一仕事終えまして
◇◆数日後◆◇
再び沖田さんとの同居が始まった。
“家出した意味ないじゃん!!!!”
“…夜は流星の愚痴大会しようと思ったのにぃ”
……と、可南子にはブーブー文句を言われながら見送られ、数日が経ったある日。
特撮番組のクランクアップを迎えた私たちは今、打ち上げの会場に来ていた。
撮影が無事に終了したのと、視聴率のノルマ達成を祝した会場は、大いに賑わっている。
「凄い人の数だね…。」
「つか、こんなにスタッフいたっけ……」
結婚式の会場にも使われるらしいこの場所を見るなり、私と沖田さんは唖然としていた。
グルッと見渡すと、楽しそうにワインを片手にした緒方さんが目に映る。
あまり顔を会わせたくない私は、沖田さんの背中にコソッと隠れた。
「………。」
「何してんだよ。」
私の行動を不思議に思った沖田さんの問い掛けに、ギクリとする。
「いやぁ…何かアレだなって思って。」
頬をポリポリと掻きながら、苦しげに口の端を上げる私。
「アレって何だよ。」
私と向き直った沖田さんの顔が、怪訝に歪んだ。
「何て言うか…言葉では言い表せないんだけど……」
言い迷っていると、沖田さんは“はぁ??”と疑問めいた表情を浮かべる。
すると、会場の奥から、マイクを通した三郎さんの声が聞こえた。
「えぇー…皆様。
本日はお忙しい中…」
この番組のプロデューサーである三郎さん。
撮影中は、ほとんど姿を見せず、私も三郎さんを見たのは、今が久し振りというくらい。
挨拶を進行する三郎さんは、慣れた口調で、番組への想いなどを語っている。
そんな三郎さんの挨拶が終盤に差し掛かろうという時だった。
「…この番組が成り立ったのも、沖田 流星くんの存在があってこそで。
…僕は、彼を俳優として認め、今後も見守っていきたいと思います。」
三郎さんが言った一言に、感激の鳥肌が立つ。
「凄いっ!!!!
凄いよ沖田さん!!」
感動する私をよそに、彼は“ケッ”と照れたように息を吐いた。
「これだから年寄りは。
頭が固てぇんだよ。」
“沖田 流星だとは認めない”
三郎さんにそう言われて始まった撮影。
認めてもらえた事が、私は自分の事のように嬉しい。
「良かったね!!」
満面の笑みを向ける私を見て、沖田さんの顔が赤く染まった。
「別に…。アンタが褒められたワケじゃねぇだろ。」
本当は嬉しいクセに素直に喜ばないのも彼らしい。
そんな沖田さんを見て、終始目尻を下げていると、急に会場が暗くなった。
それと同時に、一筋の光が、沖田さんの姿を浮かび上がらせる。
「主演の沖田 流星くん。
一言挨拶を。」
スポットライトを浴びた彼は、呆然としていたものの、三郎さんが促した言葉にハッとして、壇上へと歩き出した。
その後ろ姿を、私は温かい目で追う。
会場の全員を見下ろす形で立った沖田さん。
マイクスタンドの高さを調節した後、深々と頭を下げた。
再び頭を上げると、会場を一巡した彼は、静かに話し出す。
「ここに立つまで、俺はどん底で…芸能界の窮地に立たされていました。
そんな俺に、この仕事をくれたのは、兄です。」
沖田さんが、三郎さんへ手のひらを向けると、この二人が兄弟であった事を驚くかのように、一部でどよめきが起こった。
その声が静まると、沖田さんは再びマイクに向かう。
「俺は、兄に認められた事を誇りに思ってます。」
表情を表に出さない彼が、誇らしく胸を張っているのを見て思った。
強さとは裏を返せば弱さになり、弱さとは乗り越えれば強さになる。
紙一重で、隣り合わせにある強さと弱さ。
これからも、両方の彼を支えて行ける事を願って…
彼の側に、居続けられる幸せを祈って、私は胸に、強く握った拳を置いた。
「……長々と話すのは、年寄りの役目なんで。
俺の挨拶はこの辺にしておきます。」
最後にドッと笑いを取り、沖田さんは壇上を下りた。
そのまま私の方へ真っ直ぐに戻って来てくれるかと思いきや……
「……え…」
彼が進む方向を見た私は、小さな声を漏らしショックを受ける。
緒方さんの手招きに導かれるように歩みを進める彼。
目の前に来た彼に、嬉しそうな笑顔を見せる緒方さん。
こんなにも大勢の人間が居る中で、大胆にも緒方さんは沖田さんの腕に、自分の腕を絡めている。
耳元で囁き合って談笑したり、誰もが疑う程の、親密ぶりを見せていた。
それはもう……
私に見せ付けるように…
その光景から目を離そうとした次の瞬間……
「沖田くんの事、気になる??」
