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泣き虫男は俺様アイドル  作者: 陽芽子
13/24

彼の弱さを知りまして





日も傾きかけた頃。




沖田さんの様子が気になって、彼の寝室の扉を叩く。




「沖田さん??」




呼び掛けたものの、物音一つしない。




「入りますよ??」




沖田さんの許可を得る事なく扉を開け、中へと足を踏み入れた。




それに気付いた沖田さんが、うっすらと瞳を瞬かせる。




「…莉子……俺…」




「倒れたんですよ。

熱があるなら、ちゃんと言って下さい。

ビックリしたじゃないですか。」




彼が目覚めたら言おうと思っていた言葉を、ここぞとばかりに並べ立てた私。




「ダッセェ……

倒れたんかよ…俺……。」




汗で湿った髪を掻き上げた沖田さんを見て、私は言葉を掛ける。




「着替えた方が良くないですか??」




動けるなら今のうちにと思って言ったものの、彼は寝返りを打って、私に背中を向けた。




「無理。……ダルイ。」




そんな事言ったって…




「そのままだと、余計に酷くなりますよ??」





「………。」




「………。」




促すように言ったが、声は返ってくる事はなく、流れる沈黙。




だが、そんな沈黙を破るように、沖田さんは小さな言葉を発する。




「……る…なら…。」




「え??」




聞き取れなくて、私は彼の体へ顔を近付けた。




「…莉子が手伝ってくれるんなら……着替える。」




何を言い出すかと思いきや…。




私が溜め息にも似た息を漏らしていると……




「ほわっ?!?!」




急に視界が反転して、訳が分からずに間抜けな声が出た私。




自分の体が、ベッドの中に滑り込んで……




「どうすんの??

手伝ってくれんの??」




次に見えたのは、それはそれは絶世の美少年の顔。




……じゃなくてっ!!!!




「沖田さんっ!!!!

