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コンビニにて

 夜中10時ごろ。

 三日月程度の月が微妙に明るい光を放っていた。

 そんな夜中の道を二人の高校生が――ひとりは気だるそうに、もう一人は愉快そうに――歩いていた。

「まさかこんな時間に家のベルを鳴らして人を呼びつけ、その挙句その用件が『一緒にコンビニいこ!』だとは思いもしなかったよ」

 気だるそうな方の男、堂島正太郎どうじましょうたろうが言った。

「ちょうどこの時間って小腹が空く時間じゃない? だからコンビニで何か買おうかなーって」

「ならば一人で行けばいい。夜中に一人でトイレに行けない子供というわけでもあるまいし」

「悪かったわね子供で……」

 もう一人の愉快そうな少女、神崎弥生かんざきやよいは頬をぷくっと膨らませて拗ねるように言った。

 それから話題を変えようと続けて言う。

「もしかしてコンビニ嫌いだった?」

「ああ、とっても嫌いだ。添加物を大量に含んだ惣菜や弁当ばかり置いてあるし、物の値段が基本的に高い。コンビニに行く人間の気がしれんな」

 隣に並んで歩いている弥生に目を向けつつ言った。

「はいはい。夜中に呼んだりして本当に申し訳ありませんでしたっ!」

「……もうすぐコンビニに着くぞ。着いたら早く用を済ませてこいよ?」

「子供を扱うみたいに言わないでよ……」


 夜中のコンビニの中は静かで寂しげな雰囲気だった。

 二人のコンビニ店員が暇そうに雑談しているだけで、他に客が一人いるだけだった。

「感じわる〜」

「アルバイトの店員など、こんなものだろう」

 と、正太郎はあえて大きな声で言うと、それを耳にした店員がばつが悪そうに、ふと雑談を中止した。そして、

「……いらっしゃいませー」

 店員お決まりの言葉を言うのだった。

「ちょ、ちょっと……。ここのコンビニ私の先輩の知り合いもいるんだから、あんまり変な事言わないでよ……」

 弥生は慌てながら、小声で正太郎を責めるように言った。

「変な事だと? 正論を言ったまでだ。あくまで今この状況での俺とあいつ等の関係は客と従業員。しかも従業員らしからぬことをしていたのを非難した俺には、どこにも非の打ちどころはないと思うのだが」

「よくもまあそんな屁理屈が思い浮かぶものね……」

「屁理屈ではない。事実だ」

 そんな会話をしつつも、弥生はカップラーメンのコーナーに行き、「これだ!」と言ってカップラーメンを選ぶ。今日の夜食は”こってりトンコツ醤油2倍盛り!”定価180円。

「よくもまあそんなものを食えるものだ……」

「そう? おいしいんだけどな……」

 躊躇することなくカウンターへ向かい会計を始める。

 店員の一人が対応するが、覇気は微塵も感じられなかった。

 ピッとバーコードを読み取ると、値段が表示される。店員は値段を言うと袋を取り出して商品を入れる動作を始める。

「あの……ポイントカードお願いします」

「……あ、すいませんでした」

 気だるそうな正太郎よりも気だるそうな店員は、緩慢な動きでポイントカードのバーコードを読み取ると、弥生が既に料金を用意していて、それを預かろうとする。

「えーっと、箸もつけてもらえますか?」

「……あ、すいませんでした」

 まるで心ここにあらずといった感じでお決まりの謝罪の言葉を述べて、箸を一つ袋に入れる。

「……200円からお預かりします」

 あとはおつりを受け取り、会計を終える。

 弥生はおつりとレシートを財布にしまいながら、

「なんか、感じ悪いなぁ……。まあ、用事も済んだし帰ろっか」

 出口方向へ向かっていったのだが、正太郎は何を思ったのか、

「……待ってくれ、俺も買い物していく」

 と言って、正太郎はむっつり顔でレジへ向かう。手にしていたのはおにぎりだった。

 確か添加物がどうのこうのと言っていた気がしたような――と思いつつ、弥生は黙って正太郎を見ていた。

「105円が一点」

 先ほどの店員がピッとバーコードを読み取り、表示された値段を読み上げる。

 そのまま袋におにぎりを入れようとした店員の動きを制するように正太郎が口を開き、

「温めますかと聞かないのか、ここのコンビニは?」

 相変わらず無愛想な顔で言うのだった。店員は舌打ちでもしそうな表情を浮かべつつ、

「おにぎり温めますか?」

 精一杯平常心を装ったぎこちない言葉を発する。

「お願いします」

 特に臆することなく言う。

 店員がおにぎりをレンジに持って行ってる間、

「ポイントカードも俺から言わないと聞きもしないのだろうな」

 それは独り言のようであったが、にしてははっきりと聞き取りやすい声で言うのだった。

 店員が再び正太郎の前へと戻ると、

「ポイントカードはお持ちですか?」

 更にぎこちなく、お決まりのセリフを吐く。

「持ってない」

「……そうですか」

 温め終えたおにぎりを店員がレンジから取り出し袋に入れている間に、正太郎は財布から野口英世を取り出す。

 そしてカウンターに叩きつけるかのごとく、置いた。

「……千円からお預かりします」

「……フン」

 正太郎が鼻で笑ってみせる。なんでだろと思って弥生は少しだけ考えて、そういえばと気が付いた。

「確か千円からって文法的におかしいのよね?」

「ああ。千円頂戴して、そこ”から”105円お預かりします、というのが正しい。

この男の先ほどの発言だと、”から”が何の文節とも連動しないから不適切だ。普段何も考えずに言葉を発しているという証拠だな」

「…………」

 店員は無言だが怒っているようだった。明らかに怒っているようだった。

「なるほどねぇ……。でも、あたしもそんなところまでは考えたことなかったよ」

「考えずとも、普段ちゃんとした日本語を使っていれば、そんな初歩的な間違い方ができることの方が難しいものだ」

「そっかー。じゃああたしの日本語ってちゃんとした日本語になってるかな?」

「少々子供っぽい言い回しなところ以外はまともだと思うが?」

「えーひどいー……」

 と言ってガクリと肩を下げて落ち込む弥生。

「えーと……お客様。お品物を受け取っていただきたいのですが?」

 段々と正太郎の言動にイライラしてきたと思われる店員が、妙に丁寧な言葉で言った。

「……。そうだな」

 と言って受け取ろうとして、

「あれ、これシーチキンか! 昆布が良かったのに間違えちゃった。これ、いらないからあげるよ!」

 弥生は芝居がかった正太郎のセリフを聞いて唖然とする。

「それじゃ!」

 正太郎はスタスタとコンビニを後にした。


 

 からかいたかっただけだろー!!



 と弥生は心の中でツッコミをいれた。

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