28. 不死身同士の会話は命がけ
それはとても簡単な推理だった。
まず天空城は“アンダーワールド”の禁忌とされていて、踏み入るモノ好きもまずいない。
そして空にある天空城に入るには飛行系チートが必須だ。しかし、先ほど見たモニカのチートはそんなものに見えない。
そして極めつけは博士の意味深な依頼。
博士は天空城に行った事がないはずなのに、どうしてここに人が――モニカがいる可能性を指摘出来たのか。
それはつまり、天空城が出来る際に中に取り残された人物がいたという事を知っていたのではないのか?
しかも、博士が知っていたという事は、当時それは周知の事実だったはずだ。それが俺の代まで伝わっていないという事は、
「誰かに頼まれて、おとりになったんじゃないのか?」
何か、暗いものを感じて、俺はそうモニカに聞いていた。
後世に噂程度ですら、天空城におとりとなって最後まで残った人がいたという話は、伝わっていない。つまり、何か隠したい事実があったのではないのか。
それは、酷い。
天空城ができて確か百年以上、モニカを犠牲にした事も忘れ、地上で俺たちは生活してきたのだ。
そしてその中には、モニカを死地に追いやった奴もいるはずだった。
しかし、モニカの答えは俺の思っていた以上のものだった。
「はい、という事は上手くいったのですね。よかった」
モニカはそう言って笑ったのだ。
俺の想像を絶する百年の孤独。その果てに、モニカは自分を死地に追いやりのうのうと生きている者たちの幸せを喜んでいる。
「頼まれた時は出来るか心配でしたが……お役に立てたようで良かったです」
「……どうしてだ?」
「はい?」
「どうしてそんな風に笑っていられるんだって聞いてんだよ!?」
気づけば俺は声を荒げていた。
「私、役立たずでしたから」
対して、モニカはマイペースにそう言った。
「地味な生産系チートだけで、取り柄と言えば不死身なだけの私でも、役に立てた事が嬉しいんです」
俺はどこかその姿勢に共感すると同時、驚愕した。
モニカは俺と同じ不死身のチートを持っていたのか。
それなら、博士が今も天空城にモニカがいる可能性に思い当たっても何ら不思議じゃない。
だが、
「どうしてモニカはチートを二つ持ってるんだ?」
俺はその事に気づいた。チートは一人一つで、例外はない。
「私のチートは物を生み出す事で、不死身のチートはある方から頂いたものです……より正確には、例え細胞一欠片でも残っていれば復活できるだけで、不死ではありませんけどね」
そう言ってモニカは右手をその辺の消化液に浸した。
肉の焼ける音に俺は目をそむける。
「ほら」
俺が見ると、モニカの手は痛々しく焼けただれていた。しかし、それも見る見るうちに再生していく。
だが、
「何やってんだ!!?」
俺は本気で激高した。
「え……だって見せた方が早いかと思いまして」
モニカは驚きながらも相変わらずマイペースに答える。俺はそれに余計いら立った。
「だからって、んな事したら痛いだろうが!!」
それは『リスタート』を持っている俺だからこそ言える事だったのだろう。モニカは当分ぽかんとしてから、
「心配して下さって、ありがとうございます」
とてもうれしそうに笑った。




