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71. 援軍は命がけ

俺の魂の叫びは場を威圧するのに十分だったらしい。

思い返してみればセーラー服を着ていた神様は、服の上からでも分かるぐらい割と大きなもの(・・)を持っていらっしゃったし、俺の理想は残念ながら(幸いにも)そんな感じだった。

だからこそ俺はこの神様がアウルだと確信したのである。


わざわざこんな事をするであろう存在は、アウルでしか考えられないのだから。


(ま、理想と現実って奴だ)


こういうセリフはえてして理想と現実は違うものだと、現実を卑下して使うものである。

しかしまあ、俺の場合は少々事情が違って……他の好みとかそういう要素を全部度外視しても、どこぞの魔女の横にいるって現実を、選ぶというだけの話で。


ただ、俺の背後から感じる殺気の事を考慮すると、この調子では当人に言える日は永遠に来ない気もするのだが。


「……」

「……」


二対一(ゆうり)になったはずが一対二(ふり)になって追い込まれた気分である。

無論、現在俺が所持しているチートを用いる以上、コリス一人の戦力では勝敗の天秤を傾ける事は出来ない。

そしてそれは、アウルにとっても同じ事だ。


「援軍か……今さら一人増えたところで同じ事。神にあだなす者は排除させてもらおう」

「そうだな」


しかし、コリスは不敵な笑みを浮かべたまま愛用の大鎌を構えた。


「私一人だけ(・・)だったのならばそうだろう」


意味深な一言と同時、アウルの胸元に風穴が空いた。


「な……に……!?」


すぐさま再生するアウルであるが、そのほんの一瞬の間にも俺はその攻撃の主の居場所を見抜いた。

五百メートル以上も離れた小高い丘の上、ボルトアクション式の狙撃銃を構えて伏せたアルダがいた。


「はっ、元の世界にいた時のこと思い出すなぁ」


アルダがそうつぶやいた時には既に、次弾がアウルの額を貫いていた。

相変わらず無茶苦茶な狙撃だと俺は若干呆れた。ボルトアクション式の狙撃銃はその本体強度と命中精度において他を圧倒する能力を持っているが、連射する事は基本的に出来ない。

ならば、どうしてここまで連続して次弾が撃てたのか。

それは簡単な話で、アルダは二丁(・・)の狙撃銃のスコープを、両目で覗きながら撃っているのである。

さらに、排莢(はいきょう)する代わりに空になった薬莢(やっきょう)の中に弾薬弾頭などをもう一度生産系チートで生み出すため、リロード時のスキもない。


「ふざ……けるな……!!」


アウルはお得意の転移ですぐさまアルダの目の前まで移動、数十の光球を放った。


「よし、総員かかれ!!」


アルダがそう叫ぶと、地面と同色の布を被って伏せていた伏兵が周囲に三十人程現れた。みんなどういう訳だかオレンジ色の服を着た特攻隊のみなさんである。


「ハーッ!!」


微妙に詠唱破棄気味に、いつものビーム的な何かを一斉にアウルに向かって放出し、自分たちは後方に逃げる。まさに攻防一体のチートである。アルダも抜け目なく特攻隊の一人の手を借りて、戦線を離脱。

三十余条の光線はアウルに直撃し、大爆発を起こした。


アルダは距離を取った後にトドメとばかりに直径十センチ弱、長さ程一メートル程の黒い筒状の何かを構える。それをアウルがいるであろう火と煙のるつぼへと向け、中の弾頭を射出する。射出後、弾頭自身から一対の翼が伸び、ロケットモーターによって推進力を得て目標へと真っすぐ飛んで行く。

あの兵器について俺は以前、アルダから聞いた事があるが、直撃すれば厚さ三十センチくらいの鉄板なら木っ端みじんに粉砕できるらしい。

余談だが、厚さ三十センチの鉄板はもはや鉄板ではなく鉄塊と呼ぶべきだと思う。


それはさておき、アルダの持つ兵器の中でも指折りの貫通力を持ったそれはアウルに直撃したのか特攻隊のチートに劣らないほどの轟音を響かせて爆発した。




しかし、俺には分かってしまった。




アウルはまだ生きているのだ。

あれだけの攻撃を受けようと、現在の俺と同種のチートならば受け斬る事は可能だ。特にアルダのチートはなまじ現実的かつ物質的であるが故に、痛みなど毛ほども感じないだろう。