ふざけないで下さいよ!!」




焦りに焦った私は、何とか体を起こそうとする。




だがしかし……




「嫌じゃないクセに。」




彼の不適な笑みと、華奢な体つきからは想像がつかない男らしい手が、それを許さない。





「沖田……さん…??」




「前は逃げなかったのに、今は逃げんの??」




私の手首に触れている彼の手が、まだ熱い。




「違います……

沖田さんは病気だから…」




その熱にすら翻弄されてしまう。




「そう??じゃ…アンタに風邪うつすよ。」




…私に対する沖田さんの気持ちは分からないのに……




私は、沖田さんが今からするであろう行動に身を任せている。




「……沖田さん。」




私との距離を縮める彼を拒めない。




マネージャーと芸能人という立場。




分かってる。


分かってた。


分かってるのに……




「もう…止めてやんねぇからな。」




受け入れようとしてる、私も私だ。




「やめて下さい。」




私が受け入れてしまえば、取り返しのつかない事になる。




裏腹な気持ちを抑えるのにも、こんなに精一杯なのに……


ここで身を委ねてしまったら…


私はどう足掻いても、彼から抜け出せなくなる…。





「…女の“やめて”は、“やって”の裏返しだろ。」




油断をすれば流されてしまう思いを断ち切り、今にも溢れそうな涙を必死で堪えて、どうにか唇を動かす。




「……本当に…

やめて…下さい……。」




私の表情の変化に気付いたのか、間近に迫っていた沖田さんの体が離れた。




「…んだよ……。

泣く程嫌なのかよ。」




私の顔からどこかへ視線を変えた沖田さん。




「………。」




…嫌だから泣いたんじゃない。


私が泣いたのは……


どうやっても自分の気持ちが彼に届く事はないからだ。




伝えたいのに、伝えられない。




それに気付いた瞬間に、自然と込み上げた涙。




「もういいよ。

着替えるから、出てけ。」




私が拒んだからだろう。


沖田さんの声は、冷たい音となって放たれた。




「……はい。」




起き上がって、乱れた服と髪を整えながらも返事をし、私は静かに寝室を出る。




扉を閉めた私は、力無くその場にへたり込んだ。





…触れられたり、優しくされると、どんどん好きになっていく。




いつか歯止めが利かなくなるんじゃないかと思うと、それが怖くて仕方ない。




…どこまでを仕事として割り切ればいいのか、その境界線が、だんだん薄くなってきてる……。




でも、彼に冷たくされると、悲しくなるんだ…。




ぐちゃぐちゃな感情が、もっと複雑に折り重なっては積み上がっていく。




マネージャーなんて…


…やらなきゃ良かったのかもしれない……。




そんな気持ちが脳裏に浮かび上がったのは……




…私が彼を好きになってしまったから……。




彼の色んな部分を見て、感じて……


…私の気持ちがそう判断したんだと思う。




この気持ちは、彼に伝える事は叶わない。


誰にも言えない私だけの秘密の気持ち。




今はただ、彼の側にいて、彼を支えよう。


どんな立場であっても、私は沖田さんの近くにいたいから……。




















「うおっ!!!!

ビビったぁ……

何やってんだよアンタ。」




沖田さんの寝室の前で座り込み、物思いにふけっていた私を見て、扉を開いて出てきた沖田さんが、目を丸くした。




「あは……あははは。

沖田さん、お元気そうで。」




何とも言えない乾いた笑い声を出し、沖田さんに言葉を返した私。




「何のドッキリだよ。

こんな所に佇んで…何??

座敷わらしゴッコ??」




いや…


いくら私でもゴッコ遊びで、座敷わらしゴッコは選択しませんから。




「それより、ちゃんと寝てないとダメですよ。」




沖田さんがどこかへ行こうとするので、それを制すように言った。




「うっせぇな。便所だよ。

…しかも、この俺のボケをスルーしてんじゃねぇ。」




私の心配を疎ましそうに返した沖田さんは、さっきの出来事を引きずっているのか、険しく私を睨んでいる。




「あ、そうですか……

御手洗いはあちらです。」




「分かってんよ。

ここは俺ん家だっつの。」





トイレの方向へ差した手が、沖田さんのツッコミによって、やり場がなくなってしまう。




溜め息にも似た息を吐いて立ち上がり、リビングへと移動した。




それから、1分もしないうちに、水の流れる音と共に、沖田さんが出て来る。




彼の顔を見た私は、ある事を思い出した。




「……あの…」




緊張気味に小さく声を掛けると、彼は私に振り返る。




「寝ろっつったり、呼び止めたり、何がしたいんだよアンタは。」




沖田さんの不機嫌な声が、私にドンとぶつかった。




「…ちょっと…待ってて下さい。」




体の前で手のひらを出し、“待って”のジェスチャーをして、私は自分の部屋へと向かう。




…義姉さんから預かった封筒。


沖田さんに渡さなくちゃ。




デスクの引き出しに入れておいた封筒を持って、再び部屋を出た私。




「何それ。」




私が手にしている封筒を指差した沖田さんが言った。




「預かったんです。

一郎さんの奥さんから。」





私が言うや否や、沖田さんは封筒を奪うように取り、中を覗き見ている。




そして……




「……こんなモン貰って来んな。」




沖田さんは、中身を取り出そうともせずに、私に突っ返した。




「手紙……ですか??」




中身を知らない私。


気になってしまい、心の中の声が出てしまう。




「……そうらしいな。」




家族関係の質問を嫌がる沖田さんが、珍しく答えた。




「…だったら……読んであげて下さい。」




…和解しようとしている義姉さんの気持ちを分かっている私は、もう一度封筒を差し出す。




「今更なんだよ。

何されたって、俺の気持ちは動かねぇ。」




私を見ようともせずに、沖田さんは背中を向けたまま、リビングを出て行った。




彼の気持ちは、固く閉ざされたままで……


私はその痛みを知らない。


でも……


向き合いたいと思ってる。




だから……




「沖田さんっ!!」




私は、ノックもせずに、彼の自室へ入った。





「アンタ、マナーも知らねぇの??

俺が裸だったらどうすんだよ。

痴漢の容疑で訴えんぞ。」




ええ…。


そう言われる事は覚悟の上でしたよっ!!!!




「ちゃんと読んであげて下さいっ!!

