74. 無敵対無敵は命がけ
言いたいだけ言うと、神様は消えてしまった。
そして当然、時間は動き出し、戦端は再び開かれる。
正直この世界の成り立ちとか神様の思惑とか、そんなものは俺にとってはどうだっていい。
とにかく、今はアウルを倒さなければならない。アウルを倒した後、起こるであろう世界の不具合については、後で考えればいい。
ここで勝たねば、後など存在し得ないのだから。
「行くぞ!!」
俺は瞬時に巨大な剣を再び創造した。
神様はご丁寧に時間を止めてくれたが、その間にも俺と言う個人が思考できる以上、このチートの構成を練る事は十分に出来た。
音すら置き去りにし光すら叩き潰す、巨剣の一閃が振り下ろされて世界を白一色に染め上げる。
しかしそれをアウルは真っ白な光の帯で受け止めた。
衝突の瞬間、音が消え衝撃が奔る。
先ほどダメージを与えられたからと言って、安易に二度も同じ性質の攻撃をしたのは愚策だったか。
俺は衝撃が広がるまでの数瞬の間に、アウルと十数度撃ち合ってはいなし、かわしては切り返し、打ち砕いては再び武器を生み出した。
攻撃の余波で、俺とアウルを中心とした十メートル程の地面がえぐれ、それ以上の周囲に暴風と砂塵をまき散らす。
時折、手足が吹き飛んだり体に風穴が開いたりする事もあるが、お互いがお互い正真正銘のチート。なんでもありを極めたような能力同士の戦いは、決定打を欠き終わりが見えない。
というか、『リスタート』を持っていた俺と不老不死を目指したアウルは性格的に、チートを防御関係に重点的に回すため、バランスを壊せるだけの一撃を入れられないのである。
腹をくくりさえすれば相手の防御を貫けるかもしれない一撃を振り下ろせるが、失敗すれば自分が相手の攻撃を防御しきれず死ぬ。
それこそが俺が考えた中で、この世界を壊さずに済む唯一の決着方法。俺とアウルはその、切り札とも言うべき一撃を出す瞬間をお互いに読み合っている。
かわされれば負け、防がれても負け、そして一撃を繰り出す刹那のスキを突かれても、また――負ける。
そんな状態だからこそ一か八か、のるか反るかの大博打を打つ訳にもいかない。
しかしそんな一瞬にも満たないようなスキの探り合いは、徐々に俺の不利な状態へと変わり始めた。
仲間のMP切れである。
コリスはともかく、MPオーバーキル専門のアイズや邪気眼使いなんかは速攻でMP回復系の“恩典”を使い果たし、戦線を離脱している。
他にも一撃が大きい代わりにMPのせいで連発が出来ないタイプのチート持ちは、続々とリタイアし始めているし、ロティはトラックがいかれた時点で残骸をアイテムボックスにしまっていた。
数が段々と減って戦力が削がれるだけでなく、俺は仲間が俺やアウルの攻撃の余波を喰らわないように立ち回る必要が出てくる。
ここにきて、仲間が俺への負担になり始めた。
「愚かなものだな」
アウルは俺の状態を端的に、そう評した。
「脆弱な仲間など切り捨てればいいものを。私も貴様も、神たる資格を持つ存在だと言うのに」
「……それがどうした」
剣と杖、ナイフと光球、光の帯と巨剣の一撃。せめぎ合い壊し合う俺とアウルの拮抗に、若干傾きが生じた。
「それが俺の答えだ!!」
俺は片膝をつきながらも、アウルの言葉を否定する。
「それに神様はな、俺に言ったんだよ」
押し切られる寸前なんとか受け流し、立ち上がる勢いを乗せて剣を振り下ろす。
「魔王を勇者一行で倒せってな」
今度はアウルが片膝をついていた。
「それが神様の答えだったんだよ! たった一人の神様なんて、ただの神様だ。このままのシステムじゃあいずれ、また新しい神様が必要になる時が来る!! それを避けるための答えは、ここにあるんだ!!!」
折れるなら折れてしまえとばかりに、俺はしゃにむに剣に力とチートを込める。
しかしアウルもさすがというべきか、数度のフェイントの後俺の剣を弾き後ろに跳んだ。
「能力があったって最高も最強も特別もない世界でなら、神様だってただの人間でいられる。この世界の意味は、そこにあるんだよ!!!」
叫んで、覚悟を決めた。
防御や予測など、攻撃以外に振っていたチートを全て処理中断し、攻撃の運用に回す。
想像できるだけの破壊のパターンを、殺害方法を、死ぬ理由を両手に握りしめた剣に込める。
「くたばれアウル!!!」
俺の剣がひときわ大きい輝きを放ったのと同時、アウルの持つ杖もまた、俺と同等の力を注がれたのかひときわ大きく輝いた。
打ち下ろされる剣と杖。
確かにこの時俺は、自分の剣が砕け散る音を聞いた。




