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泣き虫男は俺様アイドル  作者: 陽芽子
12/24

一波乱ありまして





















◇◆2日後◆◇




そして、迎えた日曜日。




私と沖田さんは、事務所に立ち寄ってから、専用車でテレビ局へ。




「…会議って……ここですんのかよ。」




専用車から出た沖田さんは、そう言って顔を歪ませた。




「はい。ここです。」




おそらく彼は、三郎さんがここに勤めている事を知っている。




「まぁいいや。行くぞ。」




承知の上で、決意したように言った沖田さん。




「はい。」




私は、そんな彼を追いかけて、テレビ局内へと入った。










会議室へ入った私と沖田さんは、一人のスタッフから、椅子に座るように促される。




座った途端、再び開いた会議室のドアから、様々な番組スタッフがなだれ込んだ。




ホワイトボードに、広い机……


いかにも“会議”って感じだなぁ……




空気に流されていると、沖田さんが急に席を立つ。




「帰る。」




短く言い残し、彼は足早に会議室のドアを開けた。





「沖田さん!!」




呼び掛けながら、その背を追う私。




会議室を出て、スタスタと歩く彼の服の裾を掴んだ。




「離せよ。」




彼が会議室を出た理由。


それは……




「久々だな、五郎。」




後ろから聞こえた声の主を見たせいだ。




「その名前で呼ぶな。」




声の主に向かってゆっくりと振り返った沖田さんは、相手を睨んだ。




「三郎さん……。」




声の主は、三郎さん。


こうなったのは、三郎さんが関与している事を言わなかった私にも責任がある。




「アンタの様子がおかしいと思ったら…

こういう事かよ。」




沖田さんは、三郎さんから私に視線を変えて睨んでいる。




「後で分かる事ですし…

別に隠してた訳じゃ……」




「じゃあ何で言わなかったんだよ。」




私の言葉を食い気味で返した沖田さんの表情は、不機嫌そのもの。




「もうそのくらいにしとけよ。」




すると、三郎さんが私と沖田さんの間を割って入った。





「アンタもだ。

…俺に仕事くれるとか、どういう風の吹き回しだよ。

…親切心のつもりなら、そんなモンいらねぇっつの。」




今度は、三郎さんを相手に牙をむいた沖田さん。




「おい。いい加減にしろよ、五郎。」




三郎さんは、沖田さんの側まで来ると、彼の肩を掴む。




「何度も言ってんだろ。

俺は五郎じゃねぇよ。

沖田 流星だ。」




沖田さんは、まるでハエを避けるように、三郎さんの手を肩から払った。




「お前が沖田 流星を名乗りたいなら、プロになってからにしろ。」




「はぁ?!?!」




溜め息を吐きながら言った三郎さんの言葉に、沖田さんは反抗的に返し、尚も二人の睨み合いは続く。




「仕事に私情を挟んで、周りを掻き乱すなって言ってるんだよ。」




「………。」




三郎さんの一言に、沖田さんは苦虫を噛み潰したように押し黙った。




私は、そんな二人のやり取りを、複雑な気持ちで見ている。




「…ここでお前が会議室に戻らなかったら、俺はお前を“沖田 流星”とは認めない。」





そう言った三郎さんは、踵を返して会議室へと戻って行く。




「……ったく…。

分ぁったよ!!」




近くにあったゴミ箱を、八つ当たりするように蹴り上げた沖田さんは、三郎さんに続いて歩いた。




私も、その後ろを慌てて追って、無事に会議室へと戻る。




「これでやっと……会議ができるな。」




三郎さんは、上座に座り、本題に入る。




「アンタ、帰ったら覚えとけよ。」




耳元でボソッと囁かれた沖田さんの凍てつくような声に、私はビクリと肩を揺らした。




「もう本当にすみません。

何でもしますから。」




小さな声量で頭を下げると、沖田さんは怪しげに笑う。




「その言葉、忘れんなよ。」




「………??」




彼のその表情に、私は首を傾げるのだった。




「そこの二人。

会議中にイチャつくな。」




三郎さんに指摘されて、スタッフの視線が、私と沖田さんの二人に集まる。




「イチャついてねぇし。

苛めてただけ。」





素知らぬ顔で沖田さんが答えると、周りからドッと笑いが起こった。




そこ……


笑うとこ…??




一人だけ笑えない私は、三郎さんに目で助けを求める。




「ハイハイ。そこまで。」




手のひらを二度程打って、三郎さんが話を変えた。


そして、会議を進める。




「今回の特撮のテーマは……」




「ちょっと待てよ。

特撮だと?!?!

聞いてねぇんだけど!!」




三郎さんの言葉を遮り、沖田さんは勢い良く立ち上がる。




「できないってか??

