6. 禁断の魔法は命がけ
「キョーイチさーん!!」
そう呼ばれたのは、もう少しで“祭り”が始まる時間になった時だった。俺はしまったと自分の思慮の浅さを呪う。
この町にはこいつがいたのである。
「よ、よう、アイズ。久しぶりだな」
そこには俺が知る限り、この世界で一番痛い類の友人がいた。
アイズと俺が呼んだせいで、こいつを見た事がない奴は外国人か異世界人を想像してしまったと思う。
だが、こいつはれっきとした元日本人で本名は会津健太君。小柄で色白なもやし君である。
見た目だけで言えば小生意気なガキという評価で許してやれるのだが、こいつは中身がすこぶる残念だ。
「おう! 今日も俺の禁断の魔法で魔物どもを血祭にあげてやるぜ!!」
この調子である。
“禁断”だの“血祭”だの、痛い表現を連発しないでほしい。
あと、アイズの魔法が“禁断”なのは強いからでもこいつの寿命なんかが代償になっているからでもない。
味方を巻き込むという、ただそれだけの理由である。
ついでに言うなら使った瞬間このバカが死にかけるというのも理由っちゃ理由だが、それは正直どうでもいい。
死にたい奴は死ねばいいし、自業自得ならなおさらだ。
ところで、“アンダーワールド”の住人にとって、名前というのはどんなものを名乗っても基本的に構わない。だが、前世での知り合いに遭う可能性や、単純な面倒くささから、おおよそ八割程の人間が前世での本名を使っている。
残りの二割は……まあ、なんていうか、十四歳付近の方々というか……ストレートに言うなら中二病の方々がほとんどだ。
要は、チート能力やら様々な『VRMMOモノ的世界観』のせいで、一部のバカが意味もなく偽名を使っていると言うだけの話である。
アイズも……本名と言えば本名だが、どう考えてもこのグループに該当している。
「キョーイチさんもコリスさんも、頑張ってくれよな!!」
そう叫ぶと、アイズは嵐のように去って行った。
「おい、コリス……」
「腹をくくれ」
そうコリスは言った。
アイズの禁断魔法とやらが俺にとってものすごく面倒くさいのは、単にアイツが自爆するという理由でも、味方が巻き込まれるという理由でもない。
前者は残念系チートにはよくあることだし、後者に至っては“祭り”での常識にすら近い。味方からの被弾など、“アンダーワールド”中級者以上にとっては想定の範囲内というか、ほとんど第二の敵扱いである。
“敵が魔物だけだと思うな。お前の後ろには第二の魔物が控えている”
という名言を残した古参の“アンダーワールド”参加者も存在する。
そもそも転生した時点で集団戦を想定してチートを得た奴など皆無であるし、“アンダーワールド”の参加者はチートのせいで一人一人のスペックが大きく異なる。つまり、組織的な魔物の迎撃など、パートナー同士やパーティ内でやるのが限界である。
町丸ごと一個が参加する“祭り”において、チームワークなどどこにもない。
そこにいるのは、全力で逃げようとする非戦闘員と、全力でチート無双しようとする初心者と、全力でそれらのカバーに走る中級者と、色々と諦めて全力で自分の身だけ護る上級者だけである。
だいたい、“祭り”のいつもの流れは、開始五分で前線にいる初心者のほとんどがチートの残念さのせいで潰走し、中級者がそれを助けに行ってやられ、上級者は自分の身だけを護る。
中級者以上でないとほぼ生き残れないようにできているのである。
結果、この“祭り”は初心者をふるいにかけるイベントとして有名である。
さて、それはともかくアイズの話に戻る。
彼はあれでも“アンダーワールド”中級者程度の人物なのだが、いかんせん、未だに十四歳的病気から抜け出せていないかわいそうな人物である。
「俺が“祭り”を変えてやる」
と息巻いている。
彼のだめな部分はたった一つに集約できると俺は思う。
それは、“自分が特別だと思っている”という、ただそれだけの事である。
彼には一度、周りをよく見て欲しい。空を飛ぶ奴、魔法をぶっ放す奴、逆噴射で死にそうになっている奴、レール○ンをぶっ放す奴……みんながみんな、チートである。
“アンダーワールド”において、チートは能力であって、特別でも最強でもない。それを彼は認めようとしていないのである。
ま、そんな事は俺にとってどうでもいい事なので、ものすごく分かりやすく俺があいつの禁断の魔法(笑)を面倒くさく思っている理由を発表したいと思う。
あいつの魔法は、俺にも効果があるのである。
『リスタート』の効果の穴を上手くすりぬけた攻撃なのであるが、これはアイズが狙ってやったのではなく、単純な相性の問題である。
ただし、当たると俺は死よりも怖い目に遭うので本気でごめんこうむりたい。
そんな事を考えていると、コリスがあの大鎌を振り回しながらこう言いだした。
「なあ、ちょっとステータス画面見てくれないか?」