13. 特攻隊は命がけ
俺がアイズを放置する事にしてニルデアの町まで走って行くと、そこには右腕を押さえたソーイチ君がいた。やはりあのレール○ンは彼だったのだ。
その横には金髪ツインテールな女の子がいて、心配そうにソーイチ君を見ておどおどしていた。
確か特攻隊の『あやふや☆ロケット』とか呼ばれてた……そう、ドロシーだ。
変なあだ名の方だけ覚えてしまうところだった。
「おい、何でお前撃ったんだ? とりあえず初心者は隠れてろ」
“アンダーワールド”で一番死にやすいのは初心者だ。
この世界の仕組みや適当さ、いわゆる“アンダーワールド”クオリティを知らない彼らは、適応する前に死んでしまう事が多い。チート無双しようとすればなおさらである。
しかし、俺の呆れた声に反応したのはドロシーの方だった
「あ、あの。私をかばってくれたんです」
意外な言葉に、俺は目を丸くした。
転生してすぐやった事が俺たちを襲う事だったので、てっきり性根の腐ったクソ野郎だと思っていたのだが、どうも咄嗟にそう言う事が出来る程度には人間をやっているらしい。
「お前……」
「なんだよ?」
「なんでもない」
俺はそういうと、回復薬を投げてやった。
この世界の回復薬はHPに影響を与えるだけでなく、ちゃんとそれに応じてケガも治してくれる。
骨折ぐらいなら、俺の持ってる安い奴でも何とかなるだろう。
俺は驚いているソーイチ君やほくそ笑んでるコリスをしり目に、戦況を見る。
“祭り”の戦いでは、町にHPが設定される。
それは神様が“祭り”の時だけにつける、町全体を上空含めて覆っている結界のようなものを攻撃すると減っていき、零になると敗北が決定する。
そしてHPの減少に応じ、町の一部がランダムで破壊されるという無駄にリアルな仕様になっている。
「俺の家大丈夫だったのに隣だけぶっ壊れてる」「何故か風呂場だけ木っ端みじんだった」「クーラーの調子が悪くなった」と、変に偏った破壊状況も報告されている。
そのせいで、ここに住んでる奴は割と必死に闘ったりもする。
ギルドマスターのアルダなんかがそのいい例で、ギルドを壊されてはたまらないと今も対空射撃を続けている。
彼のチートは『武器を生み出す』と言うもので、今も良く分からないライフルみたいなものでドクロプテラとやり合っているようだ。
生産系チートの中で前線で戦える、数少ない一人である。
さて、肝心の町のHPだが、既に四割を切っていて、大分まずい状態だと言っていい。ドクロプテラは空を飛ぶ魔物で防御力が高いようなのだが、対空攻撃が出来るチートは限られているのである。
まず、ソーイチ君のように威力があっても数が撃てない奴や、アルダのように数が撃てても威力がない奴が多い。そういう意味ではドロシーたち特攻隊の方々は、貴重な戦力なのだ。
それなりに威力が高く、ある程度操作が効き、持続時間もまあまあ、というどっちつかずの能力は、応用系にしろ貴重なのである。
「なあ、コリス」
「分かっている」
コリスは何処からかほうきを取り出すと、それの上に立った。
またがったのではなく、立ったのだ。
「少し暴れてくるとしよう」
コリスは大鎌を構えると、凄い速度で上空を目指して飛んで行った。
どっちつかずではなく、大体何でも出来る彼女は、本当に貴重な存在である。
すれ違いざまに次々とドクロプテラを大鎌で両断していく。
全く抵抗がないように見えるほど、その威力は高く、速い。
しかし、いくらコリスでもキツそうだ。
上空を飛ぶドクロプテラは、百はいそうであるし特攻隊の方々もそろそろMP切れの危機。最後の悪あがきにMPオーバーキルを使っている奴も見受けられる。
「いくぞ魔物ども、オラたちが考案した新技!」
「その名もカメハメトルネード!!」
と、町の結界の上で特攻隊の二人が前後逆になって片腕を組んだ。
そして彼らのチートを片手で放つ。
青白い光線が出るのと同時……彼らの体がぐるぐると高速回転し始めた!!?
「「ハァーーーーーー!!!」」
声を合わせて頑張る二人。
どうやら、反作用を逆手にとって体を高速回転させているらしい。凄い勢いで渦巻き状に放たれた青白い光線は周囲のドクロプテラたちをせん滅していくが、
「うぁああああああああああ!!!」
「目がぁぁああああぁあああ!!!」
当然、エンジンと同じような原理で高速回転すれば、そうなる。
ちなみに彼らのチートは「ハー!!」の部分の掛け声が続く間が一発とカウントされるらしく、関係のない事を言ってしまった二人のチートは止まった。
止まったタイミングが同時ではなかったので、彼らは吹っ飛んで結界から落ちて来たが。
毎度毎度、本当にご苦労様である。
俺が彼らのご冥福を祈っていると、ドクロプテラの一匹がソーイチとドロシーの方に向かってきた。
ドロシーもチートを放つがそれは青白い光線と言うよりも、なんだか火の玉みたいな塊で、しかし打つと同時に後ろへと飛んで行った。
掛け声こそ特攻隊と同じだったが……あれはまさか?
俺がそんな事を考えているうちに、ドロシーは立ちあがりドクロプテラの下に回り込んで、
「しょーりゅーけーん!!」
「やっぱそれカメハ○波違った!!?」
つい片言になるぐらい驚いてしまった。
ドロシーのあれはどう考えても、特攻隊の面々と一線を画すチート……いわば“波○拳”である。