俺はそれよりも彼らが作ってくれた時間を有効活用し、全力でチートを行使する。


空に無数の剣を浮かべたのだ。

ただし、俺とアウルの間で繰り広げていたお互いのチートの妨害戦がなくなったために、その展開力は今までの比ではない。


その数、およそ六百程。


それら全てを即座一気にアウルに向かって、叩きつけるように打ち下ろす。

ズガガガッ、と音速を突き破る速さでそれらの剣はアウルに向かって殺到した。

一本一本が人間どころか建物一つ消し飛ばすくらいの威力を秘めている剣は、当たりに立ち込めていた煙も炎も貫いて、砕けた。


(くそ、防ぐ余裕ぐらいあったか)


俺は内心で舌打ちした。

轟、と煙も剣も打ち払い伸びたのは全長二十メートル程の光の帯。おそらく前の黒い炎を模したようなそれは、アウルの周りを覆っていて、見ようによっては翼のようでもあった。

妨害がなくなって全力を発揮できるのはお互いさまと言ったところか。


「この程度か」


アウルは何でもないように鼻を鳴らした。


しかし、俺はここで彼に一言進言したい事がある。

それは、この“アンダーワールド”クオリティをアウルは知らないという事だ。

最強や無双には絶対になれず、時には自分が信じた能力(チート)が自分自身の身を焼く理不尽な世界。転生が約束されているがために、くだらない事に命をかけてくる“アンダーワールド”の住人達。

彼らのたくましさを、アウルは知らない。


「!?」


アウルは明敏にその気配を感じ取ったのか、背後を振り返った。

俺もさすがにそれ(・・)を使ってくるとは思わず、かなり驚いた。何もなかった空間に突如、極小の黒い点のようなものが一つ現れたのだ。

直径一ミリ程度のそれは徐々に一、二。四、八……百、千万億と膨大な数に膨れ上がり、人の形をかたどり始めた。


(“パズラー”の空間転移かよ!?)


俺は“アンダーワールド”でも五指に入る理不尽なチートを思い出して怖気がした。


空間操作系チートの中で最凶との呼び声が高いそのチートは“パズラー”と呼ばれる、廃人のような使用者の通り名とともに有名である。

効果は『対象範囲内の人物・物質を任意の位置まで転移させる』というもので、その汎用性の高さと効果適用範囲の広さゆえに強力なチートでもある。しかし、“パズラー”のチートが有名なのはそのためではない。


彼は理屈屋だったために、ある日、空間転移の際「どうやって転移させているのか」を多少(・・)突き詰めて考えてしまった。

それだけならば問題はなかったのだが、彼が考えたのは転移方法の詳細ではなく、転移先でどうやって物質を元の状態に戻すのかと言うものだったのだ。


というのも、彼の転移は転移対象を分子単位に分解し、極小のワームホールを通る事で空間を転移、任意の地点に対象を再構成する、という手順を取っていた。

この手順の最後の肯定で彼の邪念が作用し、ある時、彼の友人を転移させた際、とんでもない悲劇を生むことになる。


その友人が分子単位で分解されたまま、再構成されなかった(・・・・・・)のである。


そこに残ったのは黒い砂のようなもので、これが友人のなれの果てだと分かったのは、チェックするとステータス画面が表示されたためである。

その黒い砂山は風でも吹けば飛んで行くところであったが、その場に偶然居合わせた物質固定のチートを持つ人物が固定し、ひと粒のこらず厳重に箱に詰め込んで“パズラー”の家に運んだ。


ここまで言えば察していただけると思うが、彼が“パズラー”などと呼ばれているのは未だにこの灰色の砂を友人に再構成するために、一つ一つを再構成して友人を元に戻そうとしているためなのだ。

その膨大な作業に挑戦する努力を“アンダーワールド”の住人は、どこぞの“もう一人のぼく”が封じられた“千年パ○ル”とかけて、“六十兆年パズル”なんて呼んで畏怖しているが、はっきり言って笑えない。

