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4. 目的達成は命がけ

俺のこの世界での目的はとある“恩典”の回収である。

俺は神様にその“恩典”の有無を確認しているので、存在する事は間違いない。


俺が探している“恩典”とは、自分の死因を知るというものだ。


『リスタート』で不死身な俺が死因を知りたいというのも皮肉なものだが、俺は前世で死んだ原因が全く分からないのである。

前世での山瀬恭一の記憶は、いつも通り布団に入っていつの間にか寝ていたところで途切れている。その後、何があったのかは全く分からないが、気が付いたら“アンダーワールド”で神様とご対面だったのだ。

俺がもし「小説家になろう」の愛読者でなければ、状況の把握にアホみたいな時間を要した事だろう。


それはさておき、“恩典”についてもう少し詳しく解説しようと思う。


“恩典”には簡単に言って二種類ある。

この“アンダーワールド”で効果が出るものと、転生後に効果が出るものである。


前者が圧倒的に多く、魔物の類を倒すとお金とともに落ちる事がある。

RPGみたいで楽しそうとか言った奴は、冒頭で俺がドラゴンに追いかけられていた事を、もう一度思い出してほしい。


……どうだ、圧倒的力の差に夢も希望もなくなるだろう?


これが“アンダーワールド”クオリティ、通称『()骨に()ワーバランスが()臨終なさってるwww』だ。

ちなみに、この標語はギルドで暇つぶしに開催された大喜利の最優秀作品である。アルダの独断で選ばれたものだが。

この作品を含む優秀作たちは、ギルドに併設された酒場の壁に、ささやかに飾られている。興味のある奴は一度見に行けばいい。


授賞式で最優秀賞を取った男が、自分の世界をけなされてブチギレた神様に強制転生させられたという、甚だアホな逸話を持つ作品集である。


それはさておき、魔物の話に戻る。

魔物にはスライム的ポジションの弱い奴もいるが、そういう奴はえてしてどうでもいい“恩典”しか落とさない。

薬草とか、毒消しとか、そういったアイテムも“恩典”なのだ。


そして、これがRPGとの最も大きい違いなのだが、経験値がないためレベルアップなど全くしないのである。

つまり、スライムを何万匹倒したところで、強くなんてなれない。


身体能力強化系の“恩典”はどんな魔物でもランダムに持っているが、その強化の数値は所持している魔物のステータスに依存するらしく、強い奴ほど効果が高い。例えば俺がスライムだけ倒してドラゴン狩りを目指しても、おそらく数百年の時を要するだろう。

……実際、スライムハンターと呼ばれた古参の奴は、強くなるのにそれぐらいかかったと言っていた。

試したあんたは凄いと、俺は称賛の拍手を禁じえない。


また、“アンダーワールド”で効果のある“恩典”は、売買する事が出来る。逆に言えば転生後に効果のある“恩典”は、魂に直接刻まれるらしく、取引のしようがない。

身体能力強化系の“恩典”は、見た目からでは上昇値が分からないため、売買される事はほぼない。使うまで効果の大きさが分からないから、値段のつけようがないためだ。

それに、“アンダーワールド”で使える“恩典”でも、エリクサーとか貴重なものになるとさすがに店には売ってない。

どうしても欲しい場合、個人的に交換したり、報酬でもらえる依頼をこなしたりする。

今回の依頼も、コリスがとあるアイテムを欲しがったために受けた。


「はいよ、これが報酬の『デスカイザー』だ」


アルダがものっすごいダサイ名前の武器をコリスに渡した。

それは三日月形の刃を持つ大鎌だった。

この中二臭い武器が、コリスの欲しがっていた武器、『デスなんたら』である。名前を呼ぶだけでなんかヤバい菌に侵されそうなので、俺は速攻で忘れる事にする。


「これでまた一つ、強くなったな」


コリスはそう言って自分の身長よりでかい大鎌を試しに振り回した。

いや、俺の首に向かって振りぬきやがった。


「痛ってぇな、何しやがんだ!!」

「いいじゃないか、試し斬りぐらい。死なないんだから」

「いや今死んだよ!? つーか死なないんじゃなくて生き返るだけだからな!!?」

「細かい男だな」

「人を殺しといてまさかのセリフ!!?」


コリスは悪びれた様子もなく、肩をすくめる。

残念ながら、こういうやり取りはよくある。


さすがに今日の依頼で、竜の巣に崖の上から蹴り落とされた時は真剣にブチ切れてやろうかと思ったが、この程度はいつもの事なのである。


「おいおい、床が血で汚れたじゃないか」


むしろギルドが汚れた事で、アルダの方が機嫌を損ねている始末である。


「ちゃんと掃除しとけよ」


そう言って、アルダは雑巾を俺に差しだした。

……って、俺!?


「何で俺なんだよ!?」

「お前の血じゃないか」

「こいつのせいで流れた血だぞ!?」


そう言って俺はコリスの事を指さした。


「面倒だから嫌だ」

「魔法でちょちょいとやりゃあいいだろうが」

「そういう細かい魔法は持ち合わせてない」

「そんな事言って、出来ないだけだろう?」


こう見えてコリスはプライドが高い。

案の定、俺の言葉を受けて不機嫌そうに口を開く。


「町からネズミを退治しようとして、町ごと吹っ飛ばすバカがいるか? 魔法とは、そういうものだ」


てっきり売り言葉に買い言葉でやってくれるかと思ったが、そうはいかないらしい。

それなら仕方ないと、俺は雑巾をアルダに渡して言った。


「ソーイチ君にツケとけ」


憐れな君の境遇には、俺も一応同情してるんだぜ?


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