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2. チートは命がけ

「そう怒るな。済まないと言っているだろう」


そう言ったのは俺ごとドラゴンをぶっ殺した女だ。

金髪に水色の瞳をした、見た目だけでいえば可愛らしい女の子に見える。どストレートに言うならロリい。せいぜい元の世界でいう中学生ぐらいにしか見えないのだ。

とんがり帽子に黒マントという、見るからに魔女な格好をしているが、その身長のせいかマントに着られている感が否めない。

だがこの見た目に反して、この女は何千年と生きている。いや、生きていた。


こいつも他の世界から転生してきたのである。


俺たちが今いる世界は“アンダーワールド”と呼ばれている。

この世界が他の世界と違う点は色々あるが、端的に言おう。


この世界は色んな理由で転生してきた奴らが、いろんな世界から集められた場所なのである。

ここにいるのは、大多数が何かの災害だとかで大量に人が死に過ぎて、神様が魂をさばき切れなかったため転生先を保留にされた奴である。

その場合、自分が死んだ事を説明されたのち、たった一つだけであるがお約束のチート能力を神様直々にプレゼントされる。


そのチート能力は、本人が望んだとおりで何でも良く、チート無双も思いのまま……に思えるだろう。これには落とし穴があるのだが、面倒なので後で触れる。

それで、そう言うチートはだいたいが、魔法が使えたり空が飛べたりといったもので、俺の『リスタート』もこのお陰で得た能力だ。だが、


「どうせ死ぬわけじゃあるまい、何をそんなに怒っているんだ」

「……俺はその言葉が一番嫌いだって知ってんだろ、コリス」


自分より三十センチくらい背が低いコリスを俺は見下ろして言った。


俺はこの能力ゆえに、いろんな奴らに便利使いされている。

未開の地の地図作りのため単身僻地に送り込まれたり、火山の火口に希少な金属を取りに行かされたり、今のようにおとりにされたりである。

モンスターの群れに囲まれたら、真っ先におとりとして切り捨てられるのなんて当たり前。俺が死ぬ事前提で作戦組まれる事もざらだし、ひどい例では、ロープでくくられて巨大魚を釣るための餌にされた事もあった。


