23. 天空城は命がけ
天空城はその名の通り、空に浮かぶ城である。
今は亡き大佐と呼ばれた“アンダーワールド”参加者が残したもので、「天空城」「天○宮? いいえ、星○殿です」「大佐のラ○ュタ」などと、人によって好き勝手呼ばれている。
この天空城に行くとするなら、まず相当な飛行系チートが必要で、その上到達したとしてもそこにいるのは、史上最悪の魔物“オロチ”である。
元々とあるダンジョンのボスとして神様が生み出したオロチは、神様が過去最大にさじ加減を間違えた“最悪の異常”として有名だ。
その巨大な体に見合った攻撃力を持ち、鱗は鋼のように硬く、傷はすぐに再生する。何より、とんでもなく速いのだ。
また、一度見つけた獲物は絶対に逃がさず、どこまででも追い続ける。
このオロチが今天空城にいるのも、ある参加者がオロチのいたダンジョンから全力で逃げた時に、“ボスはダンジョンから出られない”という常識すら打ち破って“獲物を逃がさない”という設定に忠実に従ったためだ。
これがニルデアの町を襲いかけたため、ギルド総出で追い払ったがどうやったって勝てなかった。業を煮やしたアルダたちは、地下迷宮跡を作った古参のようにダンジョンを作る事が出来る大佐のチートを使って、そいつをそこにおびき寄せた。
そして、そのダンジョンを今の天空城に再構成し、オロチが中にいる間に空に打ち上げたのだという。
つまり今では全く害はない訳で、ここを目指そうというモノ好きの話も聞いた事がない。
俺が“アンダーワールド”に来る以前の事件なので、これら全ては聞きかじりなのだが、“天空城をつついてオロチを出す”なんて冗談みたいな慣用句がはやった時期もあったらしい。
その真偽はさておき、今でも天空城は“アンダーワールド”の何処かに浮かぶ禁忌として密かに語り継がれている。
「だからこっそり行くべきなんだろ?」
「……だからってこれはなくね?」
コリスのほうきにぶら下った籠の中で、俺は言った。
状態としてはあれだ、魔女がやってる宅急便屋で黒猫が鳥かごの中に入ったまま運ばれているのに似ている。
当初、博士さんの提案で空を飛べる機械を用意してもらう予定だったのだが、コリスがそれを固辞した。てっきり代替案があるのだと思ったら、
「あんたの発明は毎度毎度どこかにオチがあるから嫌だ」
と、なんか分かったような事を言っていたが、前に何かあったんだろうか……「小説家になろう」の【二百文字】小説みたいな速度でバッサリ言いやがった。
「じゃあどうするんだね?」
その時の博士は気を悪くするどころか、さも楽しそうに言う。
コリスはそれに対して、自信満々に答えた。
「私のほうきで十分だ」
そしてその翌日の出発の際。
俺はてっきりほうきに二人乗りするんだと思ったんだが、
「私に触れるなエロ大魔神」
「なんか不名誉な称号継承させられたッ!?」
というやり取りの下、俺はそこらへんの洗濯かごに入れられる事になり、魔女に宅急便されている。
とはいえ、そろそろ三十分くらい飛んでいるので文句も出尽くした。
俺は方向をナビゲートしながら、俺の服を溶かす状態異常を直す薬の代金代わりに、博士に頼まれた事について考えていた。
博士のところには妙に体の状態異常を直すような薬がコレクションされていて、「な○でもなおし」「パナシーアボ○ル」「いにし○の秘薬」などの中から適当なものを飲んでみたら、普通に治ったので驚きだった。
だから二つ返事で受けたのだが、その内容がさらなる混乱を呼ぶ。
「もし天空城で誰かに会ったら、私のところに連れて来てくれ」
……あんな場所に人なんかいないはずなんだが、博士は一体何を知っているのだろう。




