42. 陽動作戦は命がけ
作戦はこうだ。
俺が炎の精霊を『リスタート』でかく乱。その隙にアイズのチートで一網打尽にするというシンプル・イズ・ベストを地で行く感じである。
シンプルすぎて説明もこれで終わりであるが、すでに俺はトラックの外に移動している。
ある程度任意の場所から復活できる『リスタート』を利用し、物理法則を色々無視して移動したのだ。
目の前には炎の精霊の群れ。
久々の一対多数の戦いに、少しだけ緊張する。
同時、コリスが隣にいてくれたありがたみを、改めて実感した。
「さて、と。それじゃあ行きますか」
俺はそう自分に言って、両手に持ったナイフを精霊たちに向って 投げつける。
おそらく物理的な攻撃はあまり効かないだろうが、こちらに注意が向きさえすればいいので、俺はアイテムボックスからナイフを取り出し手は投げ続けた。
「効かぬ、効かぬわ!!」
「死ぬがいい! 喰らえ!! ファイヤーランス!!」
槍みたいな形をした炎の塊が、俺の体に突き刺さった。
俺は少し離れた位置で復活し、すぐさまナイフを投げる。
「瞬間移動とはこしゃくな!!」
チー産物の精霊たちは俺が強いと勘違いしてくれたようで、俺から先に消そうと各々の魔法をぶっ放した。
しかし、半数以上がやはり、アイズ達の乗ったトラックが消えた方へ行こうとする。
数が絶望的だ。
そう思った時、轟音が辺りを駆けぬけた。
俺が驚いてその方向をみると、極大の雷撃が空から落ちていた。
あれは、間違いない。コリスの雷撃だ。
コリスはあそこにいる。
「な、なんという魔法だ」
精霊たちの間にも動揺が走っていた。
それを見た俺は、いい事を思いついてしまった。
成功する確率なんて低いが、相手は中二病が作った精霊。騙せないでもないかもしれない。
毒をもって毒を制すというやつだ。
俺はそう思い、即興の作戦を決行する。
「ちっ、座標指定の詠唱を間違えたか」
ぼそり、と聞こえるかどうか怪しいぐらいの声でこんな風につぶやいたのである。
「な、まさか今のは貴様の魔法か!!?」
「魔法の起点を自分以外の場所から……しかもあれだけ離れた位置に、あれだけの威力を……?」
精霊たちの間に再びの動揺。
俺自身、あまりに上手くいきすぎてびっくりしているのだが、おかげで敵のほとんどは俺を囲む形で遠巻きに警戒している。
「貴様何者だ!!?」
精霊がそう俺に聞いてきた。
そして俺は少しだけ考えて、丁度いい名前を思いついた。
「我が名は――」
悪戯心が刺激され、やけくそ気味に思いっきり、中二っぽく言ってやる。
「アウル」
瞬間、全方向から全精霊が、俺に魔法をぶっ放した。
予想外の反応に、俺は驚きながらも『リスタート』で復活する。
「貴様が、噂の……」
その一言は、俺を動揺させるには十分だった。
そしてバラバラだったピースが一つの絵になるように、俺の中に最悪の予想を描き出す。
神様の言う罰――先ほどの雷撃――精霊たちの反応――転生するかどうかはコリス次第という発言――アウル――神になろうとした悪魔――“知悉の特赦”――神様の対応――
――まさか。
今コリスと闘っているのは。まさか。
俺がそこまで考えた時、少し離れた位置で炎柱が上がった。
あれはロティのトラックが逃げた方向だ。
(クソ、一匹取り逃がしてたのか!!)
俺はそう胸中で悪態をつきながら、急いでトラックの方に向かった。
まずはこの精霊たちを切り抜けなければ、どうしようもない。