義姉さんは、沖田さんと仲直りがしたいんですよ!!」




「…アンタの説教なんか聞きたかないね。」




「じゃあ、今から独り言を言うんで、聞いて下さい!!」




「独り言を聞いて下さいなんて言われたの初めてなんだけど。」




こんなやり取りをしていても、何も解決しない。




「義姉さんは、後悔してます。

沖田さんを追い出した事。」




「………。」




私の言葉を聞いているのかいないのか、沖田さんは何も言わないまま。




「…自分から沖田さんを追い出したのに、沖田さんに頭を下げに来た義姉さんの勇気は、凄いと思いませんか??」




「………。」




ダメだ……


うんともすんとも言ってくれない…。




「相当追い詰められてたんだと思います。」





「……知らねぇよ。」




やっとの事で少しの反応を見せてくれた沖田さん。




「分かってあげて下さい。

たとえお金を借りに来たんだとしても、義姉さんは沖田さんを頼ってるんですよ??

沖田さんは、家族に必要とされてたんです。」




そこまで言うと、沖田さんは私に近付いて、切なげな表情を見せる。




「ウザくてデケェ独り言だったけど……

まぁ、手紙読む気にはなったわ。」




良かった……。




ホッと胸を撫で下ろし、沖田さんに手紙を手渡した私。




「理解してあげて下さいね。」




言ってから、部屋を出ようとドアノブに手をかけたが……




あれれ…??


開かない……??


壊れてるのかな??




「……ごめん。

やっぱ一人じゃ読めねぇ。

何が書いてあるか分かんねぇし……。」




頭の上から聞こえる声に顔を上げると、後ろから扉を押し返している沖田さんの手が見えた。




「沖田さん…??」




「悪りぃ……。

莉子が読んで??

そんで俺に伝えて欲しい。」





甘えるような彼の声。


一人で手紙すら読めない沖田さんのトラウマを考えると、私は頷き返すしかない。




「分かりました。」




沖田さんの願いに応えたものの、彼は複雑な表情を向ける。




「……ごめんな。」




きっと、私に情けない姿を見られるのは、あまり快くないんだろう。




「沖田さん。私、伝えるのとかは……

あまり得意じゃないので……声に出して読んでもいいですか??」




私が言うと、沖田さんの表情が少し和らいだ。




「……ん。それでも……いい。」




その言葉を受けて、私は一度、義姉さんからの手紙に目を通す。




手紙には、私の予想通り、今までの後悔と、謝罪の念が綴られていた。




「じゃあ、読みますね。」




私が言うと、ベッドの端に座った沖田さんが、私を直視して口を開く。




「アンタも座れば??」




そう言われた私は、何の気なしに、ぺたんと床に座った。




気を取り直して、手紙を読もうとすると……





「そこじゃねぇよ。

こっち座れ。」




沖田さんは、自分の膝をポンポンと叩き、私に座るように促した。




「なっ、何でですか?!」




言うまでもなく、慌てる私。




「いいから。来て。」




最近になって気付いた。


私は、命令口調の沖田さんよりも、お願い口調の沖田さんに弱い。




「何もしないで下さいね。」




疑うような目で見ながら、私は沖田さんの足と足の間に座った。




「するかも。」




沖田さんのその一言が、座った瞬間に放たれ、私の胴に回った腕が、私の体を逃がさない。




「しないって…約束して下さい…。

……じゃないと、読みませんよ…??」




本当は……


こうしてくれている事が、すごく嬉しくて心地いい。




「分かったから。

……でも…手紙読む間は、このままでいさせて??」




でも……


心と体の距離は縮めちゃいけない…。




「もぉ……。今だけですよ…??」




私の首元に顔を埋めて、小さく“うん”と言った沖田さん。




それを合図に、私は手紙を読み上げる。





「……五郎くんへ…。」




「待て。」




一つ、咳払いをしてから読み始めると、沖田さんがそれを遮った。




背中にいる彼を、横目に映して問い掛ける。




「……何ですか??」




「読むんなら、アイツの声で読めよ。」




アイツの声って……


義姉さんの声でって事??




