38. 脳内設定は命がけ
さて、以前にアイズがチートを使った時の事を思い出してほしい。
あの時アイズが、痛い詠唱の中で精霊がどうの神がどうのと言っていたのを覚えているだろうか。
あの手のチートは往々にして、そういう存在の力を借りたり、あるいはそういう存在そのものの力の一端を顕現させて力を行使したりする。
ただ、それは設定上というか、詠唱文句というか……ね。
平たく言えば、十四歳付近の方々が自分の脳内で展開している、彼らなりの魔法行使の方法なのである。
これだけなら何一つ問題はない。
彼らの脳内で精霊王だったり天にまします神様だったりを好き勝手妄想してくれても、なんら実害はないのである。
ではなぜこんな話をし始めたのかというと、この“アンダーワールド”において、それが実害を伴う時代があったのである。
“アンダーワールド”初期の頃、チートを行使するにあたって精霊だの神だのを実際に顕現させてしまっていた時代があった。
チートの使用者が自身を納得させるため、それらを世界の片隅に、人知れず産み落としてしまっていたのである。
顕現させられた精霊や神は、使用者の脳内設定の通り、海を荒れ狂わせたり一年に一度生贄を要求したりと、好き勝手に暴れまわった。
モノによっては別の世界一つ創造したり、名前を書いた相手を殺すノートを訪問販売したりと、やりたい放題だった。
しかも、それは無意識下に創造されたものに近く、自律行動するため、使用者の死後も“アンダーワールド”に居座り続けてしまう。
この状態を面倒だと思ったのか、神様はある意味やっつけに近い突貫工事を行った。
それらの精霊や人造神様を、“アンダーワールド”の片隅に封じ込めたのである。
中にはドラ○エ3のデカイ鳥みたく、時空やらなんやらを飛び越える設定のものもいたが、念入りに再設定し一定範囲から外には出られなくした。
そしてその場所こそ、精霊の森、通称チート産業廃棄物処理場である。
俺は入った事はないのだが、その様子については「一匹一匹が強すぎて手に負えない」「攻撃が効かないどころか跳ね返された」「ノートを持った死神が三角座りでうなだれていた」「最強の精霊を名乗る奴が百匹ぐらいいた」など、様々な証言が真偽すら不明なまま、俺の耳にも届いている。
ここに入りたいというモノ好きはほぼいないだろうが、俺はとある人物に協力を依頼することにした。
「ま、知り合いの危機とあっちゃ協力するしかないっしょ」
現在俺の乗っているトラックを運転している彼女に、である。
助手席に座っている俺は、彼女の方をちらりと見た。
名前はシャーロット。
何ともかわいらしい名前だが、本人は男勝りな性格でざっくばらんとした女性である。
身長も俺と同じくらいに高く、赤い髪は短く火色の目は好戦的ですらある。一人称にいたっては当たり前のように「オレ」を愛用している。
ご本人も名前とのギャップを理解しているようで、本名で呼ぶと普通に怒る。
そのため、普段はロティという愛称の方で通している。
ロティは非常に珍しいチート持ちで、現在運転しているトラックそのものが、彼女のチートの一端だったりする。
「それにしてもすごいですね。私のチートとは大違い」
そう言って後部座席で感心した声を上げたのは、モニカ。彼女はまったく関係がないはずなのだが、ついて行くと言って聞かなかった。
彼女はまだ不死身なままとはいえ、歩けないのであるから俺としては危険な場所へは連れて行きたくなかった。
ついて来た理由も何だかよくわからないのだが、色々話した揚句最後に、
「正ヒロインがいない間に活躍しないと……」
と何やら病んだ末に危ない事をぶつぶつと言い出したので、やむなく連れてきた。
そもそも、初めは博士のところで適当な乗り物を借りて精霊の森まで行くつもりだったのだが、博士の研究所に納品に来ていたロティと出くわし、現在に至るわけで。
博士にモニカをお願いされてしまったのも、間が悪かったと言うしかない。
ロティは町から町へ“恩典”や人を運ぶ、自称運び屋だ。
3トントラック一つで草原も荒野も砂漠も駆け抜け、生計を立てている。
移動手段としては最高と言っていいし、彼女自身俺やコリスの知り合いなので、状況を話したところ快く協力を申し出てくれた。
そしてこのトラックには、もう一人意味もなくついてきているバカがいる。
「あの、モニカさん。ご趣味は何ですか?」
チート産業廃棄物処理場に大いに世話になっているであろう、アイズその人である。
こいつとは街中で偶然出くわしたのだが、モニカを一目見た瞬間行き先も目的も聞かずについてくると言い出した。
戦力としては申し分ないが、分かり易すぎる。
「料理するのが好きです」
「その……どんな料理が得意なんだ?」
「オロチの肉の唐揚げなんかがおいしいですよ」
「あ、そそ、それはおいしそうですね」
「はい、おいしかったです」
と、後部座席ではもはやボケが流れっぱなしである。
「そういやキョーイチ、オレの依頼受けてくれたのってキョーイチたちだったんだよな?」
その話の流れに耐えかねたわけでもなかろうが、ロティが俺に話しかけてきた。舗装もされていない道を走っているのに、器用なもんだと思う。
「ああ、竜の卵取って来いってやつか」
「アリガトな。オレ一回竜の卵ででかい目玉焼き食ってみたかったんだが、夢がかなったぜ」
「んなことに使ったのか!!?」
相変わらず豪快な性格をしている。
「そんで、あの『デスカイザー』は役に立ってるか?」
一瞬何の事を言われているのか分からなかったが、すぐにコリスが愛用している大鎌がそんな名前だった事に気づいた。
報酬は依頼者から支払われるのだから、前の持ち主がロティなのは当たり前といえば当たり前だ。
「まあコリスが気に入って使ってるよ」
「そうか、そりゃよかった」
俺はそう言うと、ふと気になって尋ねてみる。
「あの大鎌、どこで手に入れたもんなんだ?」
「え、ああ。なんていうか……まあな」
ロティは急にはっきりしなくなった。わかりやすく目が泳いでいらっしゃるが、運転の方は大丈夫なのだろうか。
「まあ、なんだよ?」
「……とある奴が運搬料代わりにくれたんだよ」
「ああ、そうなのか」
「名前書くと完全犯罪が成立するノートを運んだ代金にな」
「……もう嫌な予感しかしないんだが」
「ははっ、気にするな!!」
どんないわくつきの装備だよ、と俺は突っ込みたくなる。
ていうか、あの手の死神は訪問販売を諦めたと思ったら、通信販売してまでしぶとく生き残っていたのか。
時代に対応してよく生き残ってやがる。
……ただでさえ希少だった某呪いのビデオシリーズのチート産業廃棄物は、DVD普及とともに姿を消したというのに。
「キョーイチ、そんなにコリスが心配なのか?」
と、変な事を考えてうなだれていたら、ロティが何を勘違いしたのかそう聞いてきた。
とはいえ当たらずとも遠からずである。現実逃避がさっきから絶好調なのは、俺も自覚している。
「ま、何とかなるって。すぐ死ぬようなタマかよ」
そう言うと、俺の肩をバンバン叩いてくるロティ。正直運転が心配である。
「とか何とか言ってる間に、もう目前だしな」
俺はそう言われ、前を見た。
陽炎のように揺らぐうす赤いドーム状の結界、その中に森のようなものがあった。
それを見たアイズはもっともらしい顔をして、こうつぶやいていた。
「鬼が出るか○ャガー出るか」
「鬼と鬼嫁で二者択一!!?」
どうやったって締まらない一行である。




