40. 考察は命がけ
ロティのチートは、「小説家になろう」風に言うと転生トラックのようなものである。
トラックにひかれたり通り魔に刺されたりして転生するのは「小説家になろう」冒頭のテンプレ展開の一つであるが、ロティのトラックは少しだけ事情が違う。
ひき殺した相手を転生させるのではなく、ひいた相手を転生させるという点において。
些細な違いだがこの差が俺をして、ロティのトラックの攻撃力を“アンダーワールド”屈指と言わしめた原因である。
なぜならロティのトラックは、一定速度以上で走行中に接触した相手を強制的に転生させるというチートが付加されているだから。
このため、先ほどのチー産物の精霊のように触れればこちらが燃えてしまいそうな相手でも触れるだけで倒せるし、接触の際にトラックには何ら衝撃が来ない。
加えて、俺のような不死身チートすら必殺出来ると考えられ、ある意味では攻撃力は最強クラスといえよう。
このチートの弱点は二つ。
転生効果の当たり判定がトラック前面にしかなく、側面からの攻撃に弱い事。
そして転生というだけあって、この攻撃は生物にしか効果がないことである。
前者についてはロティのハンドルさばきでどうとでも出来るのだが、後者については色々と注意が必要となる。
先ほどのような飛び道具やコリスの魔法のようなものなら、余裕でこのトラックを破壊できるのだから。
また、生物無生物の基準についてだが、
「オラオラ近道するぜぇぇ!!」
「ちょ、木が、木がぁ!!」
アイズの叫びどおり、ロティは先ほどから木の存在を無視しながら走行している。
接触した木は跡形もなく彼女のチートで天に召されたため、何ら衝撃は来ない。
……さて、このようにロティのチートは人間だけでなく動植物にも効果があり、先ほどの接触で精霊にも効果がある事が実証された。
魔物にも効く事は以前に検証しているし、これらの事から二つの事柄について考察を加えたい。
一、ロティのチートは生物を強制転生させる効果がある。
二、人間だけでなく、動植物や精霊、魔物にも魂はある。
という問題についてである。
一については、トラックが転生させる対象が「魂のある相手」なのか「ロティが魂があると考えた相手」なのかが正直分からない。
そして前者だった場合、二について考えると、俺たちは来世にフジツボになったり精霊王(笑)になったりする可能性が浮上してきて、不穏当でややこしい事態になる。
また、神様が何らかの手抜き処理をしているという説もあるが、それについてはまさしく神のみぞ知る事である。
さて、ここまで言うとわかってもらえると思うのだが、ロティのチートは魂というあやふやな存在を扱うため、結果以外が全く分からないのである。
どう処理をしてるのか、対象の範囲はどうなっているのか、そもそも本当に転生するのか、魔物やチー産物にも魂はあるのか、俺の来世はどうなるのか――と疑問しか浮かんでこない。
それこそ天空城をつついてオロチを出せそうな面白いチートなのであるが、検証のしようがないのが残念なところである。
ちなみに、とある宗教家の男がこの性質に目をつけ、ロティを勧誘したこともあった。
“アンダーワールド”古参の一人で、“戦刃”と裏で表で恐れられた、ある意味で痛い男であった。
ロティは神様を信じたり哲学的思想に浸ったりするタイプではなかったし、その男の事も気に食わなかったので話を蹴ったのだが、それがその男のプライドを逆なでした。
結果、ストーカーの如く一時期つきまとわれていたのだが、何の因果か、その男は俺とコリスによって排除された。
なぜなら偶然にも、“戦刃(笑)”はコリスに俺の抹殺を依頼した奴だったのだ。
結果、俺はコリスと出会い、ロティにも感謝された。
今回ロティが俺に肩入れしてくれたのも、この時の事に少なからず恩を感じているからだろう。
「ぶっ飛ばすぜぇぇ!!」
今の本人はどこぞの警官のホ○ダみたく、熱くなりすぎて性格が変わっているようにすら見えるが。
「すごい。すごい運転ですねロティさん!!」
「あぁぁあ、目がぁぁああ、目がぁあぁぁあああ!!」
一方後部座席ではスバ○……じゃなかった、○ルスと叫びたくなるようなセリフを叫んでいるバカがいる。
まるで絶叫系アトラクション好きな彼女と、彼女に無理やり一緒に乗せられた怖がりな彼氏さんのようでもあるが、俺もあんまし余裕がないんでスルーの方向で行こうと思う。
「しっかし精霊の森ってのもこんなもんかね」
ロティがそう言うのも無理はない。
先ほどから初めに倒した炎の精霊以外には、二体の精霊あるいは人造神様を屠り、十体ほどを見かけた程度である。
コリスが暴れた結果なのか、それとも他に理由があるのか。
「様子がおかしいって事は、何かあるんだろう」
「ああ、良くも悪くも、な」
ロティはそう応じると、ほんの少し速度を上げる。
同時、木をなぎ倒し続けていたためにふさがっていた視界が、一気に開けた。
「……」
「……」
同時に絶句する俺とロティ。
目の前に立ちはだかるのは、先ほど相手をした炎の精霊。
目算、五十体ほど。
大小無数の精霊たちは、なんかひときわ大きくて偉そうな感じの炎の精霊の前にひざまずいておられた。
そのうち一体が振り向くと、地を震わすような低い声で叫ぶ。
「頭が高い! 精霊王様の御前であるぞ!!」




