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51. 赤白ボールは命がけ

精霊の森ほど鬱蒼とはしていない、多少人の手が入ったような木々の間をくぐりぬけていくと、開けた空間に出た。

そこだけが草が生えず地面が向き出しで、ところどころえぐれたり盛り上がったりしている。

こここそが、永訣の庭と呼ばれる、騎士と挑戦者の決闘場だった。


「次で最後だな……」

「くっ……」


そんな広場の中央で、若い男女がにらみ合っていた。


女は簡素な白銀の鎧に身を包み、両刃の大きな剣を構えている。

見てすぐに騎士とあだ名されるのが彼女だと分かるほどに、男に対峙するその姿、堂々とした態度、絵になる剣の構えは騎士そのものだ。

赤毛を高いところで一つに束ねており、挑戦的な目つきで男を睨みつけている。


男の方には見覚えがあった。何度かニルデアの“祭り”で顔を合わせた程度だが、“アンダーワールド”中級者程度の男だったはずだ。

どうやら、彼は先客らしい。

青を基調とした服にジーンズ姿で、赤い帽子をかぶっている。指が出るタイプの手袋をはめた手には、今は白と赤が半分半分の、ボールのようなものを握っている。


先に動いたのは男だ。

おもむろに帽子のつばを持つと、それを一気に百八十度逆に向けながら、ボールを投げつけた。


「ニャントラ、君に決めた!!」


かぱーん、と間の抜けた音とともに、ボール状の物体が半分に割れ、中から以前俺たちが倒した魔物、にゃんとらーが現れた。


あの魔物は実は、アイズがコリスのように凍らせてしまった後、アルダに頼んで発火系のチートとモン○ターボール使いたちを総動員して、飼いならさせたのだ。

モン○ターボール使いが捕まえたにゃんとらーは普通の猫並に大人しくなるだろうし、発火系能力を使ってじわじわ解かせば、にゃんとらー達が死ぬ事もない。

それらの努力が密かに実を結んでいたことに、俺はわずかながら嬉しく思った。


それにしても、彼はモン○ターボール使いらしい。


モン○ターボール使いはその設定上いくつかの制約を背負っている。

ポケットに入れる魔物は一人六体までだとか以外にも、魔物の名前は五文字まででカタカナが好まれるとか、技は一体につき四つまででそれはひらがなばかりだとかいう暗黙の了解はあるが、それらは些細な事にすぎない。

むしろ、それ以外の制約が原作に忠実すぎて色々残念な仕様になっているのだが、どうせすぐに分かるだろう。

何せ、モン○ターボール使いはある意味で残念系チートの筆頭なのだから。


俺はそう決め込んで近くの倒木に腰かけ、傍らにコリスを立て掛ける。あれだ。公園のベンチにおじいちゃんが杖を立て掛ける感じで。

悪気があるのではなく、硬い倒木にカチンコチンに固まったコリスを置くと座りが悪く、すぐに落ちてしまいそうだからである。

斜め四十五度の不自然な姿勢で傾いたままのコリスはシュール過ぎるが、俺はそんな考えを頭から追いやる。


今は静観の構えである。ここで女騎士の戦力が分析できれば、好都合だ。


「これで六体目。後がないぞ、モン○ターボール使い?」


俺が見ている前で女騎士は一瞬だけ不敵に笑うと、すぐに笑みを消して完全な構えをとった。


「……ニャントラ、“かみつぶす”だ!!」

「にゃー」


間の抜けた声をあげて女騎士に跳びかかるにゃんとらー。相変わらず不自然なくらいに頭が肥大化して、大きな口がぱっくりと開く。

対して女騎士は、その両手で持った剣でにゃんとらーに斬りかかる。


交錯する牙と剣。

しかしさすがに鋭いにゃんとらーの牙も鋼鉄には勝てないのか、それとも重量の問題か、簡単に跳ね飛ばされた。


「ぐうっ!!」


悲鳴を上げるモン○ターボール使い。

しかし、女騎士の攻撃は止まらない。


「はぁっ!!」


強烈な突きがにゃんとらーの額に入った。

持ち前の柔らか不思議ボディでダメージを軽減したのか、切れてはいないがにゃんとらーは後ろに吹っ飛ばされた。


「浅いか……」


女騎士は自らの剣筋に思うところがあったのか、苦々しい顔をしている。


「くっ、ニャントラ、“いあいぎる”だ!!」


モン○ターボール使いの指示を聞いて表情が固まる女騎士。


「居合い斬りだと!?」


女騎士はどうしてそこまで驚愕しているのだろうと、俺は首をかしげた。


確かに、あの時の祭りの事を聞き及んでいれば、にゃんとらーの得意技が居合い斬りだという事を知っていてもおかしくはない。しかし、あの反応は何か違う気がするのだが。

しかし俺の疑問は、大笑いした女騎士が自らの剣を鞘におさめたことでさらに大きくなった。


「面白い。我が剣を前にして剣術で挑むか。その心意気やよし」


女騎士はなんと、急に居合いの構えをとった。


「ならば私も、同じ技で迎え撃とう」


その言葉を最後に、静かな時間が下りた。


女騎士は剣を己の最高の速度威力で放てる姿勢で静止つつも、適度に筋肉を弛緩させ瞬発力を上げている。

全身の筋力を一太刀に集約する居合斬りは、彼女の剣に今まで以上の威力を約束するだろう。


対するはにゃんとらー。

小さな体からは予想できない動きをするこいつは、頭を下げて後ろ脚に力をためている。

その力が解き放たれた時。その小さく軽い体は高速で走る黄色い閃光と化すだろう。


しかし。

しかしである。

俺はそんな両者に向かって一言だけ言わねばならない事がある。




「あのさ、二人で同時に居合斬りやってたら、どっちも動かないから勝負つかないと思うぞ」




直後、女騎士とモン○ターボール使いは、まさにこの世の真理を悟ったかのような表情で俺の方を同時に振り向いた。


どうも、最近シリアスばっかり書いてちょっと疲れていた作者です。

というわけで、モン○ターボール使い、次の残念系チートは君に決めた!!


……ハイ、自分の方にフラストレーションが溜まったせいか、当初予定していたより彼は十五割増ぐらい残念なチートになります。

残念で完膚無きまでに袋叩き(?)にしてやりますとも。

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