表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
泣き虫男は俺様アイドル  作者: 陽芽子
11/24

実感しまして





















◇◆数日後◆◇




それから数日経ったある日。




私はついに実感する。




私……


マネージャーの仕事全然してないや…。




自分の不甲斐なさに言わずもがな溜め息が出る。




沖田さんは、放っとけばいいって言ってたけど…


…いつまでもこのままでいいワケないし。


やっぱり自分から動かなきゃ。




そう思い、事務所にて、近々行われるオーディションリストに目を通していた。




「最近仕事熱心ね。」




私の姿を見つけた玲子ちゃんが、事務所の一室の長椅子に座る私に言った。




「うん。あんな騒動の後だし。

…やっぱり、こっちから動かないとと思って。」




当然の事をしているのに、褒められるとは思っていなく、照れ笑いを浮かべながら返した私。




「いいんじゃない??

そういう考え方は、嫌いじゃないわよ。」




そう言って、玲子ちゃんは元気付けるように、私の肩に手を置く。





「でも、沖田さんの反応はイマイチなんだよね…。」




最近、私が仕事の話をすると、沖田さんは機嫌が悪くなる。




“放っときゃいいんだよ。”




“そんなに俺を、働かせてぇのか??”




とか言われちゃったし…。




「今が勝負だからね。

頑張りなさい。

何かあったら言ってね。」




私を励ました玲子ちゃんは、それだけ言って部屋を出て行く。




玲子ちゃんの背中から、再びオーディションリストの紙に視線を移した。




私が頑張らないとね。


やるんだ私!!!!




自分で自分を一喝しながら、電話の受話器を取る。




オーディション主催の、様々な会社の連絡先。




それら一つ一つに片っ端から電話をかける。




「あっ…もしもし。

…アライブ芸能事務所の藤瀬と申します。」




《アライブ芸能事務所の藤瀬さん??》




「あ…はい。」




《沖田 流星のマネージャーの??》




「そうです。」




だが……





《何の用かな??》




「えっと…今度行われるドラマのオーディションなんですけど……」




《もしかして、応募するつもり??》




「……はい。」




なんか……


電話の相手の人、雰囲気悪いなぁ…。




《オーディション受けたところで、無駄だと思うよ。

それに、沖田 流星の応募は認められない。》




「そんな……」




《じゃ、忙しいから切るね。》




引き止める間もなく受話器からは、電話が切れた後の虚しい機械音が放たれた。




オーディションも受けさせてもらえないなんて……




ガッカリして、先程電話した会社の欄に、赤線を引く。










その後、電話をかけ続けたが、どこも同じような反応だった。




赤線だらけのオーディションリストを見て、フーッと溜め息を吐く私。




ダメだなぁ。


八方塞がりだ。




窓の外に目をやると、既に真っ暗。


街灯とネオンが、煌々と光っている。




今日はもう帰ろう…。





事務所を出て、トボトボと歩く。




以前、料理本を買った本屋が、何となく目についた。




店前に置かれている週刊誌を手に取ると、そこには……




“沖田 流星、芸能界引退か??”




“愛の逃避行??”




などなど、好き勝手に、面白おかしく書かれていた。




フン!!


何だい何だい!!


みんなで寄ってたかってさっ!!!!




心の中で怒りを感じながら、本当は投げつけてやりたい週刊誌を、そっと棚に戻した。




と、次の瞬間……




「ねぇねぇ!!」




「キミさぁ、沖田 流星のマネージャーだろ??」




テンションの高い声に、次々と囲まれる。




「え……」




気付けば、私の周りは、ちょっとした人だかりができていた。




「ねぇねぇ♪沖田 流星とヤったの??」




下品な質問や……




「絶対遊ばれてるって(笑)!!」




私を侮辱するような言葉が、次々と飛んでくる。




そんな中……





「莉子ったらヒドイなぁ。」




左の方から声がしたような気がして、相手を見る。




しかも……


莉子って……


私?!?!




「…アナタ……だ…」




「俺という存在がありながら、沖田 流星と浮気??」




“誰??”と聞きたかった私の質問が見知らぬ男性によって遮られた。




「…いや……私…アナタの事……」




「さぁ、家に帰ろ??」




“知らないし”とも言わせてもらえない。




私を囲む周りの人たちも、呆然とその男性を見ていた。




「……帰ろうって言われても…」




「莉子。ケンカの続きは家でしよ??ね??」




再び言葉を遮られたかと思いきや、今度は力強く手首を引かれる。




「ちょっ……!!!!」




「あははは(笑)」




慌てる私にお構いなく、男性は陽気に笑っている。




何なのこの人!!!!


