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5. イベントは命がけ

突然だが、“アンダーワールド”と俺の元いた世界との違いをまとめてみよう。


まず、不老であるという事と前世の記憶があるという事。さらに、魔法があり、魔物がいて、みんながチート能力を持っている事。

これらはこの世界では普通の事である。


魔物は“恩典”を持っていて、それはたまにお金と一緒にドロップする。経験値がないため、強くなりたいなら身体能力を強化する“恩典”か武器に属する“恩典”を手に入れるしかない。

初期能力はチートによりけりである。


そして、俺が実は一番大きいと思っているのが、神様が影響力を持って実在する事。

これは大喜利の一件のように、時折神様が介入してきたりするという意味だ。


これがまたやっかいなのだが、この世界を管理する神様にも目的がある。

それを端的かつ「小説家になろう」風に言うと、『VRMMOのテストプレイ』のようなものである。


この世界には色々な生物や現象、病気や魔物といったものが溢れていて、この一つ一つが神様が新たに考案したものたちだ。

だが、これをすぐ普通の世界にぶち込むと、神様が予想もしなかった影響が出る事がある。

例えば、適当に人の数を減らそうとして作った新種のウイルスが人類を滅亡させたり、新たに作った植物が凄い勢いで増えて他の植物を圧倒してしまったり、新しい魔物が強すぎて異世界から勇者を呼ばれたり、といったものである。


特に最後の一つが面倒臭いらしく、


「何で人って困ったら関係ない奴巻き込もうとするかなー」


とか愚痴りながら、神様が必死で召喚の儀式を潰そうとしているところを見た、という噂がまことしやかにささやかれている。

また、


「チート能力を過不足なく与えなきゃならない神の身にもなれー!!」


とか叫びながら、次元の裂け目へよく分からない光り輝く何かを投げ込んでいた、という目撃証言もあった気がする。


それはさておき、この話からもよく分かってもらえたと思うが、神様とて万能ではないのである。

そのため、神様は『VRMMOのテストプレイ』のような事を“アンダーワールド”で行っている。

チート能力を与えるのもまた、その一環なのだろう。


しかしその事は、何も俺たちの利益にばかりなる訳ではない。むしろ、定期的に起きるとあるイベントで神様が本気を出す(より正確にはさじ加減を間違える)と、大量の死傷者が出る。


「こんちわー“アンダーワールド”のみんなー!!」


そしてそんな、のんきなのかテンションが高いのか分からない女の声が俺の頭に直接響いたのは、コリスと共にギルドを出てすぐだった。

隣のコリスを見ると、どうやら同じ声が聞こえたらしく、心底嫌そうな顔でこちらを見た。

これは嫌な予感しかしない。


「今日はちょっと新しい魔物作ってみたから、一時間後、試しにやり合ってみてー!!」


そう神様が言うと、それ以降周囲の様子が変わった。

ニルデアの町は活気のない方ではないが、神様の宣言が下った瞬間、にわかに普段とは違う喧騒が辺りを包みこむ。


「くそ、しばらく平和だったと思えばいきなり“祭り”かよっ!!?」


偶然近くにいた男なんかは、そんな事を叫んで何処かへ走って行った。


「どうするコリス?」

「どうすると言っても……腹をくくるしかあるまい」


神様の宣言はとあるイベントの告知である。

彼女|(?)はよく突拍子もない事を俺たち“アンダーワールド”の住人に命令するが、その最たるものがこの通称、イベントである。


その内容は『新しく作った野菜があるから美味しく料理してみて』といった簡単なものから『ちょっと新種のウイルスばらまくから頑張って』というすごく酷くて投げやりすぎるものまで様々だ。


そのようなイベントの中、通称“祭り”と呼ばれる甚だ迷惑なものがある。

先の発言にも端的に現れているが、簡単に言うと『神様が作った新種の魔物と戦う』という、すこぶる分かりやすいものだ。


これだけを聞くと、ドラゴンとやり合っても何ともなかった俺やコリスなら大丈夫だと思われるだろう。

だが、“祭り”なんて呼ばれるだけあって、このイベントは恐ろしく性格が悪い。何故かというと――



――この“祭り”、全員強制参加なのだ。



それはもう、生産系チートなどを選んだ非戦闘員の方から、先のソーイチ君のような残念系チートの皆様まで、町一つ分の住人が丸ごと参加させられる。

町から逃げようが部屋に引きこもろうが強制的に転位させられてしまうのだ。

空間操作系チートで逃げようとしても、相手は神様なので『神の奇跡』とやらで逃走を封じられてしまう。


これだけでも被害が甚大な事になるのだが、もう一つ問題がある。それは、相手が新種の魔物だという事である。


そもそもどうして神様が俺たちに魔物戦ってくれと言ったか思い出してほしい。

神様は自分の作った魔物のスペックがどれほどか知りたいのである。それは裏を返せば、誰も習性や能力を知らない相手と戦えという事である。

当然、一時間の猶予を与えられたものの、対策など立てられるわけがない。

せいぜいがパートナーと落ちあったり、回復薬を買いに行ったりできるぐらいである。


この“祭り”はどうやら、俺たちがこの世界にずっと居座る事が出来ないように設定されているものの一つらしく、回避する方法は基本的にない。

特殊な“恩典”を使うか、そうでないなら町以外で生活するかの二択である。

後者は“祭り”の被害に遭いにくくなる代わりに、普段から魔物に出会う危険にさらされるのでどっちもどっちだ。

余談だが、『“祭り”の被害に遭いにくく(・・・・・)なる』というのは試したアホな先達がやはりいるから分かっている事である。


彼は町の外にチートで地下迷宮を作り、その最奥で生活していたのだが……やはり神様の逆鱗に触れ、強制参加させられてしまった。


「地下迷宮で俺スゲーするんだーーー!!!」


と叫び続けた彼を、その“祭り”以後、見た者はいない。


さて、そういった事例は元より、様々な理由で恐れられるこの“祭り”。

だが、当然俺にとってはなんて事ないイベントである。


『リスタート』がある以上死なないし、する事と言ったら出来るだけみんながやられないようおとりになるだけだ。コリスは俺が助けなくても死なない程度には強い。

飛行する魔物だともう俺は手も足も出ないので、本職の『カメハメロケット(笑)』の皆さんに任せる。

……いや、彼らも好きで空飛んでるわけじゃないんだけどね。


そう思っていた俺はこの時、ある重大な事実を失念していた。


「キョーイチさーん!!」


とんでもない友人が、この町にいたという事実を。


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