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49. 方向転換は命がけ

トラン○ムの速度ははっきり言って異常だった。

エンジンが異常な駆動音を上げ、サスペンションは悪路にさらされ悲鳴を上げる。


時速二・三百キロは出しているのだろうが、吐き気を感じるほどに体がシートに押し付けられる。

俺の想像力がそうさせるのか、体の中の血液が振り回されている感触すら感じてしまう。


しかも地面が舗装されていないため、飛んだり跳ねたりして、よくもまあ倒れないもんだと思わず感心(げんじつとうひ)してしまった。

おそらくこの三倍速システム以外にも博士が手を加えたのだろうが、ロティの運転が神技の域に達している事も間違いなかろう。


と、そんな事を考えているうちに森を抜けた。


どん、とトラックが最後の上下運動を終え、若干舗装された地面に降り立った。

地面には既に魔法陣はなく、アウルの姿も見えない。


召喚術式の範囲外から出たのか、それとも捕捉速度を超える逃走だったのかは分からないが、さすがにもう大丈夫だろう。


「このまま燃料が続く限り逃げる。行先に希望はあるか?」


ロティの問いに、俺はすぐさま、頭に浮かんだ場所を言った。


永訣(えいけつ)の庭」


ロティは一瞬怪訝な顔をしたが、すぐに納得したのか獰猛とも取れる笑みを浮かべた。


「あの偏屈ババアんとこか。万が一って事もねぇだろうが、騎士様に気をつけなよ」

「ああ、分かってるよ」


どのみち、俺の知っている中で確実にコリスを治せそうなのはそこしかない。

博士の回復薬の類はアイズのチートをかけた時点で効く可能性が低くなってしまった。「かい○くのくすり」だとかなら何とかなりそうだが、あれでは瀕死状態は治らなかったはずだ。しかも、瀕死かつ氷漬けというオーバーキルに効きそう万能薬に、俺は心当たりがない。


ゲーム関連の回復アイテムは、大抵がHPの回復と死んだ状態からの蘇生を別々のアイテムで行っている。

例えば、「まん○んくすり」と「なんで○なおし」を足したような効果を「かい○くのくすり」は持っているが、「げんきの○けら」と「かい○くのくすり」の複合効果を持っているようなものは、ほぼないのである。


何より、博士の『人間であろうとする姿勢』を考えれば、死者蘇生を行うような薬をストックしたり研究したりしている可能性は低い。


そのため俺は直接永訣の庭に行くことにしたのだ。


「勝算はあるのか? あの騎士様は中々やるぜ?」

「何とかするさ、少なくとも、俺は負けない」


俺は腕に抱いたコリスを見た。

時間が止まったように笑いも怒りもしない、血で汚れた彼女の氷像はあまりに悪趣味だった。


「ははっ、まあ“戦刃(せんじん)”をぶっ倒した男だ。オレも信じるぜ」


ロティは軽快にハンドルを切り、行き先を永訣の庭に定めた。

余談だがこの方向転換でとどめを刺されたアイズは、外に向かってなんというか『おや、アイズの様子が……おめでとう、アイズはマーライオンに進化した!!』状態になっていた。より直接に表現するならリバースしていた。

そして全くおめでたくなんてない。


「この世界に神はいない」


なんか悟ったような事を言いながら胃袋の中身をぶちまけているが、こんな神様が実在する世界でそんな事を言うと、カルマ値が跳ね上がったりしないだろうか。心配である。


俺はそんなどうでもいい事はひとまず置いておいて、自分の勝算について考える。

というのも永訣の庭にいる魔女は、どんな怪我でも治せるチートを持ちながらとある条件を満たさないと治療を請け負ってくれないのである。

そしてそれゆえに永訣の庭は、この理不尽なる“アンダーワールド”の住人をして『誰も救えない、救われない場所』と形容される。


「あの、永訣の庭ってどんな場所なんですか?」


しかし、最近まで天空城に閉じ込められていたモニカは、有名な場所であるにもかかわらず知らないらしい。


「性悪魔女とその騎士様が住む小屋の事だよ」


俺はモニカに説明してやる。

永訣の庭という場所が“永訣”たる理由を。


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