そう思って、義姉さんに似せるように努めながら、声色を変えてみる。




「五郎くんへ。」




「違う。オネェ系で。」




「テレビでいつも見てるわよぉ~ん。」




「違うな。

ニャンニャン系で。」




「あの時は、ごめんにゃさい。

五郎くんが、黙って家を出て行くにゃんて…」




「やっぱギャル系で。」




「実は、すっごい心配したんだお??」




「シックリこねぇな。

桂三枝で。」




「…良ければまた家に、いらっしゃ~い!!」




「ヘタクソ。」




「……って、人が真剣に読んでるのに、遊ばないで下さいよ!!!!」





気付けば、私は沖田さんに遊ばれていて……




「アンタ、素直過ぎ(笑)

でも、落ち着くのは何でかな。」




だけど、穏やかな様子の彼の声が右耳を貫く。




「もぉ。やめて下さいよ。」




照れ臭くなって、私は口を尖らせた。




「…ハイハイ。…でも、アンタの“もぉ”っての、嫌いじゃないかも。」




冗談めかしたように言う沖田さん。


でも…


今の私は、その言葉に、とろけそうになる。




「遊ばないで下さい。

もぉ…読まないですよ。」




もう一度言ったのは、彼が嫌いじゃないと言ってくれたから。




「お願い。読んで。

莉子の声でいいから。

聞きたい。」




私の声でいいからって…


仕方無しに言ってる…??




でも“聞きたい”と言った沖田さんの一言が嬉しくて…


ドキドキする。




そんな心境で、上擦った声しか出ない私。




それでも彼は時折“ん”と静かに相槌を打ちながら、私の繰り出す声を聞いていた。





手紙を読み終えて、封筒に戻すと、沖田さんは私を抱いたまま、ベッドへ横になる。




「へっ?!?!」




その反動で私の体も自然と横たわるかたちに。




「アンタがいなかったらその手紙…捨ててた。」




私の後頭部の髪が、沖田さんの優しい息使いで揺れる。




「えっと……それは良かったなぁと私も思うんですけど…」




顔が熱くなってきた私…


ヤバし……!!!!




「けど??……なに??」




沖田さんは、それに気付いていない。




今のうちに……




「なな何でもないです。

へっ…部屋に戻って…

番組内容とスケジュールを……覚えないといけないので…」




沖田さんの腕が緩んだ隙を見て、体を起こそうとしたが呆気なくその行動は制された。




「…何で??明日でもいいだろ。」




彼の腕は苦しい程に強く、私の体を引き寄せている。




「………。」




何か喋らないと、心臓の音がバレそうで、必死に言葉を探す私。





「アンタの心臓、絶好調だな。」




笑いを含んだ沖田さんの声が、耳を澄まさずとも聞こえた。




「…沖田さんのせいですよ。

こんな事するから……」




モゾモゾと、身をよじっても沖田さんの力に太刀打ちできない。




「こんな事って??」




「……今してる事です。」




「今してる事って??」




言わせようとしてる…??


そんなの……


恥ずかしくて言えない…




「もぉ……。言わせないで下さい。」




沖田さんにそんなつもりはないのに、勝手に照れている私は頭のイタイ子なのかもしれない……




「ふはっ(笑)

