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泣き虫男は俺様アイドル  作者: 陽芽子
15/24

彼の、もう一つの過去を知りまして





















◇◆数週間後◆◇




めでたく、初オンエアを迎えてから数日後。




毎日何かしら仕事がある沖田さんは、撮影所へと足繁く通っていた。




その沖田さんに付いて、私もマネージャーの仕事を真っ当している。




たまに離れて仕事をする時もあるけど、家に帰れば必ず顔を会わせていた。




そして夜は……




あんまり言いたくないが、毎晩抱き枕にされるという……




心臓破りな生活を送っている。




そんなある日……




沖田さんは、何の連絡もなく、朝まで帰って来なかった…。








































◇◆翌日◆◇




“ガチャッ……”




静かに開いた玄関の音で、私は目が覚めた。




沖田さんを待って、ソファーで眠っていた私は、ゆっくりと体を起こす。




「…あ……お帰り。」




「…ん。」




沖田さん……


やっぱり昨日の服のままだ…。




いつものように、部屋の鍵をテーブルへ無造作に置いた彼。




「………。」




“お帰り”と言ってから、言葉が出て来なくて、私は黙り込んでしまう。




“どこ行ってたの??”




私が沖田さんの彼女なら、すんなり言える質問なのかもしれない。




「シャワー浴びてくる。

…アンタも早く学校行く準備しろよ。」




「う…ん……。」




歯切れの悪い返事をして、私は自分の部屋へ入って、支度をする。




聞こうか聞くまいか……




そんな狭間で揺れながら、制服へ着替えて、カバンを取った。




部屋を出ると、丁度シャワーを終えた沖田さんと出くわす。





私を視界に入れた沖田さんは、眠たそうに目をこすりながら口を開く。




「……早いな。

んじゃ、アンタが朝メシ作って。」




それだけ言うと、彼は私の返事も聞かずに、リビングを出て行った。




何なんだろう……


私が気まずく思ってるだけなのかな…??




言い知れない気持ちになりながらも、台所に立つ。




卵をフライパンに落として、その傍らでトーストを焼き……




考え事をしているせいか、手元が狂ってしまった。




“ガシャン……!!!!”




