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32. どういう訳だか命がけ

俺は博士に会いに行くまで、疑問に思っていたことがある。

コリスが何やらずっと考えているのである。


博士に会ってからもコリスは一言もしゃべらず、話についても上の空だった。

女の子に手を上げる外道やソーイチ君に対しては、エロくない方向で放送コードに載せられないような事を――それも情けなし容赦なし加減なしにやる彼女が、ここで何もしなかったのは明らかにおかしい。


こいつが無口になるのは不機嫌な時や面倒くさい時くらいで、それ以外のこんな様子は初めて見た。


長く一緒にいると分かるが、コリスは意外と寂しがりである。

話の輪に入れないと不機嫌になるし、十分ほど無言でいると向こうから適当な話題を振ってくる。

ただ基本的に無口なため適当な話題が適当すぎるのであからさまに不自然だ。

大体、一言目は、


「今日はいい天気だ」


などで始まる。テンパったのか一度などは大雨の日にこう言って俺を爆笑させた事もある。その後笑い過ぎで腹がよじれるどころか、胴体を雷撃で消し飛ばされたが。


普段、俺は面倒になってたまになおざりな返事だけをし続ける事もある。しかしその場合、


「暇つぶしに魔法の実験台になってくれないか?」

「ちょっとドラゴン狩りに行かないか?」

「巨大魚を釣ろうと思うんだが餌になってくれないか?」


と、見事なまでに死亡フラグが建築されてしまうため、俺はこのあとちゃんとした話題を振るよう心がけている。


それはさておき、押し黙っていたコリスだったが、アルダに礼を言われた瞬間、思索から現実に戻ったらしくここに来て初めて口を開いた。


「なあ、聞きたいことがあるんだが」


しかしその声音はいつもの自信に満ち溢れた、人を食ったようなものではなかった。

それは例えるなら、思いつめた人間の喉から絞り出される、酷く弱々しい声のよう。


「モニカを不死身にした奴、なんて名乗ってた(・・・・・・・・)?」


俺はコリスの言い回しに違和感を感じる。

コリスの言い方はまるで、その名前が偽名だと知っているかのような口ぶりだった。


そのコリスの異様な雰囲気にのまれたのか、アルダは数秒困惑した後、告げた。


「アウル」


直後、コリスの顔に浮かんだ表情を、俺は一生忘れはしないだろう。

驚愕と恐怖、納得と嫌悪が入り混じったその表情は、酷くはかなく見えた。


「そいつはどこに行った?」


金槌を振り下ろすような、重く厳しい声でコリスは言った。


「分らん。どこから来たのかも、どこへ行ったのかも」

「嘘じゃ、ないな?」

「あ……ああ、もちろんだ」


一体なんだというのだろう。コリスの様子がいつもと違う。

普段から無口なコリスだが、それでも感情の起伏はあるし、付き合いの長い俺なら二言三言の会話でも、こいつの考えている事は大体分かる。


だが、今は全く分からない。


コリスから人間らしさが欠落した無機質さを感じる一方で、今までになく何かの感情が振り切ってしまっている危うさも透けて見える。

嵐の前の静けさというやつか。

そんな事を考えていると、コリスは唐突に言った。


「帰るぞ、キョーイチ」


何故だろう。

俺は今意外に思ったのだ。コリスに呼ばれた事を。

まるで彼女が一人でどこかに行ってしまうと確信していたかのように。


「ああ」


馬鹿な考えをぬぐうべく、俺は立ち上がった。

アルダと博士にくれぐれもモニカをよろしく頼むと伝えた後、コリスを追って俺は博士の研究所を後にした。


無言のまましばらく歩いて、妙な事に気づく。

コリスが宿の方ではなく、町の外へとどんどん歩いて行くのだ。


「なあ、どこ行くんだ?」

「……ついて来い。話があるんだ」


それだけしかコリスは答えてくれなかった。

しばらく行くと町を出て、今度は草と木ぐらいしかない道を歩く。


どれくらい歩いただろうか。

ニルデアの町が豆粒ぐらいに見えるくらいまで歩いたところで、コリスは唐突に足を止めて振り返った。


「一体どうしたん――」


そこで俺の言葉は止めざるを得なくなった。

俺の喉元に向けられた大鎌の切っ先によって。


「悪いな、キョーイチ」


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