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19. 隠し部屋は命がけ

隠し部屋を見た時には、俺は何の異常も感じなかった。

なんだか何かに見られているような気がしたといえばしたのだが、十メートル四方の薄暗い小部屋には、中央に宝箱があるだけで、他には何もない。


「ってか、あからさまに怪しいぞ」


ここがRPGの世界だったら、ミミックか罠の二択である。


「警戒しろよ」


アルダの忠告はありがたく受け取っておく。

俺はがれきの一角から握りこぶし大の石を取り、床に滑らせたり宝箱に投げて当てたりしてみたが、何も反応がなかった。

少なくとも、音や動きに反応した罠の線は薄くなった。


これ以上調べようもないし、宝箱を放置して中身がいいものだったら目も当てられない。俺は恐る恐る部屋に踏み入った。

宝箱自体が神様由来かチート由来かが分からないが、開けてみれば分かる。罠だったらチート由来で、“恩典”だったら神様からのご褒美、ミミックだったら神様の悪ふざけだ。


慎重に、床にスイッチなどがある可能性も考え、床を足先で確認してから踏んで行く。

一歩一歩が恐ろしく長く感じる。


しかし長い時間はかかってしまったが、俺は普通に宝箱に到達する事が出来た。恐る恐るそのフタを空ける。

中には小さな種のような“恩典”が入っていた。おそらく使いきりタイプの“恩典”だろうが、珍しいもののようで俺は見た事がなかった。

そこで俺は、ステータス画面と同じ要領でアイテムの説明画面を開く。


“探査の実”

効果・服用者が欲しい“恩典”の位置を特定する。効果は対象が取得されるか、服用者が死亡するまで続く。


「え……!?」


俺は間抜けな声を上げていただろう。

何せ俺の“アンダーワールド”での目的を果たすメドが立ったのだから――



――だから上から急に衝撃が襲いかかって来た時、俺は理解が出来なくなっていた。



何もないはずの空間でもがき苦しむ俺。無理やり目を開けると、服を溶かされている。


(……これスライムじゃねぇのか!!?)


ようやく俺は自分が巨大なスライムに飲み込まれているのだと気づいた。

しかしおかしい。スライムは男を襲わないというのは確定情報のはずだったのだが……。


(まさか……!)


俺は入り口にアルダがいる事を思い出した。

酔っぱらった古参から聞いた話に、オネェ系の方々が近づいた場合スライム達は逃げるという笑い話があったはずだが、あれはそういう方だけでなくムサイ男がやっても同じ効果が出るという話を聞いた覚えがある。


ってこいつ、アルダに近づきたくなくて天井に張りついてて、耐えきれず落ちて来たのか!?


(クソ、暗かったとはいえよく確認しなかった俺のミスだ)


天井に薄く広く張りついていたからか気付けなかった。『リスタート』があるせいで、そういう危機感が欠けていた事も仇となったのだろう。


それよりも、俺は自分が手に持っている“恩典”を見た。

“探査の実”は無事だったが、このままではスライムに溶かされてしまうだろう。数人でダンジョンに入った時手に入れた“恩典”は、話し合いで誰が取るかを決めるというのが“アンダーワールド”での暗黙の掟でもある。

だが、そんな悠長な事は言っていられない。


俺は半ばスライムごと、その実を呑みこんだ。

これで対象の位置が分かれば死んでも問題ないのだが……。


(なん……だと……!?)


しかし、“探査の実”からもたらされた情報は、予想外のものだった。


俺は分析する間も惜しいので、体を無理やり動かして口だけをスライムから出す。


「死ね……な……い!!」


途切れ途切れ、叫ぶ。

一応届いたらしく、俺ごとスライムを魔法で一掃しようとしていたコリスの動きが止まった。

ていうか、コリスがアルダより前に出たせいで、スライムがコリスに向かって行った!!?


スライムの中で『コリスの魅力<アルダのむさ苦しさ』という式が出来上がっていた可能性があって非常に興味深いが、このままだとコリスがスライムの餌食になってしまう。

……いや、見てみたいとか思ってないよ?


それに、ご丁寧に半裸の俺ごと移動してくれているので、コリスも本気で魔法が放てない。

アルダが間に入ってくれれば止まるのだが、その事をアルダは気づいていないだろう。


しかし、意外な人物からの助けが入った。


「食らいやがれ!!」


ソーイチ君である。彼はアルダから借りた拳銃ではなく、自らのチートであるコインを弾いた。

亜音速で放たれた弾丸は、スライムの体を簡単に射抜いた。

俺の体は着弾点から遠かったし、彼のチートは電気タイプではないので水タイプには効果が抜群にはならな――じゃなくて、スライムを通して俺が感電する事もなかった。


右腕を押さえたソーイチ君に、俺は心から拍手を送りたい。

しかし、彼のチートが与えた影響はそれだけではなかった。


みし、と何かが軋む音がした。

そしてそれが明確な崩壊の音へと変わったかと思えば、俺は空中に放り出されていた。


ソーイチ君のチートの余波で床が崩れたのだと気づくのにしばらくかかった。

俺は“探査の実”の効果が切れる事よりも、コリスが俺と一緒に落ちてしまった事を心配したところで、地面に頭を打ちつけて意識を失った。


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