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50. 永訣の庭は命がけ

永訣の庭。

そこには魔女と呼ばれる老婆と、その魔女を守る騎士の二人が住んでいる。


それだけならば町中で生活していない、多少珍しいだけの二人だが、この魔女は非常に希少な回復系チート持ちだった。


ただ、彼女。

神様チートではなく、コリスや博士と同じく前世で得た先天系のチート持ちである。

そのチートのせいで前世では色々あったらしく、人間不信で人前にはめったに姿を現さない。


また、どういう因果か彼女の世話を焼いている騎士がいるため、そもそも接触できる機会というのがほとんどない。

どうしても必要なものは町で騎士が買いつけに行くし、食べ物は永訣の庭にある小屋横の畑で魔女が栽培した野菜などでまかなっているらしい。

ちなみに、この畑での余剰生産物は町で生活必需品と交換している。


ところで、どうして彼女たちのカルマ値は町の外に居を構えながらも跳ね上がらないのか。


彼女たちが某迷宮チートの引きこもりと違うのは、きちんと生産性のある労働をしているという事。

そしてもう一つの違いは彼女たちのところに尋ねていく者が後を絶たないという事だろう。


魔女が持つ強力無比な回復系チートは、はっきり言って他の追随を許さない。

噂の域を出ないが、この“アンダーワールド”においてならば死体が消えるまでならばどんな傷であろうと完治させるとの事である。

あまりに話に尾ひれがつきすぎて、「ロボットに命を吹き込む事が出来る」「魔女の首はねてやったら、それを自分で抱えて追っかけてきた」「ゾンビやスケルトンを魔女が治すと人間に戻るらしい」なんて好き勝手言われているが、それが半分冗談に聞こえないくらい魔女の回復系チートはすさまじいと言われている。


そこまでの回復系チートがありながら、この魔女のいる小屋の付近が“永訣の庭”と言われるのは、魔女がある条件を満たした者にしかそのチートを使わないためである。


その条件とは単純で、『騎士と戦って勝利しろ』という、理不尽なもの。

しかも、その内容もゲームとか知恵比べとかではなく、紛う事なき真剣勝負、つまりは命のやり取りを強いるのである。

そして勝利した場合、勝利者の要求する人物を一人治す。


しかし何よりの問題はこの騎士が、百戦錬磨の手練であるという事だ


今まで多くのものが返り討ちに遭って、逆に天に召された。

それゆえにこの場所は、最後の希望にすがってやってきた者たちに、永遠の決別を強いる永訣の庭として名をはせるようになった。

『誰も救えない、救われない場所』というのは、仲間を救おうとした者があの世行きになる、この理不尽な状況をして皆に言わしめたものであろう。


瀕死の仲間と再び語らう機会を得るか、それを望んだ本人がこの世を去るか。

一か八かの大ばくち。

それでも、挑戦する者は、多い。


「行くぞ、コリス」


俺は凍ったコリスをトラックの座席から抱え上げると、トラックに背を向け目的地に歩き出した。

ここはすでに永訣の森の近く。ロティのトラックが丁度燃料切れになったため、近くの茂みに駐車しているのだ。


「また留守番かよぉ……ったく、歯がゆいなぁおい」


ロティはそうぼやきながら燃料を補給しているようだ。

彼女のチートはトラックだけでなく燃料も生産可能なので、不思議な事に彼女の手のひらから燃料が、トラックの給油口へ流れ出ている。

以前ロティはこの性能を利用して、隠し芸大会で火を噴いて見せたが、若干暴発してアルダのひげが焦げたりしたのはいい思い出だ。

それを消火するために焦ったアイズが詠唱を始め、一時辺りは騒然となったりもした。


「なあ俺も連れてってくれよ」


その当の本人は今、絶賛駄々をこねておられるが。


「まだアウルが追ってくる可能性があるから、戦力は固まってた方がいい。最悪、三人で逃げてくれ」

「でも……」


納得が出来ないのか、地面を見ながらぼそぼそ言うアイズに、とどめとばかりに行ってやる。


「もうMPがあまりないだろう。それに、お前精霊の森を出たから、もう元通りの残念(チート)スペックだしな」


心の中で結構アレなルビを振ってやったが、アイズは気づいていまい。

とかなんとかほくそ笑んでいると、アイズがさらにうつむいてぶつぶつ言い始めてしまった。ちょっと言い過ぎたかなと心配していると、


「……永久不変の白銀よ、凍土より来たれ! ヴィン・イル・パードット」


ごう、と白い霧とともに彼の後ろに水の巨人がゆらりと立ち上がった。どうやら先ほどぶつぶつ言っていたのは俺への文句ではなく、詠唱だったらしい。


「って、神様のせいで精霊の森からは出られないはずだろ!?」

「俺の禁断の魔法は神をも超越するんだっ!」


んなバカな事があるものか、と思いつつも俺は少し真面目に考えてみる。


神様はあの森に精霊や人造神様をあらゆる方法で封印した。

それはもう、時空を超えようが結界(げんそう)をブチ殺そうが何をどうやったって出られない作りにしたはずだ。

それは神様にとって完璧な方策で、つまり、




「アイズの中二が神様の予測を凌駕したという事か……!!」




アイズはあまりにくだらない事で神を超越してしまったらしい。


「ほら、これだったら俺も足手まといにならないだろ。だから連れてってくれよキョーイチさ……ん……」


どういう訳だか、急にアイズの元気がなくなり始めた。

俺がステータス画面を見てみると、案の定、MPがゼロになっていた。もしかしたら、精霊を召喚するだけでMPオーバーキルになるのかもしれない。


MPは仮にも精神力だ。ゼロになったからと言って死にはしないが、倦怠感や眠気といった症状が出る者も多い。

アイズも急な事で驚いたのか、立ちくらみを起こしてへたり込んでしまった。


「たっく、留守番の次は子守りかねぇ」


ロティは苦笑しながらも俺に行けと手で合図をよこしてきた。俺は素直にそれに甘える事にする。


「必ず帰って来てくださいね」

「ああ、死なない(・・・・)程度に(・・・)頑張ってくるよ」


モニカの激励に応えながら、俺は永訣の庭がある小さな森へ足を踏み入れた。


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