52. 制約は命がけ
あれから色々と口論があったが、無駄に長々しくて残念なそれを要約すると、「おいお前先に構え解けよ」「嫌だよ構え解いた瞬間襲う気だろ」「そう言うお前こそ」「先に動いたら負けるってやつか……」「よしじゃあ同時に解こうぜ」「せーのでいくぞ」「せーのっ」「……」「……」「「構え解けや!!」」みたいなやり取りを経てとりあえずお互いに仕切りなおしている。
ちなみにこの過程で二人ともアホの子だという事だけはよく分かった。
ついでに言うなら、女騎士の持っている反りのない両刃の直剣で居合い斬りなど出来るわけがないし、出来たとしてもうまく斬れないだろう。
形状と重量を考えろよ、なんて突っ込みたくもなったが、それよりも西洋っぽい両手剣で居合いの構えというのはかなりシュールな絵面だった事について指摘しておきたい。
ただ、そんなアホな女騎士相手でも、地力の差は圧倒的だったようだ。
「にゃー……」
もはやにゃんとらーに当初の俊敏さはない。
「ぁ……はぁ……くっそ!!」
モン○ターボール使いも肩で息をしている。
さて、どうして彼がここまで疲れているのか、そしてどうしてこんなに必死なのか分からない人もいるだろう。
実は、彼はモン○ターボール使いが残念系チートたる由縁の制約によって今、苦しめられているのである。
モン○ターボール使いの制約の中に、残念なものがいくつかあるという話はしたと思う。
その中に、俗に“めのまえがまっくらになった”仕様と呼ばれるものがある。
この使用は簡単に言うと、「手持ちの魔物が全滅すると負ける」という原作システムの延長のようで、彼らは手持ちの魔物が全滅した瞬間転生してしまうという、特殊な敗北条件を持っているのだ。
しかもこれ、判定が少し拡大解釈されており魔物が全滅した瞬間本人にダメージがあるのではない。
なんと、魔物の蓄積ダメージがそのままモン○ターボール使いに降りかかるのである。
そのため、六体目を使う頃にはモン○ターボール使いは肉体的疲労でかなり消耗する事になる。
それならば負けそうになった時点で逃げればいいと思われるだろう。
しかし、現実はそう上手くいかない。
「クソ」
にゃんとらーを放置したまま逃げようとするモン○ターボール使い。
しかし、彼はすぐに戻ってきた。
「アイテニ セナカハ ミセラレナイ」
と、妙なロボット口調で話すと、なんだか諦めた表情で女騎士に再び対峙した。
これが制約その二。
対人戦で逃走しようとすると、体が勝手に元の場所に戻ってしまう、通称“とくせい・かげぬいボディ”仕様。
大体この二つのために大体のモン○ターボール使いは残念系チートの仲間入りを果たしている。
特に後者は酷く、モン○ターボール使い本人に戦闘能力がなく逃走も出来ないため、モン○ターボール使い自体を叩かれると一発で昇天するという、致命的な仕様があるのである。
ちなみに女騎士が馬鹿正直に魔物の相手をしている理由については、正直俺にも分からない。
さらに補足すると今の二つ以外にも、目が合った相手に強制的に喧嘩を売る“戦闘狂”仕様、草むらを歩くと数歩で魔物が飛び出す“四次元草むら”仕様、釣りをすると骨と皮ばかりのコイしか釣れなくなる“コイのタイ当たり”仕様、どこかに提出するわけでもないのにレポートを書かないと眠れない“誰がためにレポートは成る”仕様などがあり、そっちはそっちで日常生活に多大な影響を与えている。
「うぉぉおお、クソッ!!」
モン○ターボール使いはそれらの制約で欝憤が溜まって自暴自棄になったのか、最後の抵抗として予備のモン○ターボールを女騎士に投げつけた。
しかし、それは女騎士が剣で打ち払うとすぐ、物理的にありえない動きをしてはじき飛んで行った。
同時、初老の老人の立体映像がモン○ターボール使いの前に現れ、
『こういうものには つかいみちがあるのじゃぁぁぁあああああ!!』
盛大に喝を入れて消え去った。
「もう嫌だーーー!!!」
本人が絶望しているが、自業自得である。
あれはモン○ターボールを人間など間違った対象に投げつけると現われる、“オートマはかせ”仕様である。
どうしてキャラ崩壊しているのか分からないが、本人が自暴自棄になった時に現れる事が多いため、博士の方も投げやりになっているという説がある。
ついでに言うなら、モン○ターボール使いの人口と同数の博士が精霊の森に幽閉されているという説もあるが、それは果てしなくどうでもいい。
原作では獣医さんや巡査さんが同じ顔で複製されているし、いまさら驚くことでもないだろう。
「終わりだな」
どのみち、彼はもう万策尽きたのである。
「ちっ、ニャントラ、“かみつ――」
彼が命令を終えるまでに、にゃんとらーは女騎士の一閃によって吹き飛ばされた。
地面を二度も三度も転がって止まり、動かなくなる。
「勝者、永訣の庭の女騎士!!」
俺は審判でもないが何となく、そう宣言していた。
キョーイチの英語力のなさ(笑)
ノリで適当に言っているとはいえ、適当すぎますね。
そして前回の宣言通り、モン○ターボール使いは残念系チートの犠牲になりました。