私に尋ねられたであろう声に、反射的に相手に顔を向けた。
「あ……山本さん…」
沖田さんの適役であった山本 大地さん。
いつの間にか私の近くにいて、微笑みを浮かべて立っていた。
「…彼、緒方さんとヨリ戻すんじゃない??」
爽やかな笑みのままで、どこか毒を含む言い方をした山本さん。
「…それは…ない……と思います…けど……」
私は、沖田さんの言葉を信じてる。
でも、今の彼を見ていると、ハッキリと断言できない。
「へぇ……。莉子ちゃんって可愛いね。」
「へっ?!?!」
会話の流れからは想像もできなかった山本さんの言葉に、動揺が隠せない私。
しかも……
“莉子ちゃん”って…
「沖田くんの子犬ちゃんなんだ(笑)」
あぁ。
動物的にって事か…。
少しガッカリしつつも、この場に沿う雰囲気で、笑って返す。
「犬より猫に似てるって言われるんですけどね。」
私が意味を掴み損ねているんだろうか。
山本さんは、私の言動を受けて、ピクリと眉を動かした。
「どっちでもいいけどさ。」
「え??」
聞き取れなくて、小首を傾げると、頬を緩ませた山本さんの笑顔と出くわす。
「それよりさ、この後…僕と抜けない??」
「は……??…えぇっ?!?!」
目を丸くして固まる私を無視した山本さんにグイッと手を引かれる。
気付けば、会場の外へと続く扉の前に来ていた。
「ちょっとだけだから。ね??」
「いやややや!!!!
抜け出すのはちょっと!!」
扉の前で押し問答していると、山本さんが手を引くのとは逆方向に、私の体が引き寄せられる。
肩を抱かれた私は、大きな腕にスッポリと収まった。
「山本くん。
この子はキミのマネージャーじゃない。
…俺の弟のマネージャーだから。」
そう言った人物を見て、山本さんはその人物の名前を溜め息混じりに呟く。
「田中…プロデューサー。」
私を守ってくれたのは、三郎さんだった。
山本さんを真っ直ぐ目に捕らえ、彼から視線を変える事はない。
三郎さんが、鋭い眼光を放っていると、それに気付いた周囲が騒ぎ出す。
「勝手な事すると、弟の代わりにオジサンが怒っちゃうぞ??」
その異変にいち早く気付いた三郎さんは、冗談めかしたようにお茶目に言った。
「…おいコラ。アンタもドサクサに紛れて肩抱いてんなよ。」
その発言が聞こえた後、今度は左側に自分の体が移動する。
私を引っ張った手の先を見ると、三郎さん以上の眼光を放った沖田さんの顔が……
「あらら(笑)
ごめんねぇ(笑)
若い子の体って柔らかいよねぇ(笑)
オジサン、お手て離すの忘れちゃった(笑)」
「クソエロジジイ。」
状況に付いて行けない私は、山本さん、三郎さん、沖田さんの3点に視線を置いて、何とか事態を飲み込もとする。
「そぉ~んなに大事なら、彼女に自分の名前でも書いとけば??」
三郎さんは“やれやれ”とでも言いたげに、沖田さんに嫌味のような言葉を吐いた。
……っていうか…
沖田さんの嫌味って…
三郎さん譲りなんじゃ…
「うっせぇんだよ。
…女に飢えてんなら、他当たれ。」
沖田さんは“シッシッ”と手首をしならせると、私を連れて元の場所へ戻って行く。
「もう他に何も望まねぇよ。
頼むからボォーッすんなって。」
分かってはいたけども…
「…ごめん。」
私は沖田さんに謝る羽目になる。
「アンタもいい加減飽きたろ。
…出会った頃から、俺は何回同じ事をアンタに言ってる??」
元の場所に戻るかと思いきや、会場の隅っこにある死角部分に連れられた私。
甘く囁いて聞かせるような彼の声に、うっとりする余裕もない。
「えっと……何回かな…」
思い出すように、視線を泳がせていると……
「そういうのがボォーッとしてるっつんだよ。」
真正面に沖田さん、背中は壁状態の私に、彼の体が詰め寄ってくる。
「……ちょ…人に見られるって…」
身をよじればよじる程、私は彼のテリトリーの中に、のめり込まれて行く一方。
「本当に…アンタの体に俺の名前を書いて欲しいワケ??」
彼の指先が、私の首筋をくすぐるように撫でた。
それだけなのに、甘い息を漏らしてしまう私。
「名前書くのは……
遠慮……んぐっ…!!!!」
私の口を塞いだのは、彼の大きな手のひら。
「……って言っても書くもん無いしなぁ。
まぁ…これも……思い出作りって事で。」
もう片方の手で、沖田さんは私の首にかけられたファーをずらす。
酸素が足りなくなってきた頃……
「………っ!!」