ワケ分かんないんですけどっ!!!!




















手を振り解く事もできず、連れられるがままの私。




「あのっ!!!!」




耐えきれず、大声を張り上げた。




「メンゴメンゴ♪

手、痛かった??」




“メンゴ”って……


死語なんじゃ…




「アナタ誰なんですか??

何で私を知ってるんですか??」




立ち止まり、ようやく離された私の手首は、赤くなっている。




「…いきなり質問責めだねぇ。

ハイ。僕は、こういう者です。」




名刺を目の前に差し出され、そこに書かれた文字を読み上げる。




「たなか……さぶろー??」




「そうだよん♪

“サブちゃん”って呼んでね♪」




何だか分からないけど…


テンション高……




……っていうか……




「田中 三郎って……」




私が何か思い出したように言うと、男性はニッコリと笑う。




「あ、分かっちゃった??

田中家三男の三郎でぇ~す♪

僕チン、五郎の……っていうか、沖田 流星のお兄ちゃんでぇ~す♪」




ちゃ……チャラい…。


てか、沖田さんのお兄さんって事は……





私が無言で三郎さんを見つめていると、彼の口が言葉を放つ。




「ちょっと話さない??」




この人も…


沖田さんをたらい回しにした張本人なんだよね……


でも、悪い人じゃなさそうだし…




「分かりました。」




そう返事をして、近くのレストランへ向かった。










「何でも好きな物頼んでね♪

オジサン、可愛い子には奢っちゃう♪」




自分の事を“オジサン”って……


一体いくつなんだろう。




「じゃ…コーヒーで。」




少し緊張気味に言って、ペコリと頭を下げた私。




「そんなのでいいの??

もしかして、お腹すいてない??

オジサンはステーキセット頼んじゃおっかなぁ♪

こう見えても、胃は現役なんだよね♪」




話が……


前に進まない…。




「すみません。

家で沖田さんが待ってるので……

その…手短にお願いできませんか??」




私が言うと、二つ折りのメニュー表をパタンと閉じ、コーヒーを二つ注文した三郎さん。





「何から話そうかなぁ…。」




コーヒーを片手に、三郎さんはどこかへ視線をさまよわせている。




「………。」




私は、何も言わずに三郎さんの言葉を待っていた。




「…アイツ、俺の事恨んでる??」




問い掛けられると思っていなかった私は、焦って言葉を探す。




「どうして…ですか??」




問い返す事で相手の反応を窺うしかなかった。




「…恨まれても当然だからさ。

俺はアイツの事、守ってやれなかったし。」




後悔するような三郎さんの言葉に、私は疑問を抱く。




「え……??」




「アイツを引き取ったはいいんだけど…

俺は仕事で忙しくてね。

丁度海外へ出張してる間に、アイツは出て行ってしまったんだ。」




三郎さんの声は、悔しさが滲み出ているようだった。




「そうだったんですか…。」




頷くと、三郎さんが話し続ける。




「…もっと俺が、構ってやりゃあ良かったんだけど……

…俺の嫁さんがね、気が強いヤツで。

実質、アイツは嫁さんに追い出されたようなもんだ。」





確か……


一郎さんの家を出たキッカケもそうだったような……




「…三郎さんの奥さんと仲が悪かったんですか??」




私が言うと、三郎さんは苦笑を浮かべる。




「…奥さんっていうか、“元奥さん”ね。」




「離婚されたんですか??」




核心を突いた私の質問を、三郎さんは受け流す。




「…まぁ、この話しは、置いとこうよ。

五郎の話をする為にキミを誘ったんだし。」




「……あ…ハイ。」




三郎さんのごもっともな言葉に、私は下を向いてしまう。




「聞いたよ。

五郎の仕事、探してるんだって??」




その問い掛けに、俯いていた私の顔が上がる。




「何で……それを…??」




途切れ途切れに言うと、三郎さんの表情が柔らかくなった。




「名刺見なかった??

