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46. パク……インスパイアは命がけ

俺は今、この“アンダーワールド”に来てから今一番驚いているかもしれない。

その原因はコリスの師匠たるアウルについに出会った事、そしてその魔法の強烈さ理不尽さを目の当たりにしたからでは、無論ない。


全力のコリスが押されているからである。


コリスの雷撃はことごとく黒い炎に呑み込まれ、焼き尽くされるのに対して、アウルの炎も刃も彼女の攻撃では相殺できない。

本来なら炎と雷なんてぶつけ合っても拮抗しないだろうし、刃なんてなおさら雷ではどうしようもないため――おそらく魔法の性能か性質の差なのだろうが――明らかにコリスが不利だ。

何よりタチが悪いのは、あの黒い炎がアウルの全身を覆うオーラのように展開されている事だろう。


時折アイズのチートが襲いかかったりするが、どうやったってあの防御は貫けない。

アイズのチートは炎の精霊を凍らせたことから考えて、例え炎であっても認識さえすれば凍らせることが出来るはずである。

下手をすれば空気のように目に見えないものや、思考や意志みたいに概念的な存在なんかですら、凍らせられるかもしれない。

そんなアイズのチートでも凍結出来ないという事は、その性質(チート)を凌駕する何か(チート)を、アウルの炎が持っているという事だろう。


そして、コリスが『虚無の万雷(ナラントール)』を使った影響で魔力が残り少ない事も戦況をじりじりと悪い方向に傾けている。


勘だが、コリスの魔力はすでに、残り二割を切っていると思う。


以前命を狙われた時に、執拗な嫌がらせと挑発で魔力切れに持ち込んだ経験がこんなところで役立つとは思わなかったが、二割ほどだと思う。

当然『虚無の万雷(ナラントール)』はもう撃てないし、撃つにしてもこのアウルがそれだけのスキを見せてくれるとも思えない。

あの魔法は威力と攻撃範囲が固定されているため、必然的に消費する魔力の最少量もほとんど減らす事が出来ない。

それに『虚無の万雷(ナラントール)』が仮に撃てたとしても、手札を見せすぎてスキを作りようがない。


また、俺のについては言わずもがな、攻撃性能については常人の域を出ない。

実は奥の手が一つあるのだが……おそらくあの黒い炎を貫く事は出来ないと思う。せいぜいが予想外の反撃で驚かせる程度だろう。


となると、これはもう逃げるしかないのではないだろうか。


俺は正面から戦わず、足をつぶすなりアイズのチートでアウルを足止めする方法を考えていた。

だが、そう上手くいくはずもない。

アウルが死なない俺とすぐには倒せないコリス、ちょくちょく攻撃してくるアイズを並べてみた場合、誰をまず始末しようとするか。


「うっとうしいぞ!!」


当然、まずアイズが狙われるのである。

一方当の本人は、


「吹雪ゆえの白、清純白(オールクリアー)波紋○走(ブリザード)!!」


と、中二的痛さと版権的危なさの間で綱渡りしている。

あとどうでもいいが、波○は太陽の力に似たものであって、アイズの使っているチートはむしろ対局の属性――吸血鬼側の気化冷○法なんかに近いんじゃないだろうか。


と、俺がどうでもいい事で悩み始めたあたりで、アイズの放った何らかの熱意のこもった冷気の塊という、あやふやで矛盾した波動のような何かが、アウルに直撃した。


しかし、無傷。

黒い炎はどうやら、魔法だろうと物理攻撃だろうと焼き尽くすようである。


お返しとばかりに、アウルから銀の刃の散弾が放たれた。


アイズは全力でチートを放ってから、横に跳ぶ。

そしてその判断は正しい。


銀の刃は、アイズのチートを貫いてさっきまで彼がいた地面に深々と突き刺さった。


「あっぶねぇ!! 俺の禁断の魔法を貫くとは……」


アイズはぶつぶつ言いながらもアウルから目を離さない。さすがに戦い慣れている。


「ふむ、面倒だな」


コリスの雷撃を軽くいなしながら、男は俺に向かって言う。


「少年、君は何か勘違いしていないか?」

「……何をだよ」


さも不機嫌そうな声で俺は応じた。

こっちがどう考えても不利なので、時間稼ぎになる会話をするのは好都合なのだが。


「私は特に、君たちを殺す気はない。コリスも含めて、ね」


コリス、と名前を呼ばれるだけで、なぜか俺が不快感を感じるような声だった。


「もともと殺人なんて野蛮な事は好きではない。それに、ここでの用は精霊や人造神様からのサンプルデータの採取だ。それももう終わった。ここにも、コリスにも用はない」

「その割にはずいぶん好戦的に見えたが?」


言いながらも、俺は攻撃の手を休めている。


「ふむ、そもそも私は――」

「キョーイチ騙されるな! 代替詠唱(フェイクスペル)だ!!」


コリスの叫びで、大体の事情を察した。

神様の言語チートがコリスの言葉を言葉としてでなく意味として伝えてくれたからだ。


突如、アウルを包んでいた黒い炎が、膨れ上がる。


俺はその姿を視認しつつ、走った。

アウルの代替詠唱(フェイクスペル)というのは、どうやら『魔法の詠唱を会話に偽装する』魔法のようで、俺とのやり取りは全てこのためのものだったようだ。

ということは、今回の攻撃は今までの無詠唱の攻撃とは比べ物にならない威力を持っているだろう。

俺が走っているのもそのためで――

――黒い炎が爆発し、銀の刃が全方位に降り注いだ。


俺は両手を広げて、それを迎え入れるように受ける。


「キョーイチさん!!?」


背後でアイズの悲鳴が聞こえるが、無理もない。

何せ、俺は攻撃が広範囲なものである可能性を恐れ、射線を読んでアイズの前に立ったのだから。

すぐに『リスタート』で復活する。

アイズは爆破の余波で吹っ飛ばされ、頬に浅い切り傷を負っているが無事だ。コリスの方というと、どうやらほうきで全部撃ち落としたらしい。

どうでもいいが、あのほうき大鎌より頑丈なんじゃなかろうか……。


「どうして俺をかばったんだよ!!」


そんな事を考えていると珍しく、アイズが俺に突っかかってくる。

というか、胸倉を掴んできた。


「ちょっと、お前、今そんな場合じゃ――」

「どんな場合だってんだよ!?」


俺はアウルに背を向ける形でアイズに身動きを封じられた。

今は魔法の反動なのか、攻撃して来ていないがまずい。


「俺だって戦えるんだ!! 守られてるだけじゃないんだよキョーイチさん」


アイズはそう言うと俺をにらみつけた。

その目には怒りだけじゃなくて、悔しさやあこがれも混ざっている事に気づいた俺はアイズが考えている事を、察してしまう。


「この森に来て俺も魔法を上手く使えるようになったんだ!! だから、」


アイズの周囲に漂う白い靄と、背後の巨人がざわついてその雰囲気を変えた。


それをみとめた俺は、




代替詠唱フェイクスペルエター○ルフォースブ○ザード!!」




阿吽(あうん)の呼吸でバカの新技を避け、アウルへの射線を開けたのだった。


「人の詠唱方法(せってい)パクって威力が上がっているだと…………」


脱力気味な突っ込みも忘れずに。


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