やっぱりお前はプロじゃないな。」




三郎さんは、沖田さんを挑発するように口の端を上げた。




「……そんなんじゃ……ねぇし。」




その挑発が利いたのか、沖田さんは力無く椅子に座り直す。




沖田さんが座ったところで、三郎さんが仕切り直した。




「今回の特撮のテーマは、武器を使わない戦士。

その名も……

“顔面ライダー”だ。」




顔面ライダー?!?!


仮面じゃなくて……


顔面…??





番組の主旨に首を捻っている私。




その間にも、三郎さんの言葉は続いていた。




「顔面ライダーは、変身すると顔面が大きくなる。」




それを聞いた沖田さんは、“やってられない”とでも言いたいように、番組の資料を放り投げる。




「何だそりゃ。」




沖田さんの気持ちは分からなくはない。




本当にそんなので、子供受けするのかな…。




ある意味、不安だが、今はこの仕事に賭けるしかない。




どの道、仕事は仕事なんだし……


沖田さんも分かってくれるよね。




そっと横目で沖田さんを窺うと、つまらなさそうに、頭の後ろで手を組んでいた。




「オンエアは2ヶ月後。

撮影は一週間後。

急だけど、みんな頑張ってくれよ。

んじゃ、会議は終了。」




三郎さんの最後の言葉で、スタッフは慌ただしく会議室を出て行く。




会議室には、私と沖田さん、三郎さんの3人が残った。




嫌な予感しかしないこの空気に、言わずもがな緊張が走る。





すると、沖田さんが三郎さんを睨みつけて口を動かす。




「…絶対……アンタに、“沖田 流星”って呼ばせてやるよ。」




「楽しみにしてるよ。」




沖田さんの言葉を受けて、三郎さんは大人な笑みを浮かべた。




「ボォーッとしてんじゃねぇよ。

行くぞ、チンチク莉子。」




沖田さんは私にそう言うと、早々と会議室を出る。




「あ…待って下さい!!」




それに続こうとすると…




「莉子ちゃん。」




優しいトーンで呼び止められた。




「はい……??」




三郎さんに向き直ると、柔らかい笑みで迎えられる。




「頼むね。アイツの事。」




三郎さんに言われると、すごく信頼されているように思えた。




「任せて下さい。」




私は軽く会釈をしてから、会議室を出て、沖田さんを追いかけた。











―――車に乗り込むと…




「…ただでさえイラッとしてんのに。

アンタ、俺をキレさせる才能だけは抜群にいいな。」




なぜ沖田さんが怒っているかというと……





「すみません。

三郎さんと少し話してて…」




ちょっと遅れただけなのに、短気だなぁもぉ。




沖田さんは、行動が遅い私に苛立ったらしい。




「話って何だよ。

俺のいねぇとこで話してんじゃねぇよ。」




「ごめんなさい…。」




走行する車の中、謝った後のエンジン音が、虚しく響く。




「…コソコソ兄貴と会いやがって。」




「別に……コソコソ会ってたワケじゃないですよ。」




ビクビクしながら反撃するが、見事に私の予想通りの結果となる。




「……俺に言わなかっただろーが。

それをコソコソと言わずして、何と言うんだよ。

俺が納得いくような答えを10文字以内で言ってみろ、バァーカ。」




やっぱりこの人には適わない……。




「それは…その……

偶然の事故っていうか…」




「10文字オーバー。

つか、言い訳なんか聞きたくねぇし。」




私の声に、沖田さんの声が重なって、それ以上は言わせてもらえなかった。




















沖田さんのマンションへ、そのままトンボ返り。




帰宅して早々……




“ドンッ!!!!”




背中に衝撃が走った反動で、私はギュッと目を閉じた。




「おい。俺を見ろ。」




すぐ近くで聞こえた声に、目を少しずつ開けると……


自分の体が、沖田さんによって壁に押し付けられているのが分かる。




「……な…」




沖田さんの気迫に、私の声は言葉になって出てこない。




「約束しろ。

…もう…俺に言えねぇ事すんな。」




鷲掴みされた手首。


彼の強い力に、私は無言で何度も頷いた。




「そういえば……

アンタ、言ってたよなぁ。」




ほんの数秒で妖艶な笑みに切り替わった沖田さん。




「……は??」




短く問い返すと、沖田さんは、私の頬に手を添えた。




「“何でもしますから”って。」




あ……


言ったような気が……




「い…言いましたけど…」




「有言実行しろよ。」




沖田さんの手が……


すごく熱い…。





どどどどうしよう…!!!!


これって……


キスだよね?!?!


前にもこんな事あったけど……


あったんだけどっ!!!!


今度は口にされる?!?!


あぁーーー!!!!


もっと入念に歯磨きしとけば良かったよぉ~~~!!!!




