7. 武器補正は命がけ
俺の懸念を余所に、コリスは大鎌を振り回したりして遊んでいたようだ。俺もまた首を飛ばされても敵わないので、素直に言う事を聞く事にする。
コリス
HP 2384(100%)
MP ???(???)
攻撃力 255(+135)
防御力 524(+328)
知力 722(-150)
素早さ 732(-100)
カルマ値 23%
さて、“アンダーワールド”に来てすぐの奴は、これを見て「小説家になろう」的な『VRMMO』を想像するのか、色々と残念な勘違いをするため、解説を挟もうと思う。
「カルマ値が随分高いな」
「まあ、いいじゃないか。“祭り”で暴れれば低くなるだろう」
「それもそうだが……にしても相変わらず法則性のない数値だなオイ」
まず一番気になる奴が多いと思うが、“カルマ値”なる謎の数値がある。
これは100%になった瞬間、何かしらのバッドイベントが起こるというものだ。
大喜利の際の強制転生しかり、地下迷宮ひきこもりバッドエンドしかり、この世界には神様の介入が多々あるが、その最たる原因がこのカルマ値である。
どうすれば上がるのか一概には言えないので、毎日チェックする事をお勧めする。ひきこもっているとじわじわと上がり、魔物を倒すと下がるというのが一般的な動きである。酷い時は0%から一気に100%になるケースもあるらしいが、普通に生活していれば問題ない。
第一、異常な数値上昇は大喜利の一件のような神様の気まぐれなので、回避不能だから諦めてくれ。
『神様が介入する口実に使う数値』とでも言えば分かりやすいと思う。これもまた、“アンダーワールド”に居座れないようにするためのシステムの一つである。
また反対に、これ以外の数値については俺たちの場合ほぼ気にしなくていい。
HPや防御力が無限にあっても首が飛んだら死ぬし、攻撃力がいくら高くても魔法の威力は上がらない。せいぜい、HPが何%残ってるかでどれだけ死にそうかが分かる程度である。
知力に至っては本当にただの『かしこさ』のようなもので、魔法の攻撃力に対して影響を与えていない。むしろ、魔法を覚える事で頭がよくなり知力が上がるという、無意味な逆転現象すら報告されている。
そして、素早さは単なる機動力の事で、この値が高いほどモンスターからの攻撃がかわしやすいわけでもない。
そして何より、これらの数値は俺たちの能力に対してなんら影響を与えないのである。
俺の『リスタート』は攻撃力や防御力に依存しないし、コリスの魔法はそもそも前世から引き継いできたものなので、何一つ影響が出ない。
普通のチートに関しても、あとで説明する事になると思うがMPが最も注意すべき値である。しかしこれも、俺の『リスタート』は厳密にはMP依存じゃないし、コリスの生前からの魔法には全く影響がない。
そもそも、これらの数値はチートを使った瞬間跳ね上がるものも多い。
「噂じゃモンスター用に作ったステータスを俺たちに流用したらしいが……相変わらず無意味にそれっぽいだけの数値だよなぁ」
「キョーイチ、そんな事はいいから、攻撃力を見ててくれ」
「あいよ」
さて、そして数値の右をもう一度見て欲しい。(+○○○)という値があるだろう。
これは装備の補正で、()内の数値を足した分ステータスが変わっているという意味で、左の三ケタの数字は武器や防具の補正が入った現在の数値である。
防御力はコリスの帽子やマントの補正なんだろうが、攻撃力は今回手に入れた『デスなんたら』の攻撃力だろう。名前の割に攻撃力(+135)とは、中の上程度の上昇値である。
……というか、どう考えても知力(-150)もこいつのせいである。
名前のせいで持ってる奴が馬鹿に見えるという事が、数値に影響を与えているとでも言うのか……?
「言うほどのもんでもねぇだろ。移動の邪魔だし」
「ふ……ちょっと見ていろ」
不敵に笑うコリス。
言うが早いか、大鎌の刃に紫電がばちばちと弾け始める。どうやら、大鎌に魔力を込めているらしい。……って、え!!?
コリス
HP 2384(100%)
MP ???(???)
攻撃力 945(+825)
防御力 524(+328)
知力 722(-150)
素早さ 732(-100)
カルマ値 23%
「戦闘力945だとッ!!?」
「……なにテンパってるんだ、キョーイチ?」
「いや悪い、あんまりあり得ない値だったんでな」
俺は焦って変な事を口走った事を詫びる。
それにしてもあり得ない。こう言った武器というのは確かに補正がかかるようにできているし、中にはドラゴンを真っ二つにするような武器だってある。
だが、それはチートと上手くかみ合った一部のものだけの話である。
ほとんどは奴らは「だってカッコイイじゃん」「チートが役に立たないから」「ちょっと木を切るのに要るんで」「私剣士だし……だ、だだから、中二病じゃないんだからね!!?」といった至極適当な理由で帯刀したり抜刀したり、毎日忙しい生活を送っている。
こんなうまい話がある訳ない。
俺がコリスに説明を求めると、こいつは嫌味っぽく笑いながら答えてくれた。
「これはMPを攻撃力に変換する武器なんだよ」
「ああ、そう言う事か!!」
合点がいった。
コリスのMPはこの“アンダーワールド”で数値化されない自前のものである。簡単に言えば、コリスはMPという燃料タンクを自前のものと“アンダーワールド”のものの二つ持っている。
そのためステータス画面でもバグった表示になっているんだが、本来、MPはとある理由で重要な値である。
何を隠そう、これがなくなるとチートが使えなくなるのである。
俺の『リスタート』のようなMP消費の少ない地味なチートや、コリスのような先天系の魔法には関係がないが、それらを除いたチートは全てこの値がなくなると全く機能しなくなる。
アホな例で、飛行チートを使いながら居眠りしてた奴がMPがなくなり墜落して転生していった事もあったらしい。
あとは、どこぞの結界能力者が追手に攻撃されたので自分を中心に結界を張ったところ、丁度MPが底をつき、解除ができなくなって結界ごと担いで行かれたという話もあった。
とにかく、MPがなくなるという事はこの世界では死に直結する事が多々ある。
MP回復系のアイテムがHP回復系より高いのは、ゲームの世界では当たり前だが、この世界ではそれが顕著だ。HP回復系の“恩典”の十数倍でMP回復系の“恩典”は取引されているし、一日の使用制限数もある。
「これは……前にキョーイチが言ってた……『私の時代キター』という奴だろうか?」
「お前真顔で言うなよ。突っ込めないだろうが」
そうこうしているうちに、俺たちの足元が輝きだした。
どうやら“祭り”が始まるらしい。
俺はコリスと手をつないだ。
これは変な意味じゃなく、こうしていると転位させられた時同じ場所に出るのである。
熱いパーティになると円陣を組んだまま転位するバカもいる。円陣組んだまま敵のど真ん中に放り出されて、その事に誰も気づかずやられたもっとバカな奴らもいた。
さて、そんな事を思い出すよりも、俺は何となくコリスの方を見ていた。
つば広の帽子が邪魔して表情まで見えないが、おそらく満足げにほくそ笑んでいる事だろう。
だがな、コリス。俺は思うんだ。
この“アンダーワールド”は、そんな簡単に最高や最強や無双に、ならせちゃくれねぇとこだろ?