神崎弥生の朝
すがすがしい朝。
今日も太陽は普遍のごとくまばゆい光を放ち、町を照らす。
そんな平凡な春が少し過ぎたころのこと。
7時50分。
「えー!! 完璧遅刻だわっ!!」
ゆっくりと流れる時を乱すように、慌ててベッドから飛び起きた一人の少女。
携帯の時計を見て、遅刻を確信した。
それでも彼女はいそいで身支度を始める。
制服に着替えバッグを持つと、立派なあほ毛が一本立っていることにも気づかず、自分の部屋を飛び出る。
「おかーさん、なんで起こしてくれなかったのさ!」
ねぼすけが母親に対して言う、人気ナンバーワンのセリフを放つ。
「起こしたわよ、でも起きなかったじゃない」
それに対するこれまたありがちな返答。
「ああ、あと正太郎君ならあんたのこと迎えに来てくれたけど、いつもどおり先に行ってもらったからね」
堂島正太郎。彼女の幼馴染である。それ以上でもそれ以下でもない。ただの腐れ縁で一緒にいるような奴だ。
「くそう、正太郎め……。女の子であるこの私が迎えに行くと言っているというのに、またしても奴にしてやられた!」
「馬鹿なこと言ってないで、はやく学校行ってきなさい」
至極もっともな言葉。
今日は恥ずかしい気がしたので、食パンをくわえて家を出るのはやめておいた。
「今日も元気じゃのう、あおいちゃんは!」
近所のおじいちゃんである。この遅刻確定の時間帯で家を出ると必ず散歩中のところに遭遇する。つまり、このおじいちゃんの遭遇回数を記憶しておくと、おのずと遅刻回数も判明するというわけだ。……そんなことはともかく。
「”あおい”じゃなくて、”やよい”だからねー!」
やよいはすれ違いざまにツッコミを入れて疾走しつづける。
風がほんのり暖かい。今日は暑い日になりそうだ。
「出席をとるぞー」
クラスに入ってくるなり、出席を確認する担任教師。
「今日も奴は遅刻だな……」
またか、とクラスの誰もが思ったその時。
「神崎弥生、ただいま参上しました!」
はあはあと、息を切らしながらクラスの扉を開いて入ってきた。
「ご苦労。……だが私がここにいる時点で、遅刻だ」
メガネの中央をくいっと持ち上げ、担任は言った。
「けち」
「誰がケチだ。悪いのはお前だ。私はただ仕事を全うしているだけだからな」
表情を一つ変えずに、事実を淡々と述べる担任。それに納得できない様子の弥生……。
「うぅ〜。正太郎! いつものようにゴタクを並べてこの教師を論破してよ!」
廊下側の日当たりの悪い席に座っていた、幼馴染である正太郎に向けて弥生は助けを要請する。
「遅刻だ。あきらめろ」
「正太郎のバカ〜!」
だだをこねる子供のように騒ぐ弥生。
そんな様子を見たクラスの男子は、
「おいおい、痴話げんかはよそでやれ〜!」
だとか、
「アツアツだねぇ〜、お二人さん!」
などと言ってからかう。
それに対し、弥生、正太郎はそれぞれ、
「そんなんじゃないから!」
「断じてそんなものではない!」
と否定。
そんな様子が滑稽でクラス中にどっと笑いが起きる。
まだこの生徒たちが入学して、1か月と少ししか経っていない中、この担任教師はしっかりとクラスをまとめていけるのだろうかと戦慄したとかしてないとか。
終点はまだわかりませんが、必ず完結させます。
しばらくは不定期で更新しますのであしからず。