…彼の冷ややかな唇とは裏腹の、熱っぽい舌が、私の首筋を辿った。
その後すぐ、優しい痛みと快感が、体中を駆け巡る。
私は今、何をされてるのか…
自分の顔のすぐ横にある、沖田さん髪をそっと掴んだ。
呼吸をする事も忘れて、ぼんやりとした意識の中、どれくらいの時間が流れただろう…。
足に力が入らずに、そのままヘナヘナと床に尻餅をついてしまう私。
「………。」
声も出ないまま沖田さんを見上げると…
「ゴチ。」
満足げに私を見下ろし、妖艶に笑って彼はその場を去って行く。
「……何だったの…??」
一人取り残された私は、目をパチクリさせるばかりだった。
気を抜くとすぐフラフラになる足を何とか地面に着けて、会場内を歩く。
扉から出ようとした所で……
「どこ行くんだよ。」
引き止めるような沖田さんの声が、私を追い掛けて来た。
「ちょっと…お手洗いに。」
歩く足を止めて言うと、彼の不安そうな瞳がぶつかる。
「食い過ぎか??
気分でも悪りぃの??」
沖田さんの問い掛けに、軽く首を横に振って答えた私。
そんな私を見て、沖田さんは“フン”と鼻を鳴らす。
「……なんだ。
マジで便所か。
便器詰まらせんなよ。」
誰のせいでこうなったと思ってるんだ。
てか、私のウ○コは通常サイズじゃっ!!!!
…とは思うものの、わざわざ叫んでまで言う言葉ではないので、そのまま会場を出た。
えっと……
トイレはっと…。
天井を見上げ、トイレへ導く看板を探す。
矢印に促されて歩くと、迷う事なく辿り着いた。
手をかざすと出てくる水。
その手を冷やして、自分の火照った頬に当てた。
うわぁ……
予想以上に、自分の頬に熱が集中していた事に驚く。
彼の唇が触れていた首元も熱い。
真夏でもないのに、うっすらと汗をかいている首元に手を当てようとするが……
「こ…これ……っ!!」
赤と紫が入り混じった、小さなアザが目に映る。
これはもしや……
何かの雑誌に書いてた…
いやいや…
友達から聞いたんだっけ……??
彼の吐息の温もりが残るその部分。
熱くうずくものの正体に気付いた時、さっきよりも、私の頬の温度は高潮する。
これは……
噂のキス……マークだ。
どどどどうしようっ!!!!
急に気恥ずかしくなって、会場に戻り辛くなった私は、トイレの鏡の前をウロウロとする。
そうしていると……
「不審人物発見。
…いや、オリの前を歩くオラウータンかしら。」
自分の後ろから声がして、ギョッと目を見開いた。
私の姿を映した鏡越しの人影。
それは……
「…緒方はんっ!!!!」
名前を呼ぶのですら噛んでしまった私。
オーマイガー……
よりにもよって、この人に変な所を見られるとは…
「ちょっと。
人の名前くらいちゃんと言いなさいよ。
“緒方はん”って……
京都弁でハンナリしないでくれる??」
いや…
別に、ハンナリしたくて言ったワケじゃ…
「緒方さんもお手洗いですか??」
「そうじゃなきゃここに居ないわよ。」
ですよね……
適当な言葉が見つからない私は、トイレを出ようと、緒方さんに軽く頭を下げた。
「待ちなさいよ。」
以前……
緒方さんと睨み合って、言い争いをした嫌な予感が過ぎる。
「はい??」
今度はそんな事にはならないようにとナチュラルに返事をして、再び緒方さんと鏡越しに視線を交えた。
「どんな手を使って流星を引き止めてるのか知らないけど…
私は負けないから。」
闘志みなぎる視線が、鏡に反射して私に刺さる。
「私だって負けません。
沖田 流星のマネージャーは、私で最後です。」
私は、緒方さんの視線を反復して返した。
すると、緒方さんは一瞬だけ、意味の読み取れない笑みを浮かべる。
「頑張ってね。
小さなマネージャーさん。」
その言葉は、私に葉っぱをかけたものなのか、私を励ますものなのかは分からない。
「間違って乗っちゃった船なのかもしれないですけど、やるからには……やって見せます。」
そう息巻いた私は、緒方さんに会釈をしてから、トイレを後にした。
だが……
やっぱり沖田さんに会うと、異様に動揺してしまいそうで、足は会場とは反対方向に歩いている。
気持ちを落ち着かせようと、ガーデン挙式で使われるらしい中庭に出た。
ピンクのバラが、咲き誇るその場所で、小さな影がうずくまっているのを目にする。
近付いて顔を覗き見ると、膝を擦りむいた男の子が、今にも泣きそうな顔をして頭を垂れていた。
声を掛けるか掛けまいかを迷う間に、私は行動に移っていた。
「どうしたの??大丈夫??
