18. 迷宮探索は命がけ
さて、そんな女人禁制だったこのダンジョン、しかし現在では認識が変わりつつある。
その変化は、性別によって難易度が恐ろしく変わるという事が話題になり、興味を持った奴らが様々な検証を行って、残念な事実が色々と判明した事から始まる。
まず検証に乗り出したのは、屈強な男たちであった。
彼らはスライムをバッタバッタとなぎ倒し、ある事実を理解するに至った。チートの残骸たるスライムを倒すと、カルマ値の減りが異常に早いという事である。
恐らく、神様すら放置したスライムを倒した事で、カルマ値に影響が大きく出たのであろうが、ここのスライム達が神様にすら見放された残念な存在であるという、嫌な仮説が出て来てしまった。
コリスがここを選んだ原因も、このチート産業廃棄物みたいなスライムの生き残りを狩るためだった。
次に検証に乗り出したのは気の強い女性の方々で、彼女たちが地下迷宮跡に入ってくれたおかげで、さらにものすごく残念な事実が浮上した。
まず、女性の可愛さによってスライムの反応があからさまに変わるという事だった。
これをして、“アンダーワールド”の女性たちを烈火のごとく怒らせたのだが、スライムが反応する要素はそれだけにとどまらなかった。
女性の露出度や、胸の大きさに反応が左右されるのは当たり前、スカートをはいている女性には率先して低姿勢(?)で接近し、なぜかスカートめくりを決行したという例まで報告されている。
さらに、スライム達が金髪ロングな女性を他の条件をほぼ無視して襲うという事も判明し、死してなおエロ大魔神の好みがしだいに明らかになっていった。
そして、このような悪辣な行動を主無き今黙々とこなす健気なスライム達に、一部のバカどもは惜しみないねぎらいの拍手を送ったという。
ただ、これらのあからさまな反応が原因で女性有志による討伐隊が結成され、スライムのほとんどは天に召されたと言われている。
このため、現在では女性連れでも危険が少なくなっている。
ついでながら、なぜかオネェ系の方々も検証に参加していた。
彼(彼女)らは自分達が行くとどうなるのかと興味を持ったらしく、続々と地下迷宮跡を目指した。
その成果として、女装しても反応しない程スライムたちの鑑定眼が厳しい事、むしろオネェ系の方々が行くとスライムがどういう訳だか逃げていく事などが明らかになった。反応としては、むさいオッサンが近づいたのと同じような反応であった。
そしてオネェ系の方々はこれに怒りを覚えるどころか、むしろ自分達の美の追求が足りなかったのだと恥じ、自分を磨いては何度も何度も地下迷宮跡に足を踏み入れたという。
この結果、オネェ系の方々の美貌に磨きがかかったとする説もあるが、俺にとってはどうでもいい情報である。
ちなみに、このスライムたちの鑑定眼は謎で、可愛らしい男の娘が行くとものすごく悩んでいるかのように悶え苦しみ、恐る恐る触手を伸ばした後やっぱり逃げて行くという噂もどこからか流れている。
よく分からないが、超えてはならない一線のようなものがあるらしい。
とにもかくにも、このスライムたちが男の欲望を忠実に再現しているらしい事だけは、これらの事から理解してもらえると思う。
また、昔は作動していたと言われる罠の数々も、下からの強風でスカートをめくるというアホみたいなものから、突如大量の水を浴びせかけて服を濡れたり透けさせたりするという迷惑極まりないものまで、全てが一貫して女性をターゲットに絞っていた。
これらも、女性有志によってほとんどが破壊し尽くされてしまっているので問題はない。
さらには、スライムたちが再出現しないという事も、このダンジョンの難易度を大いに下げた。
このため、現在では普通のダンジョンに近い状態になっており、違うところと言えば、たまに変な罠が作動して女性が被害に遭ったり、生き残りのスライムが出てきて襲いかかってきたりする程度である。
コリスがここを迷いなく選んだのもこういう事を考えてだろう。おそらく、スライムが見つかれば儲けもの程度に考えているに違いない。
「おい、出たぞ」
俺はアルダの声で現実に返った。
目の前には先のゴーレムたちが二体、通路を塞ぐようにして立ちはだかっている。
「ふん、他愛のない。片方の足止めを頼むぞ」
そう言うと、コリスは右側のゴーレムに向かって駆けて行った。白銀の大鎌が閃く。
俺の予想はおおむね正しかったようで、コリスが単なる物理攻撃として大鎌を振っても、カルマ値が上昇しない事は既に確認済みだ。
その刃はゴーレムへの必殺の一撃とはならないが、足の一部を壊して大勢を崩すには十分だった。
グラついたゴーレムに、コリスは至近距離から雷撃を放つ。
石が電気を通すとは思えないのだが、コリスの雷撃はゴーレムを爆殺した。
さて、アルダの銃や爆発物ではコリスを巻き込む恐れがあるし、ソーイチ君のチートは残念だ。
という訳で俺はもう一体のゴーレムに既に肉薄していた。
巨大な拳を冷や汗とともにかわすと、身を引く。
入れ違いに入ったコリスが、伸びきったゴーレムの腕を大鎌で斬り裂く。
その威力にたたらを踏むゴーレム。
トドメとばかりにコリスは雷撃を放つ。
ゴーレムは跡形もなく吹っ飛んだ。
「え」
コリスが間抜けな声を上げる。
俺もそれを見つけて驚いた。
ゴーレムが寄りかかってはがれた壁から、明らかに怪しい扉が現れていた。隠し部屋という奴だろう。
嬉しそうにほほ笑むコリスに、アルダが釘をさす。
「ここはまだ浅い階だが、未踏査の部屋に女が入るのはやめたほうがいいだろう」
アルダの紳士な発言に、コリスは笑みを深めた。
「なら、男が行って様子を見て来い」
その一言で充分だった。全員の視線が、俺に向く。そして、色々言い争った後に、俺はまたあの一言を聞く事になるのだ。
“どうせ死ぬわけじゃないだろう、キョーイチ”




