27. マイペースは命がけ
「はじめまして、モニカと言います。よろしくお願いします」
「ああ、これはどうもご丁寧に。山瀬恭一と言います。“アンダーワールド”ではキョーイチと名乗っています。こちらこそどうぞよろしく……って」
俺は反射的に自己紹介をしてしまった後、
「どうなってんだよこれはぁああ!!?」
俺はオロチの胃袋の中、四畳の畳の上、ちゃぶ台を挟んでうたた寝をしていた少女、モニカと対峙していた。
名前だけ聞くとコリスのような金髪碧眼を想像してしまうが、彼女はチョコレート色の肌をした黒髪黒目の女の子だった。
「これ、と言いますと?」
モニカはこてん、と可愛らしく首を傾げて言った。
しかしそう言われるとどこから聞けばいいのか分からない。どうしてこんなとこにモニカがいるのかというのもそうだが、畳が敷かれてちゃぶ台があるここが、オロチの体内だというのがまず信じられない。
「よし、一から順番に行こう」
「はい、頑張ります!」
から元気で投げやりな俺の宣言に、モニカはよく分からないがやる気を出してくれたらしい。ぐっと手を握って気合を入れている。心なしか表情が引き締まった。
「それでは、何も出さないのもナンですし、粗茶ではございますが……」
モニカはどこからか湯呑みを取り出すと、俺の前に置いた。
中に入ってるのは……あれ?
「これ、オロチの消化液じゃねぇか!!?」
俺は秘技・ちゃぶ台返しを実行しそうになるのを何とか抑え、モニカに抗議の視線を送った。
「ぁ……」
一方モニカは自分の湯呑みを持って中をじっと見ながら、ブツブツと何かを呟いている。俺が聞き耳を立ててみると、
「これはお茶これはお茶オロチの体液じゃないこれはお茶。これはお茶なのこれはお茶。大丈夫飲める美味しいよ美味しいお茶だよ飲める飲める飲める。私なら飲める飲めるの飲める飲める大丈夫美味しい美味しいお茶お茶お茶…………お茶だぁ」
「自己暗示やめぇい!!」
結局俺はちゃぶ台をぶっ飛ばす勢いでひっくり返した。
てか怖ッ! 今モニカの目が死んでたよ!? 確実に病んでらしたよ!?
「あ、すいません。私何かしました?」
再びこてん、と首をかしげるモニカ。しかし、その目は虚ろで俺を見ているようで見ておらず、薄ら笑いを浮かべているのが逆に怖い。呪いの人形に笑いかけられた気分だ。
「なな何でもないよ?」
「そうですか?」
モニカはそう言うと、畳を両手で押さえ、
「えい」
「……は?」
モニカの両手が光り出したかと思うと、不思議な円陣のようなものが畳に現れ、そこから新しいちゃぶ台が出て来た。
「私のチートです」
当惑する俺にそう言うモニカ。
おそらく、ここにあるちゃぶ台も畳も、彼女がチートで出したのだろう。だが俺はというと、もうどっから突っ込めばいいのか分からないので放置する事にする。
「それはいいとして、どうしてモニカはこんなところに居るんだ?」
俺がそう切り出すと、モニカは簡単に答えた。
「オロチに食べられたので」
「いや、俺もそうだけど!?」
簡単過ぎて要領を得ない。俺は詳しく教えてくれと頼み込んだ。
「ええっとですね。私がおとりになって食べられたんです」
それも俺と同じだと言いかけて、俺は口を閉ざす。
あまりに理解できない状況下、今の一言がきっかけとなってまるで、導火線に火がついたかのように、俺の中でじりじりと結論に向かって今までの出来事が連鎖していく。
そこに、俺は直視したくない結論を見つけてしまった。
「モニカはオロチを天空城に閉じ込めるためにおとりになったのか!?」
マイペースは命がけ。
……主に作者にとってな!!
はい、二回目のネタすいません。あまりにモニカが勝手に動くので、かじ取りに苦労してこの辺りが長くなります。どういしてこんなに天然な子なんだ……。




