持たれかかった私は、一つ深呼吸をする。




駄目だ……


…めちゃくちゃ動揺してる……。




思考を変えようと試みても、出てくるのは、さっきの山本さんの言葉。




“…キミが沖田くんへの気持ちを捨てない限り……”




振り切ろうとしても、頭から出て行ってくれない。




早く楽屋に戻らないと…




ようやく思い直した私は、足を踏みしめた。




だが……




「アンタ、嘘吐きに随分と磨きがかかったなぁ。」




「……あっ…」




山本さんの楽屋の扉の前にいた私の前方に、大きな影が落ちた。




「……全然気付かなかったよ。

廊下でADに会うまでは。」




「…沖田さん……。」




マネージャーの件を断る為とは言え……


沖田さんを心配させない為とは言え……


私は彼に嘘を吐いた。




「…俺よりアンタの方が嘘吐いてんじゃねぇか。

もう信用できねぇよ。」




吐き捨てるような沖田さんの言葉に、私の声は、喉の奥でせき止められる。





「何の話してたのか知らねぇけど…アンタ、山本のお気に入りだろ??

アイツのマネージャーになってやれば??」




“どこにも行くな。”


“俺から離れんなよ。”




沖田さんに、そう言われ続けてきた私。


その言葉をくれる彼が、大好きで。


そんな彼を愛おしく思っていた私にとって、さっきの沖田さんの言葉は、酷だった。




「私は……」




蚊の鳴くような声を出して……




「あぁ??聞こえねぇな。」




彼を真っ直ぐに見る。




「私は…沖田さんが……好きだから……

側に…いたい…から……」




今までしまい込んでいた想いが、言葉になって流れ出た。




理性を断たれた私の気持ち。




「そんなの…知ってる。」




沖田さんの呟きが、私の耳元をくすぐる。


強く強く……


もっと強く抱き締めて欲しい……




「沖田さん……。」




やっと言えた。


もう……


離して欲しくない。




「俺…は……」




私はどこにも行かないから……




「……うん。」




これからも…


ずっとアナタの側にいる。




「アンタをクビにする。」





















………え…??





















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