自分の配慮のなさに後悔しながら、目玉が奥へ引っ込むほど、固く目を閉じている私。




今、どんな状態なのか…


沖田さんがどの辺まで顔を近付けているのかも分からない…。




でも…


確実に近付いてくる気配はあるワケで……




すると……


ふいに、沖田さんは私の頬からスッと手を離した。




え……??




目を開けるが、沖田さんの姿はない。




ふと、足元に重みを感じて、目を下へ向けると……




「沖田さんっ?!?!」




ピクリとも動かない彼が、倒れるように横たわっていた。




しゃがみ込んで、沖田さんの体に触れると、尋常じゃないほどの体温。




手が熱かったのって……


熱があったからなんだ…











ダメだなぁ私……。




沖田さんを何とか自力で寝室へ運んだ後、落ち込みふける私。




自分の心臓のうるささで、沖田さんが倒れた音にも気付かなかった。


その上、沖田さんの体調の変化にも気付かないなんて……。




苦しげに唸っている彼を見て、口から出るのは溜め息。




「…沖田さん、氷枕取ってきますね。」




呼び掛けるように言ってから、一度寝室を出る。




台所へ行き、冷凍庫を開けるが、氷枕らしきものはなく…


仕方なく買いに出る事に。




あっ…そうだ。


玲子ちゃんにも連絡しとこう。




ケータイと財布を持ち、私は外へ。




歩きながら、ケータイを操作し、玲子ちゃんへ電話をかける。




《ハイハァ~~イ♪》




いつものテンションで、玲子ちゃんが電話に出た。




「玲子ちゃん、あのね。

沖田さんが熱出しちゃって……」




《流星が?!?!

馬鹿は風邪ひかないってのは、迷信なのね。》




玲子ちゃん……


沖田さんが聞いてたら、絶対怒るよ。





彼が怒っている表情を、思い浮かべながら言葉を続ける。




「撮影は一週間後なんだけど……

主題歌も沖田さんが歌う事になってて……」




《ダイジョブよ~~♪

流星は、そんなヤワじゃないから(笑)》




私とは対照的に、玲子ちゃんは呑気な声で言った。




「でも…風邪ひいちゃったら、声がちゃんと出ないんじゃ……」




沖田さんを思う私にお構いなく、玲子ちゃんは明るく言う。




《そんなに心配したら、莉子ちゃんが倒れちゃうわよ!!》




玲子ちゃんにそう言われたものの、私の不安は募る一方だった。










―――それから……




必要な物だけを買った後、私はマンションに戻る。




すると……


どこかで見た覚えのある人影と出くわした。




相手は、私の姿を見つけると、軽く頭を下げる。




「こんにちは。」




「あ……どうも…。」




それに流されるように、私もペコリと頭を動かした。




初対面ではないが、不穏な空気が漂っている。





「…あのね……会わせてもらえないのは分かってるんだけど…」




人影の正体は、沖田さんの義理のお姉さん。


一郎さんの奥さんだ。




「沖田さんに…何かご用ですか??」




何か言いたげな義姉さんを見て問い掛けた。




「…五郎くんにちゃんと……謝りたくて…」




ポツリと呟いた義姉さんは、おずおずと真っ白な封筒を私に差し出す。




「…これを…沖田さんに渡せばいいんですか??」




戸惑いながらも、それに手を伸ばして受け取った。




「お願いできるかな…??」




義姉さんは、緊張の面持ちで私を見ながら、小刻みに肩を震わせている。




「分かりました。」




そんな義姉さんを前に、アッサリとした口調で私が言うと、緊張が解けたのか強張っていた肩を、ゆっくりと下ろした義姉さん。




「ごめんなさいね…本当に……。

五郎くんも大変な時だって言うのに……一郎にも“何やってるんだ”って、叱られたわ。」




義姉さんはそう言って、自嘲気味な笑みを私に向ける。





「いえ……。私なんか、事情も知らないのに……ついカッとなってしまって…」




言葉を選びながら口に出すと、義姉さんにポンと肩を叩かれた。




「…いいのよ。アナタが言ってた事は、本当の事だから。」




柔らかなトーンで言われ、胸の中でつっかえていた物が取れた気がする。




「そう言ってもらえると、ありがたいです。」










その後、お姉さんと別れ、再びマンションへと戻った。




台所で、買ってきた物を広げながら、一人思う。




わだかまりを解消しようと、義姉さんも必死なのかな…。




そう思うと、今の状況を伝えて、無理にでも会わせれば良かったんじゃないかと、後悔が過ぎった。




預かった封筒を見つめて、一つ息を吐く。




沖田さんが元気になるまで、渡さない方がいいよね…。




一旦はテーブルに置こうとした封筒を持ち直して、私は自分の部屋へと足を向けるのだった。

















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