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17. 男の欲望は命がけ

石のレンガでできたゴーレムのような魔物が俺を猛烈な勢いで追いかけて来た。

アルダががれきの陰から援護射撃をして、その動きをけん制する。


「伏せろ!!」


そう言ったのはアルダの横にいるソーイチ。

アルダからもらったのか、手りゅう弾をゴーレムに向けて投げた。


すんでのところで二人のところに飛びこむ俺、爆発する手りゅう弾、木っ端みじんになるゴーレム。


「はっ、あの世で仲間とよろしくやるんだな」


そう吐き捨てたのはアルダだった。

俺はソーイチ君の手を借りて起き上がると、アルダが俺を振り返って言った。


「しぶてぇ野郎だな」

「お互い様だろ」


男同士、固い握手を交わす俺とアルダ。

しかし、俺たちがそんな場面を繰り広げている横で、コリスは世界観を無視して魔法をぶっ放している。

……いや、むしろ世界観をぶっ壊してるのは俺たちの悪ノリか。

それを見た俺は急に冷めて、アルダに言った。


「やっぱえせハードボイルドじゃなくて現実ファンタジーに戻ろうぜ」


さて、どうなっているのか説明したいと思う。


今俺たちは地下迷宮跡の中にいる。

当初は俺とコリスだけで行くつもりだったのだが、俺たちが地下迷宮跡に行く途中で町の近くを通った時、偶然アルダとソーイチ君に鉢合わせしたのだ。

俺がアルダに地下迷宮跡に行く事を告げると、どういう訳だがついて行っていいかと俺に問うアルダ。俺が首をかしげながら理由を聞いたところ、アルダは遠い目をして俺に、


「現実を受け入れるまでの時間が欲しい」


それだけを言った。

町のHPがあれだけ下がっていたのだから、町の破壊状況は、そしてギルドの安否は、推して知るべしである。


そしてソーイチ君は、コリスの戦いを見て安全だろうと思った事と、この世界についてよく知りたいと思った事が合わさってか、同行を申し出た。

正直今回の戦いでMPをかなり消費しているうえに、初心者である彼を連れていくのは気が引けたのだが、アルダだけ連れて行くというのも仲間外れにするようで嫌だったので了承した。


さて、そんな成り行き任せな地下迷宮跡探索だが、基本的にコリスが無双するので問題ない。

カルマ値が高い事に焦っているのか、単純作業をこなすかのように魔物が現れた瞬間雷撃をぶっ放して魔物を駆逐する姿は、ある種の神々しさすら感じられた。

今ではカルマ値は既に七割を切っている。


先ほどのえせハードボイルドは、単純にアルダのストレス解消に俺とソーイチ君がつき合っただけのお遊びである。


「ふん、弱過ぎる」

「いや、お前が強すぎんだよ」


コリスのつぶやきに俺はツッコミを入れた。

こいつのMPは底なしだし、「小説家になろう」で多用されているようなテンプレ魔法は大体使いこなすし、戦闘にも慣れていて動きに無駄がない。

前世で何があったのかは知らないが、いつも強さばかりを追い求めているコリスに、勝てる奴などそうはいないだろう。

以前にどうしてそこまで強くなったのかと聞くと、


「神の名を騙る悪魔がいない事を証明するためだよ」


とだけ言っていた。

コリスはたまに陰が差したような表情を浮かべる時があったが、この時はいっそう暗い顔をしてつぶやいていたように思う。

その顔を見た俺は深く詮索する気をそがれ、いつか聞こうと思いながらも、その機会を逸し続けている。


俺は嫌な事を思い出してしまったので、気分転換にマップを見た。

マップはダンジョン内でのみ表示される画面である。ステータス画面と同じで見たいと思えば空中に浮かんでくる。


マップに示されているのは現在位置と近くの仲間の位置、通って来た道と発動したトラップや開けた宝箱などだ。

もっとも、初見だとこれは帰る時にしか役に立たないし、“あな○けのひも”的なダンジョン内から入り口に脱出する“恩典”も比較的安価で手に入るので、あまり意味はない。

せいぜいが道を覚える必要がなくなるくらいである。


俺とコリスは以前に一度来た事があるので、このダンジョンの構造はある程度把握出来る。

入り口から何度も階段を下りてきて、現在地下十階ほどだ。

前に来た時も思った事ではあるが、降りる階段だけじゃなく、上がる方も作れば難易度が格段に上がると思う……しかしこの制作者はそこについてはテンプレを守ったらしい。


この異世界迷宮跡はそもそもが古参の“アンダーワールド”参加者が作ったものなのだが、制作者がアホな事情で転生した後、神様が若干手を加えてダンジョンとして再利用した。

そして、それ故にこのダンジョンが出来た当初、一つの問題が浮上した。それは、この制作者が“俺つえー”するために設置した罠の数々が放置されていた事である。

さらに、彼の人間性を知っている人は口々にこう言った。


「あのエロ大魔神が作ったダンジョンなんてろくでもない場所に決まってる!」

「いいか、絶対に女は中に入れるな。絶対にだ。絶対にだぞ!?」

「あの男……女の形をしていれば、魔物相手でも口説きにかかる」

「神様にセクハラ発言してカルマ値が100%になったらしい」


と、もう散々である。


さてしかし、このような風評を聞いて逆に入ってみようと思うバカがいるのが“アンダーワールド”参加者クオリティ。

ある二人組がこの地下迷宮跡を探索した。


彼らが入った時にはチートの生き残りであろう、ねばねばしたスライムとか、ねちょねちょしたスライムとか、ぐにぐにしたスライムとか、ぶよぶよしたスライムがのさばっていたのだが、簡単に倒す事が出来た。


なんて事はないじゃないかと彼らは思い、お金もそれなりにドロップするので仲間にその事を教えた。

そして、仲間を率いて再び地下迷宮跡に入ったのだが、この時以前と異なる事が一つだけあった。


仲間の中に一人女性がいたのだ。

そして、チートで生み出されたスライムたちは、何故か女性が相手だとみるや猛攻撃を仕掛けた。

体から伸びる無数の触手をしならせ、四方八方から襲いかかるスライム達に、防戦一方となった彼らは全力でダンジョンから撤退した。


彼らが経験した事から理解した事は三つ。

スライムが女性しかターゲッティングしないという事。

制作者がやはりエロ大魔神だったという事。


そして、スライムの体液が何故か都合よく武器や服だけを溶かすという事であった。


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