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有意義な一夜漬け

 めずらしく弥生が、

「勉強のことで相談がある」

 と言ってきた。弥生の頭に雷でも落ちたのかと思うくらい、内心驚きつつも、正太郎は一体なんのことかと聞いてみたら、

「効果的な一夜漬けをするにはどうしたらいいと思う?」

 なんてことを言ったのだった。一夜漬けに効果的も何もあったものではないので、とっさに俺は、

「そんなものはない」

 と即答したのだった……。


 時は少し遡る……。

 学校にて、昼休み中のこと。

「おいおい君、何をしてるのだね?」

 と弥生が訊ねた先には、おそらくクラス一のバカ(いい意味でも悪い意味でも)である望月康太(もちづきこうた)が机で鉛筆をコロコロ転がしているのだった。

「ああ、見てわかるだろ? 絶対必中ペンシル3号さ!」

「絶対必中ペンシル……?」

「おそらく、運だのみのくだらない代物のことだろう」

 と、ここで正太郎がその会話の中に加わる。

「うっ、貴様は堂島正太郎……! 最強の正解率を誇る、絶対必中ペンシル2号をあっさりと破って学年の中でもトップクラスの頭脳の持ち主……!」

「テストの点数なら俺と比べなくても、お前は大抵の奴より下回ってるだろうが」

「ぐぐ……。しかし、今回は負けないぞ、なんといってもこの、絶対必中ペンシル3号はさらなる研究に改良を重ね開発された究極の……」

 望月の話は大抵どうでもいい上に長いので、それを遮るように正太郎が訊ねる。

「で、前回のとはどう違うのだ?」

「ふふふ、いい質問だ、堂島正太郎! この絶対必中ペンシル3号は、鉛筆が6面あるのに対し、テスト問題の選択肢が大抵4択の場合が多いため、1から6の番号ではなく、1から4までの番号を振ることで、5、6が出たときに再度振りなおさなくてもいいようになっているのダ!」

「聞かなきゃよかった……」

 心の底からがっかりしている正太郎の横で、そんなことには一切気づきもしない弥生がさらに質問をする。

「でも、1から4だと2面余るんじゃない?」

 確かにそんな気はする。が、かなりどうでもいい。

「ふふふ、それがこの3号に隠された秘密なのだよ」

「おおーっ!」

 とはしゃぎだす弥生。……だめだこりゃ。と、正太郎は二人を置いていつものように図書室へ向かっていった。


 図書室にて。

「うわーん」

 昼休み中の数少ない静かな場所で、突如として室内中に響き渡る子供のような声。

「うわっ、こっちくるな。お前と同等の人間として見られたくない」

 図書室の静けさを乱したのは弥生で、正太郎は顔を上げて確認するまでもなく、こいつしかいないと悟っていた。

「ひどいー! 私の数少ない頼れる人だと思ってたのに……」

「お前、友達少ないの?」

「……とにかく」

「ごまかしたな」

 弥生は相談があるというので、正太郎は読みかけの本を閉じて内容を聞いてやるのだった……。


「うん、大体把握した」

 正太郎が聞いた話を要約すると、以下のとおりになった。

 望月康太はクラス一のバカだ。

 ところが、今日彼は自家製のインチキ神頼み鉛筆を作成し、その正解率は8割にも及ぶという。(本人談)

 神崎弥生はクラスの中でもテストの成績が五本指に入るほど低い。

 明日からテストが始まる。

 負けたらどうしよう。

 一夜漬けするしかない!

