44. 黒歴史は命がけ
アイズに話を聞いて、分かった事がある。
この氷の精霊は、アイズの生み出したエター○ルフォースブ○ザードの精霊だったのである。
どうやらアイズはチートを使う際、精霊を召喚するかその力の一端を借りるイメージでエター○ルフォースブ○ザードを発動しているようだ。
このため、本来ならばどこで発動しても、この氷の精霊が召喚されてくるはずなのだが、氷の精霊は神様に精霊の森に封じ込められていた。
結果、精霊の森内部で使ったときのみ、この精霊が召喚されてくるという事なのだろう。
精霊が召喚されてきた影響か、アイズはMPオーバーキルを使っているわけでもなく、反動として周りの水分を集めてしまったりもしていない。
精霊が来たことが影響しているのだと考えられるが、今まであれだけの威力を誇っていたアイズのチートが本調子でなかったと考えると、恐ろしい限りである。
「ヴィンなんだな!!?」
「そなたが我がマスターか」
当の本人は絶賛黒歴史を盛っておられるが。
ただし、この会話は炎の精霊をすべて氷漬けにした後の行われたものである事を断っておく。
このバカ、方々に散らばってる炎の精霊を二三体ずつ撃破したにもかかわらず、どういう訳だかMPが半分以上残っている。
こいつのチートがMP依存ではなくて黒歴史依存というか、冗談抜きで将来の大切な何かを犠牲にしたある種の時限術式である可能性が出てきたが――
――もう考えた方がいろいろとバカを見る気がするので突っ込んだ考察は抜きにする。
おそらく今のアイズなら、威力を調節してチートを後十数回行使できるだろう。
正直性能が上がりすぎて怖い。
“アンダーワールド”クオリティを考えれば何か落とし穴がありそうだが、単純にこのチー産物の森を出れば元のスペックに戻る事を考えれば、局所的なパワーアップだから許容範囲事なのだろうか。
カルマ値にも、今のところおかしな動きはない。
慎重に確認を繰り返しながらも、俺はロティに俺の考えを話した。
「コリスを助けに行きたいんだが、ちょっとヤバそうなんだ」
コリスの相手が、最悪のケースだった場合を考えると、脱出経路をロティに確保しておいてもらいたい。そのため、俺はロティにはいったん隠れておいてもらう事にした。
「こそこそすんのは性に合わねぇが、逃走なら任せろ。奥の手がある」
そう自信満々に請け負ってくれた。
「モニカもついて行ってくれ。俺だけで行く」
「……はい。たぶん説得しても聞いてもらえないでしょうから。我慢します。頑張って来てくださいね、勇者様」
モニカは最後に俺がノリでオロチに勇者と名乗ってしまったという、黒歴史をぶち込んでから、ロティの手を借りてトラックに乗った
「……モニカ生きてたのか!?」
「普通に遅いからな」
俺は冷静に突っ込むと、アイズにもさっさとトラックに乗るように言う。
こいつのチートが高性能になっているとはいえ、こいつは不死身じゃない。コリスが苦戦するであろうソイツの相手をするというのに、連れて行くわけにはいかない。
「俺も行かせてくれよキョーイチさん!!」
アイズはそう言うと、俺を真剣な目で見つめる。
「俺たち、仲間だろうが!!」
「……そうか」
アイズはきっと気づいている。
俺が一人でまた危険な事に飛び込もうとしていると。
それでこいつ自身、色々と思うところもあったのだろう。だからこそ、こんな事を言い出したのだ。
俺はアイズの鋭い双ぼうを見返して不敵に笑うと、アイズの両肩に手を置いた。
「アイズ、正直に答えてくれ」
これは、俺からの最後の確認だ。
「本当はお前――」
ごくり、とアイズが生唾を飲み込んだのが分かった。
「自分のチートが強くなったから、試し撃ちをもっとしたいだけだろう」
「……」
アイズは目をそらすと、ばつが悪そうに鼻の頭をかいていた。