キミ、迷子かな??」
蝶ネクタイに半ズボン。
何かで見た、推理アニメに出てくるような風貌をしている男の子だが……
「ぱぱァ~~(泣)!!
ままァ~~(泣)!!
いたいよぉ~~(涙)!!」
見た目も頭脳も、本物の子供らしい。
そして、私の察しの通り、迷子のようだ。
擦りむいた所が痛むのも手伝って、悲痛に泣いている。
「ヨシッ!!これを貼ってあげよう!!
顔面ライダーって知ってる??」
優しく問い掛けながら、顔面ライダーがプリントされた絆創膏を、ポーチから取り出した。
その絵柄を見て、男の子はコクリと頷くと、少し落ち着く。
「一番カッコイイの貼ってあげるね。
顔面ライダーの必殺技の、ジャイアント顔面フルスイングだよ♪」
そう言いながら、絆創膏を貼って、ポンポンと頭を撫でると、“ありがとう”と礼儀正しいお礼が返ってきた。
―――それから…
男の子と手を繋いで歩いていると、聞き慣れた声が前方から飛んでくる。
「……アンタ、どんだけ長げぇクソしてんの。
つか、ケータイ出ろよ。
どんだけ探したと思ってんだ。」
突然現れた沖田さん。
彼の迫力に、男の子は私の後ろに隠れてしまう。
「おお沖田さんっ!!
子供の前で“クソ”とか言わないで!!」
私が言った、“子供”という二文字に、沖田さんは目を丸くする。
私の後ろに身を潜めて、顔を半分覗かせている男の子。
赤く目を腫らしている、その子見て、沖田さんは眉間に深くシワを刻んだ。
「アンタの隠し子??」
んなワケあるかぁ~い!!
「違うよ!!」
「じゃあ誰??」
「迷子。」
「……そんな事言って、アンタが泣かしたんじゃねぇの??」
「違うってば!!」
「どうだかな。
日頃のストレスが溜まって……」
「そんな事しないよっ!!」
彼の嫌味が、2倍になって返ってくるであろうと身構えていると……
「え……??」
嫌味の代わりに出てきたのは、彼の困惑したような驚きの声。
「…あ……」
私も沖田さんが今置かれている状況を見て、思わず息を呑んだ。
「がんめんらいだーの…
おにいちゃんだよね??」
男の子は、私の手を離れて、沖田さんの太ももにしがみついている。
撮影時はライダースーツに身を包んで、メイクを施していた沖田さん。
しかし今は、ノーメイクのタキシード姿で、顔面ライダーとは似ても似つかない姿なのに……
この子の見極める目力は凄いと思う反面、固まって動けない沖田さんを見てると面白い。
笑いを堪えるように口元を手で押さえていると、沖田さんが焦ったように小声を出す。
「おい!!莉子!!
何とかしろ!!
俺…子供苦手なんだよ!!」
沖田さんにも弱点があるんだと思うと、逆に堪えていた笑いが吹き出した。
「地球を守ってる正義のヒーローが(笑)!!
まさかまさかの子供嫌いって(笑)!!」
お腹を押さえて笑っていると、私の脳天がコツンと軽く小突かれる。
「…取りあえず、案内所に連れてくぞ。
アンタも手伝え。」
「はぁ~い(笑)」
会場がある12階から、案内所がある1階へ移動するべく、私たちはエレベーターへと向かう事にした。
でも……
男の子は、物欲しそうに沖田さんを見つめ、彼の太ももにシッカリとしがみついたまま離れない。
「何だ坊主。
言いたい事もろくに言えねぇのか。
…態度じゃなくて、声に出せ。
じゃねぇと分かんねぇよ。」
沖田さん……
子供相手に、そんな態度とらなくても……
私が間に入ろうとすると、男の子は、明るく元気に笑う。
「かたぐるま…してください!!」
男の子の言葉を受けて、沖田さんは首を傾げた。
「あぁ??何で肩車??