あーぁ……


やってしまった…。




足元に、砕け散ったお皿の破片。




見つめてから、溜め息を吐く。




拾おうと、足をかがめた時……




「触るな。」




頭の上から声が降ってきて、導かれるように見上げた。




「ごめん。割っちゃった。」




お皿の割れる音を聞きつけて来てくれたんだろう。




沖田さんは、シャツだけを羽織って、私の目の前に立っていた。





「皿なんか、また買えばいい。

俺が拾う。

アンタ、ドジだし。

出血多量で死なれたら、面倒だから。

…俺、第一発見者になりたくねぇし。」




長々と、並べ立てられる嫌味も、彼の優しさだと、今なら分かる。




「……ごめんね。

ありがと…。」




私は、その場を沖田さんに任せる事にした。




「つか…なんか……焦げ臭いけど。」




「あ゛っ!!!!」




沖田さんに言われて気付いたが……


時……


既に…


遅し……




目玉焼きは、こんがりと、異臭を放っていた。




意気消沈した私は、今日何度目かの溜め息を吐く。




「失敗したのか??」




「うん。でも…大丈夫。」




沖田さんの分はちゃんとできたし。


私は目玉焼き無しでいいや。


あんまり食欲があるワケじゃないし…。




出来上がった朝食をテーブルへ運び、先に座っている沖田さんの向かい側に座った。




「いただきます。」


「いただきます。」




手を合わせた後、私と彼は、無言で朝食を口にする。





「………。」




「………。」




こんなに静かな朝は初めてかもしれない。


カチャカチャと、お皿が音を立てているだけで、他には何も聞こえなかった。




私は、沖田さんの顔すら見れなくて…


ひたすら朝食に目を落とす。




トーストを半分程食べた私のお皿。


そこに器用に半分に分け切られた目玉焼きが乗った。




反射的に顔を上げると、お箸を引っ込めようとする沖田さんが目に映る。




「…目玉焼き、失敗したくらいで落ち込むな。

アンタ、食い意地張ってんだから我慢すんなよ。」




そう言って、彼は渋い顔で、砂糖の入っていないコーヒーを口にした。




「…落ち込んでないし。

…食い意地も張ってないもん。」




弱々しく反抗した私に、沖田さんは言葉を返す。




「いいから食え。

さっさとしねぇと置いてくぞ。」




空になったお皿を重ね、沖田さんは立ち上がった。




いつもの憎まれ口。


根は優しいいつもの彼。




何も変わらないはずなのに、今日だけはなぜか遠い存在に見える。











―――移動中の車の中。




ここでも沈黙は繰り広げられていた。




チラチラと彼を横目に見るものの、いつもの様子で窓の外の景色を見ている。




どうしよう……


何か喋った方がいいのかな…??




以前にも抱いた事のある緊張感が、胸を過ぎった。




「ひ…久々の学校だね。」




取り留めのない会話で、この雰囲気を打開しようとしたが、沖田さんからは、気のない返事が返ってくる。




「あぁ。」




チーーーーーーーン……


会話……終了…。




それでも私は、続けようと試みる。




「今日は…オフで良かったね。

一日中学校に居れるよ??」




「俺のNGが少ないお陰だ。

感謝しろよ。」




「あ……ハイ。」










その後、私たちの会話は続く事はなく、車はひたすら道路を走り抜け、学校へと向かうのだった。





















学校に着いて、沖田さんと並んで廊下を歩いていると……




“ドドドドドド……”




前方から、地鳴りのような音が聞こえる。




“ドドドドドド…!!”




それがだんだん私に近付いてきて……




「……あ…あれは…」




私が音の正体を言葉にする前に……




「流星!!ちょっくら莉子借りるね!!!!」




そう言った声の主に進行方向とは逆方向に首へと手を回された。




「ぁがっ……!!くるし…」




「おいっ!!!!」




沖田さんが引き止める声も虚しく、声の主に引きずられるようにして、私の体は来た道を戻って行く。




“キーンコーンカーンコーン……”




抗う事ができずに、ついには授業開始のチャイムまでもが、虚しく響いた。










―――校舎の屋上へと連れられた私は、促されて地べたへと座る。




「……もぉ。

授業始まっちゃったじゃん。

久し振りの学校だったのにぃ……。」





「いいじゃん♪

サボっちゃえ♪」




ブーブー文句を言う私の隣で、“イシシッ”と白い歯を覗かせて笑っているのは、同じクラスで、私が転校した時に一番最初に話し掛けてくれた、(ヒイラギ) 可南子(カナコ)


私を忍者のように連れ去った声の主は、正に彼女だ。




最初はぎこちなく接していたものの、あまり学校に来れない私を気遣ってくれたり、学校では私の話し相手になってくれたりと、今ではこの学校の唯一の友達でもある。




「ただでさえ単位が足りないってのに、サボるなんて無謀だよ。」




「莉子が全然連絡くれないからじゃん。

時間があったら連絡してって何回もメールしたのにさ。」




頭を抱える私を見た可南子は、口を尖らせた。




「あ……そうだ…。

ずっと連絡できなくて、ごめんね。」




可南子からのメールを思い出した私は、言うまでもなく苦笑いになる。




「……どうせ忘れてたんでしょー。

忙しいのは分かるけどさ…。」




可南子は、拗ねた口調で、私にそう返した。





「……確かに……撮影も大詰めになってて…

イベントとかもあって、忙しかったんだけど…」




ここ数日…


撮影をしながら、各地の遊園地を回って子供相手にショーをしたり…


握手会や、トークショーなどで、ほとんど学校にも行けずで、可南子とは疎遠になりかけていたと言っても過言ではない。


私も最初は、こんなに忙しくなるとは思っていなかった。




「そっかぁ……。

ヒーローの妻も大変だね。」




「…つっ?!?!」




可南子の口から出た“妻”という単語に、言葉に詰まった私。




「まぁ、冗談はそれくらいにしてさ。

本題に入るけど……」




真剣な表情に切り替わる可南子。




本題??