オジサンこれでも、テレビ局のプロデューサーなんだよん♪」




ポケットにしまった名刺を慌ててみると……




「ホント…だ……。」




某テレビ局の名前の下に、三郎さんの名前が書かれていた。





「アイツは俺と仕事やりたがらないだろうけど…

アイツにピッタリの仕事があるから、良かったら、五郎に話してもらえなかな??」




真剣な表情に切り替わった三郎さんは、私を真っ直ぐに見ている。




「何ですか…??

ピッタリの仕事って。」




「ヒーローの役。」




ヒーロー?!?!


そんな大役を……


沖田さんが?!?!




「そんなお仕事を任せてもらえるんですか?!?!」




興奮気味の私は、言うまでもなく鼻息が荒くなった。




「ヒーローって言っても、特撮のね。」




特撮……??




三郎さんの返答に、一瞬固まった私。




「もしかして……」




言いかけると、三郎さんが口を開く。




「変身して戦うヒーロー。」




それを聞いた私は脱力感に襲われた。




「あの……一応話してはみますけど…」




気まずそうに頭を掻く私を見て、三郎さんがその先を知ったように言う。




「断るだろうねアイツは。

しかも、俺と一緒だって分かったら、断る確率は格段に増える。」





…っていうか、沖田さんに全然ピッタリの仕事じゃないんじゃ……




でも……




「沖田さんに、この仕事を受けてもらいます。

誰が何と言おうと、私が受けさせます。」




今は…


仕事を選んでる場合じゃない。




「頼もしいねぇ。

こんな可愛いマネージャーがいるなんて、五郎が羨ましいよ。

んじゃ、頼んだよ。」




目を細めて私を見た三郎さんからの優しい言葉。




「はい。必ず。」




そんな三郎さんの期待に応えられるように、私は固く決心をした。




「出ようか。」




一通りの話を終えて、私と三郎さんは、レストランを出る。




「ご馳走さまでした。」




一礼すると、申し訳なさそうな三郎さんの声が返ってくる。




「仕事で送ってあげられないんだけど、気を付けて帰ってね。」




「大丈夫です。

ありがとうござます。」




そう答えると私とは反対方向に背を向けた三郎さん。




それを見届けて、私も踵を返した。





















―――そして……。




「ただいま帰りました。」




一言口にしてから、部屋の中に入った私。




「遅いじゃねぇの。」




椅子に座り、足を組んでいる沖田さんが目に入る。




「ちょっと……仕事してました。」




三郎さんに会っていたと、すぐには言えなくて、何となく気まずさを感じた。




「ふぅーん。」




興味なさそうに言った沖田さんは、ペットボトルを口にしている。




「着替えてきますね。」




制服のまま仕事をしていた為、私は自分の部屋へと足を向けた。




だが……




「本当はどこ行ってたんだよ。」




「……え??」




後ろから肩に手を置かれ、振り向かせられる。




「本当に…事務所で仕事してただけで……」




「……あの姪っ子馬鹿の女社長が、アンタをこんな時間まで働かせるワケねぇだろ。」




もう夜の9時前。


沖田さんの言ってる事は、図星だ。





「ごめんなさい。」




謝ったものの、やっぱりそれ以上は言えなくて、口をつぐんでしまう。




「別に、知ったこっちゃねぇけどさ。

一緒に住む方としては、心配するっつーか……」




「心配してくれてたんですか??」




沖田さんが“心配”と言ったのを聞き逃さなかった私は、すかさず問い掛けた。




「アンタ、一応女だし。

胸はペッタンコだけど。」




一言多いなぁもぉっ!!!!


いい雰囲気が台無しじゃないかっ!!!!