死なないだけで痛いんだと言っても、理解してくれる奴は少ない。


「そんな事、美味しいものでも食えば、その頃には忘れるさ」


案の定コリスにも笑われてしまった。

こいつとはコンビを組んでから長いが、この一点だけは理解してもらえない。


……まあ、こいつとの出会いが出会いだからしかたない。と思う。


コリスとの出会いを平たく言うと、こいつが俺の暗殺依頼を暇つぶしに受けたのがきっかけだった。

当時、こちらに来てすぐの俺は、“アンダーワールド”歴の長いある古参の手柄を横取りしてしまった事があった。

それが原因で、こいつが差し向けられたのだが……結果は想像するに難くないだろう。


『リスタート』で何回殺しても復活する俺にコリスが諦めた。そして逆恨みが面倒だと思ったコリスは、しかたなく俺と組む事にしたのだ。

逆に依頼人の方を二人で抹殺しに行くために。

こいつとは、それ以来の仲だ。


この世界で人殺しは軽い。


法律がないからではなく、この世界の住人は、死んだら他の世界に転生するからだ。それは、神様から直接教えられているため、誰も疑う事はない。


「まあまあ、ずっと怒っていては、楽しい事も楽しくなくなるぞ?」

「……うるせぇ」


楽しくなくしたのはどこの誰だよ。


「む、おいキョーイチ」

「なんだよ」

「あれ、転生してすぐの奴じゃないのか?」


そう言われて、俺は前を見る。

黒髪黒目の少年がいた。転生したやつが最初に着ている『村人の服』的な装備なのですぐそうだと分かった。

日本から来たのかもしれないが、話をする余裕はなさそうだ。なんせ、


「動くな」


男はこっちに向かって片手を差し出している。その手には金属のコインがのせられていた。

傍目には滑稽に映るかもしれないが、俺は即座に彼のチート能力がそれなのだと理解してしまった。


「ああ、レール○ン選んじゃったか。ドンマイ」


俺は慰めの言葉を吐いた。

それは、とあるアニメの必殺技(レー○ガン)の構えだ。

あと伏せ字がズレているのはミスではなく仕様だ。


さて、この技は指先を弾いたコインを亜音速でぶっ飛ばすというもので、直撃すれば人の体なんてあとかたもなく消し飛ぶだろう。


「何で知ってんだ? ……ともかく、分かったら金目の物と女を置いてどっかに消えな」

「……だってよ?」

「なんともまあ残念な」


コリスは汚い物を見る目でその男を見た。


「下種が力を持つとこうなるんだな」

「なっ……」


男は怒る前に驚いた。そりゃ、自分が優位だと勘違いしてくれちゃってる馬鹿だからね。

念のため、この世界のチートの残念部分を知らない彼のために、心の中で解説をしてやる。


この世界に転生した際、俺たちは転生したのが自分だけだと思い込む。まずこれが一番の間違いで、この世界の人間全てが何かしらの原因で異世界から来ている。


「んだとぉぉ!!」

「は、うるさい黙れ」


次に、チート無双が出来るという点。

残念ながら、大多数がチート能力を授かったこの世界ではそれも色んな理由で難しい。彼の敗因は、その最も多い理由だ。


「死んでから来世で後悔しやがれ!!」


男がコインを弾き、それがなんやかんやで亜音速にまで加速されてこちらへ放たれた。

……俺に詳しい解説を求めないでくれ。原作をよく知らないんだ。


それはともかく、そのコインがこちらに飛んでくる前に、コリスは魔法でその軌道をねじ曲げた。

そして、それを放った男は、


「うぁぁぁあああああぁあああ!!?」


コインを弾いた腕を押さえてのた打ち回っていた。

コリスが何かした訳ではない。彼は自分のチートの犠牲になったのである。


魔法にしろ何にしろ、こういったビーム的な能力はマンガやアニメの世界では楽にぶっ放す事が出来る。しかし、現実世界でこれを行うとどうなるか。


端的に言うと、反作用の力で自分がぶっ飛ぶのである。


その最たるものが一時期転生者のチート能力に多かった、某カメハメハ王の名を冠したとある必殺技である。

あのビーム的な衝撃波はこの世界で放つと、反作用の力で後方に飛ばされ使い物にならない。そのため、現在ではその反作用を逆手にとり、逆噴射して突撃するという、アホみたいな使い方で利用されている。

とにかく今でも数が多いので、彼らは『野菜部隊』『むしろヤム○ャ的な何か』『カメハメロケット特攻隊(笑)』などと呼ばれている。


彼らの不憫さはさておき、目の前の男である。

彼もまさか、『打ち出した答え』だの『放物線が描く運命』だのが、自らの腕をぶっ飛ばすという結果になるとは夢にも思っていなかった事であろう。


「一応教えといてやるが、私のは前世での才能と努力によるもので、チート能力なんて持っていないぞ」

「な……!?」


男はさらに驚いていた。

コリスの元いた世界では魔法があったため、先ほど男の攻撃を弾いたのは、彼女本来のスペックである。


「なあ、キョーイチ、いいよな(・・・・)?」

「勝手にしろ」


俺はそう言うと先に目的地へと歩き出した。


「ちょっと待て……人殺しなんてまさかやらねぇよな? へへ、良心が痛むだろ?」

「前世では悪党でな。残念ながらそういう常識は、持ち合わせておらん」


ついでにと、俺は手を振りながら、倒れた男に教えておいてやる。


「そいつ、女に手を上げる奴には容赦ねぇぞ」


あと、どSだからな、コリス。

背後から、男の情けない悲鳴が聞こえてくるのを聞きながら、俺は心の中でつぶやいた。


“転生するからって、痛いのは誰だって嫌だろう?”


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