63. エラーは命がけ
神域と呼ばれる場所が、“アンダーワールド”が出来た当初から存在する。
その存在は初め、噂とも想像ともつかないものだった。
神様は普段、一体どこにいるのだろう。
純粋な疑問に推察が加わり、神様のいる領域、すなわち神域というものがあるのではないかという推論が、“アンダーワールド”の住民の間に広まった。
それに応えるかのように――というか実際失念していたのだろうが――神様は人間が神様に会える領域、神域をこの世界に実装した。
神域とは神様が生活している居住区のようなもので、そこに至るまでには数々の試練を乗り越えなくてはならないという事が、神様直々に教えられた。
入口の場所についてはいくつかの推測がなされていたが、どれもが高レベルと言っていいダンジョンの奥深く。行こうとするバカは滅多におらず、行ったら行ったで戻ってこない。
第一、『高難易度=理不尽』という“アンダーワールド”の常識からして、神域まで正規ルートから至った者はほぼいないだろう。
そしてその予想は当たっていて、神様いわく、あまりに人が来ないため神域に至るヒントを与える目的で、“知悉の特赦”他神様とコンタクトを取るタイプの“恩典”には、神域へ召喚する機能を付与したとの事。
ただそんな事をしたって俺にはこの神域にどうやって入るか分らないし、そんな事のために“知悉の特赦”を使う気もない。
おそらくだが、神様は自分で作ったこの神域を見せびらかしたくてそんな機能をつけたのではないのだろうか、というのが俺の推測である。
それはさておき、俺は今神様と対面している。
こう言ってはなんだが、正直長居する気はさらさらないし、俺はさっさと要件に入る事にする。
「それで、何が聞きたいのかな?」
神様はそう言うと、無邪気にすら思える笑みを浮かべた。しかしそれは、邪気がないにも関わらずいい印象を感じられない、人間味のない笑顔だった。
「ああ、質問だ神様」
俺がそう言うと、神様と俺を囲むように、地面に魔法陣のようなものが光り輝いた。“知悉の特赦”の床面に描かれていたものに似ている気がする。
これが本来の“知悉の特赦”の機能を表わすものなのだろう。
「『俺が“アンダーワールド”に来る際、死んだ状況を、俺に詳しく教えてくれ』!!」
俺の言葉に機会じみた声がダブって聞こえた。
そして魔法陣から白い光の粒が幾百幾千と舞い上がる。そうしてその光はいつの間にやら目を閉じていた神様の体に吸い込まれていった。
神様が、静かにその両目を開けた。
そこには先ほどの笑顔以上に人間味がない。それどころか意思すら感じられず、冷たい鏡のような水色の瞳には、ただただ俺が映っていた。
俺の背筋に冷や汗が伝う。
やがて神様の唇が裂けるように、ゆっくりと開かれていった。
「エラー。存在しない事象についての言及。シークエンスの処理を中断し、終了します」
返ってきたのは、難解な回答。
俺は拍子抜けしつつも、神様の答えが『存在しない事については答えられない』という意味内容だった事は理解していた。
「さて、気は済んだのかな?」
魔法陣の光がなくなった頃、神様は俺にそう問いかけてきた。
「君は死んでなんかいない」
「どういう意味だ?」
「どうって、そのままの意味」
「じゃあどうして俺は“アンダーワールド”に連れて来られたんだ!?」
何もかもが予想の範疇を超えていて、俺は半ばパニックになっていたのかもしれない。
「まあまあ落ち着いて。これでも私は寛容な神様だから。このまま帰すのはあまりに可哀そうだしね。君の望みくらいは叶えてあげよー」
俺はその言葉に、正直ほっとした。
おそらくさっきの問答で、俺の持っている“知悉の特赦”の効力は完全になくなっていると考られるからだ。
「けれど、知る意味はあんまりないと思うだけどねー」
神様は俺の額をこつんと指で小突いた。
「人災にしろ天災にしろ、理不尽は理不尽だから」
神様の指が触れた瞬間、俺の脳裏に過去の光景が映像として流れ始めた。
63.5. 没ルートに命はかけない
気づけば、俺はなんだかよく分からない空間に放り出されていた。
作者「……本当にいいんだな?」
キョーイチ「なにがだよ。ていうか、何だこの茶番劇? 何この異空間?」
作「本編に介入するなんて駄目なメタ、略して駄メタはしない!」
キ「いや、ここでやってる事も十分痛い気がするんだが……」
作「それはさておき、お前はこの選択を後悔しないんだな……?」
キ「流すのかよ。まあ、後悔はしてないが」
作「例えこの先何があっても?」
キ「ああ」
作「例えこの先、残念系チートを投入する機会がほぼなくても?」
キ「…………はい?」
作「例えその事のせいで、作者が予約投稿を三日ぐらいためらっていたとしても?」
キ「いや知らねぇよ」
作「書いてみたら意外に強引な筋書きすぎて、それを緩和するために伏線をばら撒いては回収している俺の苦労は!?」
キ「もっと知らんわ!!」
作「オチは!!?」
キ「無いっ!!」




