33. 話し合いは命がけ
「何を……する気だ?」
依然大鎌の切っ先を向けられている俺の声は、少し震えている。恐怖のためにではない。
死を無効化する『リスタート』の前で、物理的な脅威など感じる訳がない。それなら何に対して俺が震えているのかというと――
――コリスとの決定的な決別を予感して、俺は震えていたのだ。
「“知悉の特赦”を私にくれないか?」
それは、理解に苦しむ一言。
俺がもらうという約束こそしてはいないが、自分の死因が知りたいという俺の目的についてはコリスに話しているし、コリス自身も今までそれを承知でついてきていたはずだ。
「どうしてだ?」
だから俺の一言はもっともなものだろう。
「必要になった」
最低限のことしか口にしないコリスと、驚愕の反動で要領を得ない俺。
このままではらちが明かないので、俺は端的に核心を突いた。
「アウル、か?」
ぴくり、とコリスの表情が一瞬揺らぎ、大鎌の切っ先が僅かにぶれる。
「そうだ。あいつの居場所が知りたい」
「知ってどうする?」
「殺す」
言下、コリスはそう言った。
一瞬も躊躇わず一寸の迷いもなく、殺すと。
「どうして?」
「神の名を騙る悪魔を、私は殺さなければならない」
その言葉は以前聞いた事がある。コリスは強さを求める理由を、
「神の名を騙る悪魔がいない事を証明するためだよ」
と答えたことがあった。
そしてそれが、コリスの“アンダーワールド”での目的でもあったのだろう。
「この世界にいない可能性の方が高いし、アウルが死んでいたのなら問題はなかった。出会わないなら出会わないで、もう眼をつむろうとすら思っていた。
だが、奴はこの世界に来ていた。今もいるのか、どこにいるのか分らないが、“知悉の特赦”を使えば、居場所が分かる」
コリスは冷たい声で言い放った。
しかし俺も俺で後には引けない。“知悉の特赦”がもう一度手に入るという保証はどこにもないし、もう一つあるかどうかも分からない。
そしてなにより俺が簡単には譲れないのは、俺の死因が知りたいという願望が自分本位のものではないからだろう。
俺が死因を知りたいのは家族の安否が気になるからだ。
以前に話した事があったと思うが、“アンダーワールド”にいる人間の大半は災害などで死んでここに転生してきている。
とんでもない数の人間が死んだ際、その魂がさばき切れないため、一時的にこの世界に神様が送り込むのだ。
ここまで言えば俺の言いたい事は大体理解してもらえると思うのだが、俺の死んだ原因がもし地震だとか火事だとかだったとすると、俺だけでなく家族まで死んでいる可能性がある。
だから俺は俺の死因を知りたいのだ。
もう関わることがないだろうと知っていても、自分の家族が幸せに生きているのか――生きていたのかどうかを知るために。
「アウルって、一体何者なんだ?」
だから俺は思わずそう聞いていた。
コリスの目的の重さを知るために。むろん、俺の目的とコリスの目的の軽重を比べる事は誰にもできないだろうし、比べるものでもないだろう。
だが俺は、せめて長年のパートナーが抱えているものぐらい、理解していたい。
「私の魔法の師匠だ」
コリスはそう簡潔に言った後、少しだけ考えてから次の言葉を続けた。
「そして、私を殺した男だよ。アウルは」
伏線回収祭りの回。
シリアスとコメディの切り替えが難しい今日この頃ですが、基本コメディです。シリアスは添えるだけです。ハイ。