また“もぉ”って言った。」




笑い声の後、髪にキスを落とされたような気がして、私はグッと首を引っ込めた。




「わわ…笑わないで下さいよ。」




前にも感じた事のある、背中越しの体温。




「…アンタの“もぉ”が聞きたいから…

イジメたくなる。」




だけど、それは……


前よりも熱く感じて…





「そりゃ言いますよ。

沖田さん、意地悪だもん。」




彼のこの体温は、風邪をひいてるせいだと分かってるのに……




「でも、前までは言わなかったろ。

何でも“はいはい”って言って、俺の言う事聞いてたじゃん。」




だけど…


風邪のせいじゃなかったら……


彼も私を想ってくれてるんじゃないかと、勘違いしてしまう。




「言う事聞かないと沖田さんが怒るからじゃないですか。」




抱きしめられてるこの腕も……




「別にいいよ。仕事以外なら。」




密着しているこの体も…




「え??」




彼の言葉や声も……




「仕事以外なら、俺は今のアンタがいい。」




……心も…




「今の私……ですか??」




……全部全部…




「うん。

その方が居心地いいから。」




私のものだったらいいのに……




「分かりました。」




でも……


等身大の私をさらけ出す事はできない。




「それと……」




沖田さんは、言葉を切ると、柔らかな指先で、私の髪を耳にかけた。





「……何です…か??」




耳がくすぐったくて、肩をすくめてしまった私。




「その堅っ苦しい敬語、やめろ。」




吐息混じりで、甘く響く沖田さんの声。




「そういうワケには…」




「……やめろっつったらやめろ。」




…こんな事をして、私に命令する沖田さんはズルイ。




「分かりま……んっ…」




“やめろ”と言われたにも関わらず、再び敬語が出そうになって口をつぐんだ。




「襲うぞコンニャロ。」




背後からペシッと軽く頭を叩かれ、首を縮める。




「イタタ……」




そんなに痛くもないのに、次の言葉が見つからなくて、間を繋ぐように呟いた。




「…アンタは……アンタだけは…俺から離れんなよ…。」




沖田さんらしくない気弱な言葉が、私の心を揺らす。




「…どうして……そんな事言うの…??」




“離れろ”って言われたって、離れたくない。


この腕を、いつまでも離さないでいてほしい。


私はそう思ってるのに…





「一人だった……。

ずっと…今まで……。

寂しかった。」




孤独感を抱きながら…


孤独だけを感じながら…


今まで走り抜けてきた彼の人生。


“寂しい”と言ったのは、沖田さんの本音だと確信した。




「……沖田さん…」




「…みんな俺から離れて行くんだ。

アンタも最初はそうだった。」




“大丈夫だよ”


こんな言葉で癒やされる程、彼の心の傷は浅くない。




「……それは…」




「…でも……戻って来た。」




震えるように話していた彼の声が、少し和らいだような気がする。




「うん。」




「本当は芸能界になんか入りたくなかった。」




彼のペースで、ゆっくりと語られる本音に、私はそのまま耳を傾ける。




「嘘クソの笑顔作って、嘘クソの自分でいる事が息苦しくて…

けど……生きてく為には仕方なかったんだ。」




家を飛び出して、どこにも居場所がなくて、路頭に迷っていた彼。




…どれだけ寂しい思いをしただろう……。




そう思うだけでも、胸が詰まる。





「……莉子。」




「ん??」




黙って彼の話を聞き続けていた私を、ふいに小さな声が呼んだ。




「こっち…向いて。」




そう言われて寝返りを打つと……




「……泣いて…るの??」




沖田さんの瞳から、涙がつたった跡が目に映る。




「………。」




何も答えない沖田さん。


私は、そんな彼の頬を、両手で包んだ。




「涙は…悲しい事よりも、嬉しい事の方が沢山出るから。

ほら……ね??

もう出ないでしょ??」




彼の頭をポンポンと撫でると、私の背中に回された沖田さんの腕に、力がこもる。




「本当は……あんな仕事したくねぇ。」




「……うん。ごめんね。

私のせいで…。」




「…でも……アンタが俺から離れるくらいなら、やってやる。」




「ぅん……。」




「だから……」




沖田さんの言葉の先が気になって、彼の唇の動きに集中した。




待てども、その先が出てこない。


だけど…私には、分かった。





言い出せない様子の彼を見て、私は問い掛ける。




「…頑張れって…言って欲しいの??」




「………。」




声は返ってこない。


でも、彼は首を縦に振って、自分の気持ちを私に伝えた。




「私は、沖田さんを信じてる。

沖田さんならできるって。

私もどこにも行かない。

沖田さんが頑張ってる姿を近くで見せて。」




言った後、力一杯に沖田さんを抱き締め返す。




「ありがと……莉子…。」




…私からは絶対にしてはいけない事。


だけど、沖田さんを抱き締める行為は止められない。


止める事を知らない…。




沖田さんから孤独を取り去れるのなら……


私はいつだって彼の側にいる。




沖田さんが、何にも負けない強さを手に入れられるのなら……


私は、彼を助ける存在でありたい。




特別な存在になれなくたっていい。




沖田さんに必要とされているなら……


必要とされ続けていたい。




いつか……


彼にとって、私が必要の無くなる日が来ても……





















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