それに六十兆と言うのは人間の細胞の数から来ているのだろうが、分子単位で分解したのであるから、ジグソーパズルで言うところのピースは下手をすると六十兆個以上である。


彼が廃人のようになった理由は推して知るべしと言うべきであるが、これだけなら“アンダーワールド”ではよくある理不尽である。


この話が有名になったのは、その友人のステータス画面を開く事が出来た(・・・・・・)からに他ならない。

なぜなら、ステータス画面を見られるという事は、その友人が未だ転生していない可能性を示しているのだから。


バグか、単なる神様の手抜きかとも騒がれたが、それはパズルが完成するまで分からない。

つまり、“パズラー”は不可能とも思える膨大な作業を、友人の生死を確認するために何としても終えなければならないという、理不尽極まりない状況に追いやられたのである。


そんないわくつきのチートを移動手段として使うなんて正気とは思えない。

一応どこであろうとどんな数でもどんなものでも、MPオーバーキルを使えば一度に転移させることが出来るが、暴挙としか言いようがないのである。一体こんな愚行に出たバカは誰なのかと思っていたら、黒い点だったものが像を結び、やがてはっきりとした姿形を取った。

そこに現れたのは、


「助けに来てやったぞ!!」


残念系チート筆頭格の不思議コイン生成者と、


「助太刀させてもらいます」


波○拳の使い手にして異端の特攻隊員と、


「フッ、今宵も俺の禁断の魔法が火を噴くぜ!」


氷の禁断の魔法(笑)が火を噴く誰かさんと、


「私のヒロイン力、今全開!」


なんだかよく分からない事をたまに口走る車いす少女と、


「無事かキョーイチ!!」


三トントラックに乗った女丈夫と、


「これはこれは、怖い顔をしてるな」


頭が物理的にカラッポな女騎士。

そして、


「またなんか面白い事やってんだって?」「うおー俺も混ぜろよー!!」「恩人の窮地とあらば手を貸さぬわけにはいきません」「ここは俺に任せろ!」「モフモフモフ!」「うう、今度は神様相手にけんかですか?」「これが終わった後の宴会はお前持ちだかんな!!」「腕が鳴るなぁオイ!!」


総勢五十人はいようかと言う、この世界での知り合いたちだった。

ある者は剣を手にある者は杖をかざし、火を雷をほとばしらせ、不思議な光を浮かべ、数人に分身し、幾何学模様の魔法陣を展開し、そう叫んだ。

性別や装備、何もかもがバラバラであるものの、共通して言える事は全員が全員、楽しげな笑みを浮かべている事であろう。


その中に精神介入や催眠術を得意とするチート持ちがいたので、“パズラー”の魔法を運用する際に補助したのだとアタリをつける。

……もっとも、彼女のチートは一度かけたら最後、本人にも解除が出来ないという理不尽な仕様なのだが。

そんな彼女も、チートの発生元である鳥みたいな模様が浮かんだ邪気眼(ギ○ス)を抑えながら、無駄に自信満々な笑みを浮かべていた。


転移(テレポーツ)していいのは、パズルになる覚悟のある奴だけだ!!」


なんで複数形なんだよと突っ込みたくなる衝動を抑え、原型をほぼ留めていない迷言を叫ぶ少女を無視し、俺はコリスを見た。

コリスもコリスで同じように笑っていて、そして俺もまた同じような笑みを浮かべているだろうと自分で分かった。


「思ったより多いな」

「まあな。あらかじめ決めていた手筈通り、お前が町から離れた後、私の魔法とギルドの人員を駆使して、声をかけられるだけかけてきたからな」


俺は神様がアウルとすり替わっている可能性に薄々気づいていたので、万が一敵対する事になった場合の対抗手段として、集団戦に持ち込むという手を考えていた。

ただ、町中で行うと確実に非戦闘員や参戦の意志のないものまで巻き込まれてしまうため、俺はひとまず人気のない場所まで移動した。

そして、追跡してきた場合はアウルを奇襲。殺せなければ増援を待つために適度な会話を交えつつ牽制と防御に徹し、時間を稼いで増援を待つつもりだったのだ。

この話はコリスとアルダ他、一部のギルド関係者にだけ伝えられ、それ以外の人員については事が起こった際にニルデアの町で募集、怖いもの見たさや好奇心で参戦してくれそうな奴に声をかける事にしていた。




神を倒す。




そんな荒唐無稽で無茶苦茶で支離滅裂で意味不明なイベントを起こせば、モノ好きが多い“アンダーワールド”の住人ならば、首を突っ込んでくると俺は読んでいた。

面白そうだと思ったら、たとえどんなくだらない事でも命をかける。

それが理不尽なる“アンダーワールド”に生きる、住人達のクオリティである。


「さあ、反撃開始だ」


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