 ……ということだそうだ。

「ええっ!? 正太郎でも効率的な一夜漬けの勉強方法分からないの?」

「分からないんじゃない。そんなものは無いと言っているんだ」

「そんな……どうしよう」

 正太郎を勉強の神と思って助けを求めてきたのが一転、絶望させられたがごとく急に弥生は元気がなくなる。

「このままじゃ私クラスの人たちにバカ認定されちゃうよ」

「たぶん、もうされてると思う」

「テストの点数がうんぬんというより、考え方のプロセスがおまぬけすぎる」

「うう……」

 これ以上言葉責めすると、弥生は本気で落ち込むのでこれくらいにして、

「まあ、テスト対策なら教えられないわけでもない」

「ほんと!?」

 思いのほか勉強をする気がありそうだったので、正太郎は自分の家で勉強会を開くことにしたのだった。

 

「うおー! 正太郎のベッドふかふかー!」

 弥生が正太郎の家にやってきて、まず発した言葉がこれだ。

 おもむろに正太郎の部屋に入って、ベッドにダイブした。

「何しにきたんだ、お前は?」

「まあまあ、よいではないか。今日という日が一日あるならば、明日のテストの対策の練りようもある。さて、まずはしばし休息をとろう!」

「そんなていたらくだから、対策の練りようもなく当日を迎えるんだ。いいからさっさと始めるぞ」

 正太郎は弥生の腕を引っ張る。ずるーっという効果音が似合うくらい、なまけものは床を引きずられていった。

「現実って酷だよね。どうしてこんなことしなくちゃいけないんだろ」


 正太郎と弥生、二人が勉強道具を取出し、いざ勉強を始めてみると意外と静かに勉強がすすんでいくのだった。といっても、正太郎はテストの出題範囲から出題されるであろう問題をピックアップしては弥生に教える作業に専念していたが。

「さすが、正太郎。この私でもすんなり理解できるように説明するとは。やるな!」

「ありていな知識なんて、理解しようと思えば案外難しいものでもないよ」

「いやでも、うちの学校の教師より全然教えるのうまいと思う」

「お前は普段その時間寝てるだろ」

「そりゃあ、私の体内時計的に仕方のない話だよ」

 などと話をしつつ、時計を確認してみるとすでに夜の10時。軽食をとりつつとはいえ、長いこと勉強をしていたことになる。

「そろそろお開きの時間だな。弥生、俺が教えたのをしっかりと覚えておけば80点くらいは確実に取れるはずだ。あとは家に帰って復習すればいいだろう。家まで送ってくよ」

 と正太郎が言うが、弥生は帰る気配がない。というより、机の横に寝袋を敷き始めていよいよ一夜漬け本番というような雰囲気を醸し出している。

「おい……弥生?」

「今日は本気で一夜漬けしちゃうからね~。私がバカ認定されないためにも頼んだよ、正太郎!」

 こういう時の弥生は何が何でも自分の決めたことを通そうとする。今回はいい方向でそれが働いてるわけだが、正直なところ、正太郎はもういい加減明日に備えて早めに寝たかったのだった。それに……、

「弥生も知ってると思うけど、俺の両親は仕事でなかなか帰ってこないんだ。今日もたぶん帰ってこない。だから俺と弥生二人だけだ。弥生の親も心配するだろ、いろいろと」

「あ、そうだった。お母さんから正太郎に手紙預かってたんだった」

 はい、と言って渡された手紙を正太郎は受け取る。仰々しく封筒に入っていたが、すぐに取り出して読んでみた。

 

 弥生をよろしくお願いします。もしかしたら二人きりなのかしら。それでも正太郎クンなら大丈夫だけど。いろんな意味で!


「な、なんだこれは!?」

 いろんな意味って何!? と思いつつ、手紙を仕舞い込んだ。弥生も気になったらしく、

「ねー、何が書いてあったの?」

 と聞いてきたが、別になんでもない、と答え、弥生の親も了承していたということを伝えると、やはり弥生は先ほど同様一夜漬けの態勢をとる。


 その夜、別段変わったことがあったわけではないが、寝ようとする正太郎に対し、やる気満々の弥生が「ここ教えて!」と聞いてくるものだから、とうとう正太郎は寝るのを観念したようだ。

 その後、弥生はテストで高得点。正太郎は寝不足のため、簡単なひっかけ問題につまづき、やや低調な点数だったらしい。


 ちなみにインチキ鉛筆でどうにかしようとしていた望月康太であったが、本番のテストの選択問題は最初の5問程度で、後は自力で解かなければならず、ほとんどの教科で赤点をとったようだ。

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