16. カルマ値は命がけ
俺はコリスのカルマ値が異常に上がっているのを見て、まずその事をコリスに伝えた。
数値を見たコリスは珍しく驚いていたが、すぐにいつもの表情に戻った。
「どういう事なんだ、キョーイチ?」
「いや、俺に聞かれてもな……」
俺は何でも知っているわけじゃない。
とにかく状況を整理しながら、俺たちは草原を歩きだした。
“祭り”の後、“打ち上げ”と皮肉られる状況に陥る事がある。
それは簡単に言うと、今回の魔物が落とした“恩典”の奪い合いで、誰が倒しただの俺のもんだのと言い合い、最悪チートを行使し始めるバカまでいる事がある。
そもそも“アンダーワールド”中級者以上は、魔物が“恩典”を落とした瞬間に取捨選択をするし、いいものはほとんど落ちていない。
何より今のコリスの状態で変に闘ったりすると、カルマ値が100%になってバッドイベントが起こるリスクが恐ろしく高い。
どれほどの強大なチートであろうと神様には勝てないというのが、“アンダーワールド”での常識だ。
チートを俺たちにくれた神様が、そのチート以上の能力を持っていないわけがない。
俺たちは町に行くのでもなく、しばらく人がいなくなる程度のところまで歩いた。
町に戻ったら戻ったで、色々酷い事になっているだろうし、カルマ値を減らすには魔物を倒すのが一番手っ取り早いのである。
他にも、生産系なら何かを生み出したり、電気系なら発電機まわしたりと色々やりようはあるんだが、戦闘が出来る奴はとにかく魔物を倒すのが楽だ。
一番初めに出会ったのは、なんか巨大なコウモリみたいな魔物で、コリスはそれを大鎌の一閃でやっつけた。
俺はすかさずコリスのステータスを見る。
コリス
HP 2401(100%)
MP ???(???)
攻撃力 262(+135)
防御力 533(+328)
知力 722(-150)
素早さ 732(-100)
カルマ値 93%
カルマ値が上がっているだと……。
「これはまさか」
「何だキョーイチ、どうした?」
俺はコリスに驚愕が混じった小さな声で答えた。
「カルマ値依存攻撃だ……」
俺の言葉に、コリスは首を傾げた。
カルマ値は基本的に魔物を倒すと下がり、何もしないとじわじわと上がっていく。他にも要素は色々あるが、その傾向を見るに“悪い事が出来ないように”そして“楽が出来ないように”作られたシステムである事が分かる。
とにかく、何かしら働いていればカルマ値は減るし、神様の機嫌を損ねる事さえなければ跳ね上がる事もない。
しかし、何事にも例外がある。
例えば俺の『リスタート』。これはMP消費が少ない代わりに、使い過ぎるとカルマ値が上がる、いわゆる“カルマ値依存”のチートの一つである。
これと同じものが多々あり、共通点を上げるなら“強くてMP消費が少ない攻撃”を行うと上がる事が多い。
これらは“楽が出来ないように”作られたシステムであるという予想の状況証拠にもなる。
「だが、私は自分の魔力で戦っているぞ?」
コリスのもっともな答えに、俺はある仮説を話す。
「その鎌のせいじゃないのか?」
本来、コリスは自前のMPと魔法を使っているから、そのせいでカルマ値が上がると言う事はまずない。神様の管轄外だからだ。
しかし、例えば武器を通しての攻撃だとどうだろうか。
コリスはあの大鎌に魔力を込めて戦っていた。なら、この世界のシステムがあの大鎌を通して攻撃を感知する事も出来るんじゃないか。そして、“アンダーワールド”のほうのMPが減っていない事も簡単に分かるだろう。
だから、この世界のシステムはMPを消費せずに大鎌の威力を上げていると判断して、コリスのカルマ値を上げているのではないのか、という仮説である。
「成る程、試してみるか」
丁度いいタイミングで巨大な芋虫みたいな魔物が現れたので、今度はコリスが自分の魔法で雷撃を放ち、昇天させる。
俺はステータス画面を見た。
コリス
HP 2401(100%)
MP ???(???)
攻撃力 262(+135)
防御力 533(+328)
知力 722(-150)
素早さ 732(-100)
カルマ値 93%
変わっていない。
いや、カルマ値は1%以下が表示されないので、おそらく下がっているのだと思う。
「変わらんか……この辺りで少しダンジョンに行ってみるか」
コリスの言葉に俺はうなずく。連戦になるのはきついが仕方ない。
カルマ値は基本、80%を超えたら危険域と言われる。これ以上上がると、うっかり何かをしたときに100%になってしまう事があるからだ。
93%など、恐すぎて寝てもいられない。
「それじゃあどこ行く?」
「そうだな……」
コリスはしばらく考える仕草を見せた。
ダンジョンが普通のフィールドと異なるのは、罠が多い事と宝箱がある事以外に、ボスがいる事が挙げられる。
このボスを倒すとカルマ値は大きく下がるのだが、ダンジョンの一番奥にいるため雑魚を狩ってもいいだろう。
俺がそんな風に算段をつけていると、コリスは何かを思いついたかのように突然顔を上げて言った。
「そうだ、地下迷宮跡なんてどうだ?」
コリスが指定したのは、とある“アンダーワールド”参加者が残したダンジョンだった。