「大丈夫です。

胸はペッタンコなんで。」




口を尖らせて言ってから、もう一度自分の部屋に向かおうとした。




「待てよ。まだ話は終わってねぇだろ。」




話を戻されて、再び言いようのない緊張感に包まれる。




「えっと……」




言葉を選んでいる間も、当たり前だが、この空気は変わらない。




「言えねぇのかよ。」




そうじゃない。


そうじゃないんだけど…




「先にご飯にしましょう。

…その時に……話しますから。」





私が言った事に納得してくれた沖田さんだが、どこか複雑な表情を私に向けて、ソファーに座り直した。




それを見受けて、私は自分の部屋へ行く。









―――暫くして。




部屋着に着替えてから、夕食の準備に取りかかっていると……




「うっわ……。

帰りが遅せぇ上に手抜き料理かよ。」




嫌味を含んだ声が、背後から飛んだ。




「すみませんね。

材料もないし、夜も遅いので。」




あしらうように言うと、倍になって返ってくる。




「焼きそばとか腹の足しにもなんねぇよ。

しかも、キャベツ焦げてるし。

俺、この歳でガンになりたくねぇ。」




私が手にしているフライパンを、後ろから覗く沖田さんが言った。




「今日はこれで勘弁して下さい。

頑張って料理も覚えますから。」




私が言うと、沖田さんは“フッ”と息を漏らす。




「しゃーねぇなぁ。

焼きそばくらいまともに………」




そこで切れた言葉に、私は沖田さんの顔に目を見やった。





「どうしたんですか??」




いつものリズミカルで、軽快な嫌味が途切れたので、不思議に思って聞いてみると……




「…アンタ……マジで…どこで何してたんだよ。」




沖田さんの視線は、ある一点に向けられおり、その目は見張っている。




「…これは……何でも…ありません……。」




私は、沖田さんの視点に気付き、隠すようにして、自分の手を後ろにやった。




「手首、赤いけど。

どんなプレイしたんだよ。」




そう……


三郎さんに強引に引かれた手首が、赤く腫れているのを、沖田さんに見つかってしまったのだ。




「本当に…何でもないんです。

……ちょっとトラブルがあったというか……」




曖昧に笑って返すが沖田さんの顔はより一層険しくなる。




「どうせボォーッとして、どこぞの男に連れて行かれそうになったんだろ。」




す……凄い…。


ちょっと当たってる…。




「それも含めてお話しますから。

座って下さい。」





台所から押し出すようにして、沖田さんを椅子に座らせた。




「人に心配かけといて、横暴だなぁオイ。」




言いながら、渋々と椅子に腰を掛けた沖田さん。




「いつも横暴なのは沖田さんじゃないですか。」




聞こえるか聞こえないかの声で呟くと、私は焼きそばが盛られたお皿を沖田さんの前に置く。




「心労だってのによぉ、焦げた焼きそば食わされるし。」




「文句言うなら食べないで下さいっ!!!!」




お皿を引っ込めようと手を伸ばすと、その手を彼に掴まれた。




「話してもらおうか。

コレの理由。」




そう言って、沖田さんは私の赤く腫れた手首を見る。




「……はい。」




手を離された後、私は力が抜けたように椅子に座った。




「……で??なに??

…またアンタのみっともねぇ話??

笑う準備できてるから。

早く話して。」




本っっっ当にこの人は…


嫌味を言わせたら、天下一品というか…


嫌味選手権で1位を獲れる逸材だ。





なんて……


思ってる場合じゃないよね…。




思い直して、私は沖田さんを見据える。




「今日…一般の人に囲まれちゃったんです。

“沖田 流星のマネージャーだろ”って…。」




「やっぱりな。

アンタ、ドン臭いから。

そんなこったろーと思ったよ。」




沖田さんは、呆れたように言って、焼きそばを頬張った。




「でも、助けてくれた人がいて……

…その人が……偶然にもテレビ関係の人で…」




その人が三郎さんである事はあえて告げずに言葉を続ける。




「その人が、沖田さんに仕事の話を持ちかけてくれたんです。

私も…是非、沖田さんにその仕事を受けて欲しくて……」




沖田さんを見ると、目を丸くして呆然と私を直視している。


その口からは、一本の麺がプラーンと垂れていた。




「仕事……??」




気を取り直した沖田さんは、垂れていた麺をすすって、私に問い返した。




「はい。」




小さく頷きながら答える私。





「仕事って何??」




再び質問が返ってきて、どう答えようか迷うものの、何とか言葉を紡ぎ出す。




「…子供が……喜ぶ仕事です。」




「ザックリしすぎだろ。

具体的に言えよ。」




漠然とした私の答え方が悪かったのか、間髪入れずに沖田さんにツッコまれた。




「でも…やりがいがあるお仕事だと思うんで……

…会議だけでも参加してもらえませんか……??」




肩を強ばらせながらも、恐る恐る言うと、沖田さんは言葉を放つ。




「別に暇だし。

…付き合ってやらなくはねぇけど。」




ぶっきらぼうだったが、私はその言葉に、心の中でガッツポーズを決めた。




「会議は明後日です。

ちょうど日曜日ですし、学校も休まなくて済みますから。」




「あぁ。」










こうして……


ようやく一つの希望が、見いだせる結果となり…


私の思惑は、期待へと、真っ直ぐに向かうのだった。





















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