つか、たとえ子供でも、男のチ○コ押し付けられるのって嫌なんだけど。」
またそんな事を……
沖田さんの面倒臭そうな態度に、男の子の表情が曇っていく。
「まぁまぁ!!まぁまぁ!!
沖田さんのチ○コに比べたら、この子のチ○コの方がキレイだって。」
「ぁんだと??
アンタ、俺のチ○コ見た事ねぇだろ!!」
フォローのつもりだったものの、私が言った一言が、沖田さんの逆鱗に触れた。
「いや…そんな怒らなくても……
沖田さんに肩車して欲しいから…この子も頼んでるワケだし……」
怯えながら言った私を見て、沖田さんは“チッ”と舌打ちすると、男の子をフワリと抱き上げる。
「…落ちんなよ。」
「うんっ!!」
先程とは一転して、男の子の顔に明るさが戻った。
「あ゛っ!!コンニャロっ!!
セットが崩れんだろが!!」
髪型を心配してる沖田さん。
「がんめんすとろんぐ・くらぁーっしゅ!!」
沖田さんの頭の上で、腕を振り回して無邪気に遊ぶ男の子。
「お??…お前、なかなかレアな技知ってんな。」
イマイチ会話には付いて行けないけど……
「うん!!ぼく、このわざがいちばんだいすき!!」
男の子の明るい声に…
「その技、最終回で出るから、絶対見ろよ!!」
彼の明るい声が続いて…
「うんっ!!ぜったいみるよ!!」
男の子の楽しみに満ちた笑顔と……
「約束な!!」
沖田さんの、嬉しそうな笑顔が重なった時……
「あははっ(笑)!!」
私は、どうしようもなく微笑ましくなる。
―――案内所に着いて…
いよいよ男の子との別れの時…。
「…ありがとな、坊主。
顔面ライダー、応援してくれて。」
沖田さんは、男の子を肩から下ろして、案内所の長椅子に座らせる。
「ずっとおうえんしてるよ!!
…ぼく……おおきくなったら…」
男の子は、潤んだ瞳で、離れようとする沖田さんの手を掴んだ。
「……ん??」
その場にしゃがんだ沖田さんは、男の子と同じ目線で、その瞳を覗き込む。
「おおきくなったら…
ぼく、がんめんらいだーのへんしんべるとになる!!」
それを聞いた沖田さんは、ズッコケる勢いで体を傾けた。
「顔面ライダーじゃなくて変身ベルトになりてぇのか…お前は。」
小さなツッコミを向ける沖田さん。
「それは、ちょっと無理かもね…。」
そんなやり取りを後ろで見ながら、私は苦笑した。
「ダイキ!!」
どこからともなく聞こえた声に、男の子が反応する。
その表情が、パッと輝きを見せた。
「パパ!!」
突然現れた男性に、男の子が抱き付く。
「ごめんな、ダイキ。」
男性は男の子の頭を撫でながら、安堵の息を漏らしていた。
その光景を見て、私たちは目を合わせる。
「ハイ、一件落着。」
「だね。」
そのまま立ち去ろうとする私と沖田さんに、男の子の声が掛かった。
「おにいちゃんっ!!
わるいやつからちきゅーをまもってね!!」
屈託のない笑顔を向けられた沖田さんは、フッと微笑む。
「…お前が変身ベルトになったら、一緒に戦えよ。」
「うん!!
いっしょにたたかう!!」
その言葉を最後に、男の子と手を繋いだ男性は、私たちに一礼をして、その場を去って行った。
「いい顔してたね、あの男の子。」
沖田さんと肩を並べて、会場に戻りながら話し掛ける。
「まぁな。…子供も悪くねぇな。
つか、自分の仕事の意味が分かってきた気ぃする。」
柔らかく笑いながら言葉を紡ぐ沖田さんの横顔を見る私。
彼が、自分の仕事に対して、何かを見いだせた事に、私も喜びを感じる。
彼を見ている人を笑顔にさせる事…
元気付ける事……
喜ばせる事…
それが今の私たちの仕事なんだと、彼を見て私は悟ったのだった。




