20. スライムの相手は命がけ
俺が意識を失っていたのが数秒だったのか数分だったのか分からないが、気づけばコリスがスライムの触手を必死で避けていた。
マントや帽子の端々が、ところどころ溶けている。
「キョーイチ、起きたのなら早くそれから抜け出せ!!」
「分かってるよ」
俺はそう返事をして、ふらつく頭を振った。
スライムはゼリー状でありながら妙な吸着力を持っていて時間がかかりそうだが、俺の力でも脱出は不可能ではない。
コリスの方に伸びている触手に体積がかなり持っていかれているのもあって、ゆっくりとだが動けるようになっている。
「早くしろ、私は加減が苦手なんだ!」
コリスはそう言いながら、大鎌でスパスパと触手を切断している。
加減が苦手な事は、あいつに追われていた頃の経験で良く知っている。
俺が逃げ込んだ洞窟のダンジョンを、一撃で木っ端みじんに吹っ飛ばしたバカだ。
ちなみにこの方法、魔物も数百は倒したはずだが、ダンジョンを壊したせいかカルマ値は跳ね上がった。
そして俺は『リスタート』で普通に蘇るため、コリスが持っている最強の魔法だろううが何だろうが無意味である。
しかしさすがに今死ぬわけにはいかない。
“探査の実”の効果が切れると折角のチャンスが無駄になる。
だがこの時、俺の脳裏によこしまな考えがよぎった。簡単に言うと、
……このまま抜け出せないフリをしていれば、コリス裸になるんじゃね?
というものだった。俺は試しに想像してみる。
プライドが高くてどこか生意気なところがあって、いつも冷静なコリス。
そんな彼女の小さな体が、スライムの攻撃によって生まれたままの姿されてしまう。
その姿に俺は、
「すまん、全く興味が湧かなかった」
「なぜか分からんが、無性に魔法をぶっ放したくなったぞ。主にキョーイチに向かって」
そっち方向の需要に関してはあるんだろうが、少なくとも俺の守備範囲外である。
無駄に時間を使ってしまった事を悔いながらも、俺は必至でスライムから脱出を試みる。
スライムは餅とこんにゃくの間みたいな感触で、かなり手こずったがなんとか抜け出す事が出来た。
俺がスライムから離れるのを確認すると、コリスは大鎌を地面にぶっ刺した。
「食らえ外道!」
コリスの差し出した両手から、いつもより大きい雷撃がほとばしる。
スライムの本体はあっけなく爆発し、跡形も残らない。
しかし、そこで一つ予想外な事が起こる。
本体から伸びていた触手が、ぼとりとコリスに向かって落ちたのだ。
魔法を使った直後で動けないのか、それともつば広帽子の死角のせいか、コリスは反応できなかった。
「うあ!」
コリスはそう声を上げた。スライムのねばついた体液が全身に付着する。
そして、あっという間に服を溶かしてしまった。
男の服と女の服では処理速度に差があるのだろうか……。
「これは……」
俺は感嘆の声を上げた。
そこには驚くべき光景が広がっていた。
普段は真っ黒なマントに隠れていて見えないコリスの白い肌。
まだ平たんながら女性らしい線がうかがえる体のラインは、美術的な観点から見れば美しいとも言えるだろう。
驚いていた表情は、今は少し赤みが差し始めていてなまめかしい。
そして、コリスの色々と大事なところは、
「不自然な湯気だと!!?」
少年漫画御用達、“不自然な湯気”がきっちり隠していた。
どういう原理かは知らないが、俺が思うにエロ大魔神のスライムの効果なのだろう。
このチートの所有者が、見えそうだけど見えないという状態を好んだのか、それとも女性の裸を見る事に対する道徳心が起こした現象なのかは分からないが、とにかく言える事は、
「キョーイチ……」
残念ながら俺の命が風前のともしびと化したという事だろう。
コリスの手にバチバチと紫電がはじけ始める。
「ちょ……待て、俺は別に見ようとしたわけじゃ……」
「ああ、そうだろうな」
コリスの声が、心なしか低い。顔は笑っているのに目だけが笑ってないのが余計怖い。
「だがな」
コリスが手を俺の方に向けた。
「どうしてこの湯気、私の胸だけは隠さないんだ!!」
「知るかよ!!」
さすがのエロ大魔神のチートも、コリスの平たんな部分からそれを感知できなかったんだろう。
俺はそう分析しながら、再び意識を失った。
サービスシーンが書けない事に定評のある作者がお送りしました(笑)




