26. 不死身は命がけ
俺はオロチの言葉に驚きを隠せない。
俺は俺の『リスタート』以外に、死を無効化するチートが存在した可能性を考えていなかったわけではない。
どこぞの裸エプロンが好きな先輩は、自分の死すらなかった事にする驚異の能力を持っているし、幽霊ラジオがパートナーの脱力系不死身男もいる。
他にも不死身なんて、「小説家になろう」の世界じゃありふれた存在だと言えよう。
何より、俺みたいな平凡な人間が思いついた事を、他の人間が思いつかないはずがないのだ。
だから、俺が驚いたのはそんなどうでもいい事ではない。
こいつがまるで不死身のチートを倒した事があるかのように――不死身と戦う事を喜んでいるように見えた事に対して、俺は驚いているのだ。
俺の『リスタート』のように不死のチートを相手にするのなら、特殊な方法を取らなければ絶対に負ける。それに、仮に引き分ける事が出来たとしても勝てはしないのだ。
なぜなら、本来ほとんどの戦いにおいて敗北となる“死”を、『リスタート』のようなチートは無効化する。
引き分けるには俺の『リスタート』のようなものの場合、復活の限界数――カルマ値の上限まで、殺し続ければいい。これでようやく引き分けだ。俺はバッドイベントのせいで神様とご対面するハメになる。
アイズの禁断の魔法のような方法で封印されても、確実にいつかは蘇る。
そして俺が知る限り、『リスタート』に勝利する方法はない。
コリスがさじを投げた程のチートだ。
俺のチートに驚き呆れ、羨み妬み、恐れ畏れる奴はいたが、嬉々として戦おうとする奴なんて俺は初めて見た。
だから俺の今感じているこれは、今まで生態系の頂点に立っていた生物が、生まれて初めて天敵に出会った時の恐怖に似ているだろう。
そして俺が不死身と分かるやいなや、オロチは標的を俺に変えた。
無論、コリスを放置すれば手痛い反撃を受けるので、より正確にはコリスへの攻撃の余波が、俺を巻き込むように立ち回り始めた。
だが、その程度では『リスタート』の前に何の意味もなさない……はずだ。
強さや威力、速さや手数、範囲や射程――そういう、単なる“攻撃性能”で『リスタート』を倒す事は出来ない。
コリスはコリスで、無理に俺を狙おうとするオロチを放置し、スキを見ては大鎌をオロチに突き刺している。
オロチが俺を狙うようになって、大分立ち回りやすくなったようだ。
コリスの大鎌がまたオロチに突き刺さり、体内に直接電流を流す。
のた打ち回るオロチは、その目でしっかりと俺を見た。
――なんだ、これは!?
背筋を悪寒が走った。“アンダーワールド”で初めて俺が感じたそれは、言いようもない恐怖。
これは何かヤバい。俺は身構えたが、遅かった。
オロチがありえないぐらいの速度でその大口を開け、俺に食らいついて来た。
そしてそのまま、俺を丸呑みするオロチ。
俺は奴のぬめぬめするキモチ悪い体内を、一気に落ちて行った。
唾液なのか消化液なのか分からない粘液にまみれて、俺は気づけば大きな空間に放り出されていた。
……どうやら、ここはオロチの胃袋か何かの中らしいな、うん。
上下にピンク色の肉壁が広がり、ぬめぬめした粘液が染み出している。……うん、胃袋だ。それはいいんだそれは。
俺は現実を確認した。だが、そう。これは俺の理解できる範囲であって、不都合な現実から目をそらしている。
俺はその現実の光景を直視した。
肉壁の天地に挟まれ――
――何故か四畳だけ敷かれた畳の上で、少女がうたた寝していた。
「お前何してんの!?」
「ふぁ……?」
目を空けた少女はマイペースな女の子のようで、うーんと伸びをして目をこすった後、俺を指さして言った。
「……お客さま?」
「どうしてそうなる!!?」
拝啓コリス様。
早く助けて下さい。理解ができません。




