41. 精霊王の相手は命がけ
まあ、結果的に言うとなんの事はない。
「頭が高い」うんぬんと叫んだチー産物の精霊と、精霊王(笑)と、ついでに「精霊王様が出るほどの事ではありません、ここは私に――」というセリフの途中だった精霊を突っ切って俺たちのトラックは駆け抜けた。
死亡フラグを忠実に回収する部下を持っているとは、精霊王(笑)もなかなかやるなと思う。
そんなどうでもいい事は置いておくとして、俺たちは非常に困った状態に陥っている事を、まず明言しておこうと思う。
「出あえ出あえ!! 精霊王様の仇だ!!」
「うぉぉおお!!我が“尼×竜の驚き”を受けてみよ!」
「地獄の業火よ来たれ、かの者を灰燼に帰さん――」
背後から炎の精霊がたが、チー産物としてのスペックを総動員してこちらを追って来ておいでなのである。
なんか変なカップリンg――技名叫んでるやつもいるな、うん。
それにしても、詠唱してるやつまで混ざってるが、移動しながら詠唱するなんて反則というか歩きたばこ的なマナー違反じゃないだろうか。
「おいこれやばいぞキョーイチさん!!」
「わかってるよ」
アイズの指摘ももっともだ。
背後から迫ってくるチー産物の精霊たちは、武器を投擲したり炎の玉をぶっ放してきたり巨大化したり技名叫んだり、もはややりたい放題である。
トラックが大破するのは時間の問題と言えた。
「ロティ、出来るだけ引き離して、一旦トラックから降りよう」
「ああ、分かってるよ!! 分かってるが、中々振り切れねぇんだよこのクソったれどもが!!」
ロティはそう言いながらも、冷静かつ大胆なハンドルさばきで攻撃を避ける。
周囲の地面に何度も、炎柱が上がり、灼熱した武具が突き刺さる。
「えい!!」
時折、モニカがチートで畳やら木製の壁やらを生み出して攻撃を受けたり弾いたりしてくれているが、強度が足りなさすぎる。
時に貫かれ、時に打ち砕かれ、盾としてはほぼ意味をなしていない。
モニカのチートは、ある意味すごい経歴を持ってはいる。
なんせモニカが神様に向かって、
「理想のお嫁さんになりたいんです!!」
の一点張りで通した結果、なんやかんや面倒になった神様がうやむやなチートとして仕上げたものだ。
その能力は「“家”というイメージに含まれる存在を自在に生み出す」という、もうホームセンターのチェーン展開でも始めればいいんじゃないかと思うようなチートである。
畳に湯呑、たんすにこたつ、家の一部なら時には壁や屋根でも部分的に生産可能なのだが、攻撃性能が全くと言っていいほどない。
そして、食料品関係は適用外なため、サバイバルで役に立つわけでもない。つまり、完全に非戦闘員である。
「くそ、キョーイチさん。俺のチートぶっ放していいか?」
そうアイズは俺に聞いたが、俺は首を振った。
俺とモニカは問題がないとして、アイズのチートを使えばロティが行動不能になる。
かといって外に出て使えるかといいうと詠唱している時間がない。
考えないでもなかったが、俺もさすがに痛い詠唱が終わった瞬間アイズを外に蹴り出すという折衷案は、リスクの割に尊い犠牲しか生まない気がするので却下である。
まさか、時速数十キロのトラックから蹴りだされた零コンマ数秒で、炎の精霊全員を的確にターゲッティング出来る訳もないし、アイズのチートの反動が誤ってトラック内に及ばないとも限らないのだから。
そこまで考えれば、もうこれは誰の出番なのか一目瞭然というものだ。
「じゃあどうするんだよ!?」
アイズがそう叫んでいる。言葉を発しないだけで、モニカもロティも、不安な表情を隠せない。
俺はアイテムボックスに山ほど収納されているナイフの一本を取り出すと、それらに応える。
「安心しろ、俺がなんとかする」