何だろう。




小首を傾げる私を見て、可南子は言葉を続ける。




「…緒方 恭子と……何か話した??」




緒方 恭子……




聞き覚えのある名前を、思い出すように、晴れ渡る真っ青な大空を仰いだ。




「あぁ…緒方さんって…

山本さんのマネージャーの??」





顔と名前を一致させて、可南子に言ったが、彼女は曇った表情を浮かべる。




「そう。…転校初日に、流星の前のマネージャーの話、ちょろっとだけしたじゃん??」




可南子に言われ、忘れかけていた記憶が、鮮明に蘇った。




「そんな事もあったね。」




私が頷いた後、可南子がゆっくりと口を動かす。




「緒方 恭子なんだよ。

…流星の……前のマネージャー。」




「………。」




そう言った可南子を見て、私はハタと動きを止めた。




「流星は何も言わないと思ったからね。

莉子が何かに巻き込まれる前に、あたしから話そうと思って……」




眉を下げて話す可南子の声を聞いて、私もようやく小さいながらも声が出る。




「巻き込まれる…って??」




以前に、沖田さんと噂になったマネージャーとは、山本さんの現マネージャーの緒方さんだった。




そう考えるだけでも悪い予感しかしない。




でも、私が知って変わる事なら、知った方がいいと思ってしまった。





「実はね……緒方と流星は、今もまだ繋がってるんじゃないかって、嗅ぎ回ってる記者もいるんだよ。

それくらい…二人の仲は、親密だった。」




私の中にある何かが……ガラガラと音を立てて崩れていく。




声も出ないまま、たった数文字の可南子言葉に、さらわれそうな胸をグッと押さえた。




「熱愛が発覚して、先に姿を消したのは、緒方の方なんだけどね。

流星は緒方の事を必死になって探してた。」




一つ一つ暴かれていく、彼のもう一つの過去。




胸騒ぎは止まってくれない……。




「ところがどっこい。

どういうワケだか、緒方は別の事務所で、山本のマネージャーになってた。」




そんな……


必死になって探してたって……


やっぱり…


沖田さんは、緒方さんが好きだったの…??




「ショックだったと思うよ…流星も。

…裏切られたって顔してたし。

緒方と流星が再会したのは、多分…今山本と流星が共演してる番組で……だと思う。」





キャスト紹介の時だって……


普段の撮影の時だって…


沖田さんと緒方さんが、親密そうにしてるのを見た事がない。


むしろ、お互いに背中合わせで立っているような……。




それは……


見せ掛けなの…??




「もしも…緒方と流星が未だに想い合ってるなら……」




「そんな事ない!!!!」




これ以上、可南子の声を聞きたくなくて……


遮ぎった私は、大声を出した勢いで立ち上がった。




「…莉子……。」




可南子も、そんな私に寄り添うように立ち上がる。




「……どうして……否定しちゃったんだろう…。」




心の声が、そのまま言葉になって出た。




沖田さんが緒方さんの事を好きなら……


緒方さんも、沖田さんを好きなら……


私が入る隙なんてない。




そもそも、私は沖田さんへの想いを断ち切ってるはずなのに……




でも……


解せない。




「莉子は……自分が思ってる以上に、流星の事が好きなんだよ。」





「え……??」




思いがけなかった可南子の言葉に、思考の動きがフリーズする。




「でも、考えてみりゃ、あの二人がまだ続いてるってのは、おかしいか。」




可南子は、唐突に話を変えた。




「どういう事??」




意味が分からない私は、首を横に捻る。




「緒方の件以来、流星は前より女を遠ざけるようになったからね。

莉子を側に置いてるっていうのは……そういう事なんじゃない??」




「………??」




だから…


どういう事なのか聞いてるのに……




やっぱり可南子の言っている事が分からなくて、私は終始、首を捻りっぱなしだった。




あの時に誓った事。


それをもう一度思い出す。




特別な存在になれなくたっていい。




彼に必要とされてるなら、私は必要とされ続けたい。




彼が、私を必要としなくなる日が来るまでは……




















―――1限目を、丸ごとサボってしまった、私と可南子。


休み時間になり、教室へ戻った矢先だった。





「おーい、沖田!!

