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22. 科学は命がけ

俺たちはニルデアの町の外れに来ていた。幸いにも、この辺りの破壊状況はまだましな方だ。

ギルドの方は半壊状態で、アルダを中心に生産系チートの方々と身体能力がチートな方々が協力して修復にあたっている。

ソーイチ君を拘束していたギルド奥の発電室も壊れてしまったので、現在町の電気は非常用の電源でまかなわれている。


博士の家、もとい研究所は町はずれの一角の地下にある。


彼は主にチートの原理や効果の解明――特に生産系チートの精製したものに興味があるらしい――を科学的に行おうとしている老人である。

“アンダーワールド”でも老人と呼べる容姿をしている人は本当に少なく、一万人に一人ぐらいだと思う。

そういう意味でも非常に珍しい彼だが、それと同じぐらい珍しい事に、彼は神様のチートを持っていない。


この“アンダーワールド”には以前に説明したように様々な理由でいろんな世界の人々が転生してくる。

一番多いのは災害やら疫病やらで短期間に大量に死んだ人の魂を、神様がさばききれずにこの世界に放り込むパターン。


しかし、それ以外は訳アリな奴が多い。


転生せず別の世界から直接迷い込んだ奴だったり、俺みたいに死因すら分からなかったり、記憶がなかったり、神様の気まぐれで死んだ奴だったり――トラックにひかれたり、通り魔に刺されたり、色々だ。


しかしその中にも、格別に特殊なグループがある。

それは、前世で途方もない犯罪を犯したため、魂を清めるためにこの世界に送られた奴らである。


何でも、犯罪を犯し過ぎると人間の魂は汚れ、来世でろくな事がなかったり何らかのハンデを持つ可能性が大きくなったりするらしい。

それを緩和するため一旦“アンダーワールド”でワンクッション置き、来世に転生させるのだと神様は言っている。

しかし、この世界にいる時間はたった数時間でもいいのか、それとも単に汚れが祓えないなら祓えないでいいのか、彼らには神様からチートが授けられない。


そして何を隠そう、コリスもこの部類に入る。


チラッと聞いた話では、前世のコリスは不老の禁術で何千年と世界を旅した後、恐ろしく強い魔術師に見つかり殺されたらしい。

その話を聞いた時、コリスが何千年と生きていたという「小説家になろう」テンプレ設定を背負っている事より、こいつを倒せるような奴がこの世に存在する事に一番驚いたが。


それはさておき、博士はチートを持っていない。

ただ、この博士がどんな罪を犯したのかを聞いてみると、


「あの神様が言うには、私の生み出した理論が後世で色々悪用されて、最終的に世界を滅ぼす事になったらしいね」


と苦笑しながら答えてくれた。

神様のチートはなくとも、特別チート異常チート技術チートを持っていらっしゃるようである。


実際、彼の科学理論チートは日本のそれよりはるか先に到達しており、前世では過去に飛ぶ矢だの記憶を消す機械だのを、助手さんと一緒に日々発明されていたらしい。

とある古参の生産系チートの奴をして、


「こんな技術チートがあったら世界の一つぐらい滅ぶわ!!」


と突っ込ませたという伝説を持っている。

実際あり得ない分析能力と発想、生産系チートの効果の応用で博士はニルデアの町に様々な貢献をしている。


……という割と偉い人物なので、俺はまずパンツ一丁でここに来た理由を博士に話した。


「面白い事になってるね」


博士は皺くちゃの顔をさらに皺くちゃにして笑っていた。

どうやら、俺の状況が面白いらしい。


「けど、君の『リスタート』で一度生き返れば戻ると思うよ」


そう言いながら、博士はコリスの大鎌の刃を何かで研いでいた。

コリスの大鎌も刃こぼれする程度にスライムにやられていたのだが、博士が三回刃の表面を削ると、ぺかーと輝いた。どうやら新品に同様に切れ味が直ったようだ。

……多分、どこぞの竜を狩る方々からもらった砥石なんだろうな、あれ。


「そういう訳にもいかないんですよ今回は」


俺は邪念を払いながら“探査の実”の話を始めた。


“探査の実”の詳しい効果は俺にも分からないが、俺が念じるとダンジョン内で見たマップのような画面が広がる。

そこに表示されているのはこの辺りの簡易な地図と、コンパスみたいなものである。その横に数字があり、この二つが距離と方向を示しているのだと思う。


だが、二つ不可解な事があるのだ。

第一に距離と方向が結構な速さで変化している事。


そして、どういう訳だかコンパスが上の方を指している事である。


俺の欲しい死因を知る“恩典”は、正確には“知悉ちしつの特赦”という“恩典”で、“何でも一つ神様に質問出来る”ものだ。通常の神様との会話と異なるのは、その質問に神様が絶対に答えてくれるという事である。

これは言ってしまえば、世界の真理すら神様直々に教えてもらえるという事であり、とんでもなく珍しい“恩典”である。

……どこぞの地下迷宮の制作者が、これで神様にスリーサイズを聞いたというアホな噂もあるが。


そんな珍しい“恩典”が普通の魔物が持っているとは考えにくく、ボスとなる魔物はダンジョンの奥にいるものが多い。

例外として前のドラゴンのように神様が調整中の魔物が外にいる事はあるが、常に空にいてなおかつずっと移動し続けている奴など聞いた事がない。


「つまり、君が死ぬとその位置が補足できなくなる訳だね」


博士はそう言って少し考えた後、俺が予測していた答えを言った。


「君の探している“恩典”、もしかして天空城にあるんじゃないかね?」


そこは“神様の悪意の結晶”などと呼ばれる、史上最悪の魔物が住んでいる場所だった。


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