変身してみろよ(笑)」




「戦ってるのって、流星じゃねぇんだろ(笑)??」




「あの主題歌、超ウケるんですけど!!」




「あれってウケ狙い(笑)??」




聞こえてくるのは、どれも面白可笑しく沖田さんを冷やかすような言葉ばかり。




「顔面ライダーのポーズやってー(笑)!!」




そんな中……




「………。」




沖田さんは黙ったまま、遠い目をしていた。




売れっ子アイドルという立場から一転。


沖田さんの事を鼻持ちならない様子で見ている周りからの冷やかし。




私は、それを見ている事ができず、黒板の前にある教卓を“バンッ”と強く叩く。




一気に静まり返る教室。




全員の視線は、私の姿を一点に捕らえていた。




教室にいる生徒を一巡し、私は声を出す。




「アナタ達に沖田さんを冷やかす権利はありません。

沖田さんは……

誰かがやらなくちゃいけない仕事をしてるんです。」





沖田さんが望んで、今の状況になった訳じゃない。


でも、彼は一生懸命に、仕事をこなしてる。


そんな彼を、私は一番近くで見てる。


だから……


馬鹿にされたくない。




「一生懸命な沖田さんを冷やかすアナタ達の方が、どうかしてます。」




言いながらも、目頭が熱くなってきた。


もっと言ってやろうと思うのに、唇が震えて伝えられない。




冷静さが戻ってくると、今になって、教卓を叩いた手のひらがジンジンと痛くなった。




瞬きをすると、教卓へと直接落ちる丸い雫。


その水滴が、自分の涙だと理解する前に、誰かにパッと手を取られる。




「……えっ??」




私の手を引いて教室を出る男らしくて温かい手。


強い意志を感じる大きな背中。




吸い寄せられるように、私は抵抗する事なく着いて行く。




私に振り返る事なく歩き続けているのは、紛れもなく、沖田さんだった。





















「……ったく。

言わせときゃいいものを。」




「うぅ……だって…悔しかったんだもん…」




誰もいないグラウンドの片隅にある木陰で、私は膝を抱えて泣いていた。




そんな私にお構いなく、沖田さんは木にもたれて溜め息を吐く。




「…あそこでキレたら、それこそアイツらの思うツボだろーが。」




それはそうだと思いながらも、自分の行動に後悔はない。




「沖田さんは…悔しくないの……??」




少し落ち着いたものの、私の言葉は嗚咽混じり。




「別に。悔しいとか思うくらいなら、とっくに今の仕事辞めてる。」




私の問い掛けに、無気力で答える彼を、何も言わずに見つめる。




「………。」




「何だよ。

ブサイクな顔で見んな。」




言わずもがな、彼は怪訝に私を見て言った。




「…だから…声に出して言わなくても……」




自覚しているのに悪態を突かれ、顔をそらして肩を落とす私。




頭の上にある木の枝から、サワサワと、葉と葉が擦れ合う音だけが、辺りに響いていた。





「でも……」




低くく響く彼の声が沈黙を破った。


促されるように、地面から彼に視線を変えると、ドキッとするくらいの優しい笑顔で出迎えられる。




「アンタの気持ちや心は、ブサイクじゃない。」




続けて言った沖田さんの言葉が、また私の心を揺らした。




「アンタがマネージャーで良かった。」




今までにない、柔らかい眼差しで見つめられながら言われると、思いの丈が口から出そうになる。




聞きたくて我慢していた事も……




「昨日……どこ行ってたの…??」




ホラね。


こんな風に……




……って、聞いちゃってるよ私っ!!!!




「あ??……昨日??」




NOーーーーー!!!!


私の口って、どうして何も考えずに言葉を発するんだろう…。




「何でもない。

気にしないで??」




「……あっそ。」




沖田さんのプライバシーだもんね。


私は首を突っ込んじゃいけない。




そう思っている私は気付かなかった。


この時……


彼が何とも言えない目で私を見ていた事に…。





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