12. 中二病は命がけ
結局、愛護団体の方々は俺の案に乗る事にした。
もしかしたらにゃんとらーを普通の猫みたいに出来るかもしれない、と言ったのが大きかったようだ。現金な奴らである。
さて、俺の作戦はいたってシンプルなものである。
まず、にゃんとらーを出来る限り狭い範囲に密集させ、最後にアイズのチートで一網打尽にするというものだ。
前半部分については、愛護団体にいた防御関係のチートの方と、俺や一部の協力者でなんとかする。にゃんとらーは基本的に動かないので、攻撃範囲に入っておびき寄せればいい。
後半のアイズのチートだが、
「凍える永遠の凍土より、氷の聖霊よ来たれ。汝が腕はわが剣なり――」
この通り、痛い詠唱を二・三分しなければならないという、将来のMP以外の精神的な何か犠牲にした、ある種の時限術式である。
時間こそアホみたいに使うが、攻撃力は折り紙つきと言っていい。
なんせ、数ある自称最強系チートの奥義、MPを一回の行使で使い切る――どころか、限界値を越えてMPを無視した一撃を放つ、通称“MPオーバーキル”の使い手だ。
“MPオーバーキル”はMPがチートの代償として減少するのではなく、チートを使うとMPが減少するという、妙な逆転現象のせいで可能となる技だ。
これで何が変わるのかと言うと、MPがなくなる最後の一撃はMP残量を無視できる事になるのである。
そう、何を隠そう“MPオーバーキル”とは、素晴らしき神様の手抜きを逆手に取った奥義なのである。
この技、数ある真正のチート達が一撃必殺として愛用しているが、当然、その威力のために来る反動で術者が往々にして死にかける。
こいつのチートもそうで――と、実際に使ったとこを見た早いか。
痛い詠唱は置いといて、俺はにゃんとらーの群れを見た。
確実に密集しているが、何匹か群れから外れている奴がいる。最悪、アイズの討ち漏らしはコリスが秘密裏に処理する手はずになっているが、少ないに越した事はない。
俺はそのうち一匹を誘導する。
俺が攻撃範囲に入ると、にゃんとらーが大口を開けて突っ込んで来た。いや、それどころか、頭が肥大化して口がすごい大きくなってるのだが、こいつなんなんだろう。骨格とかどうなってるのか凄い気になる。
俺は攻撃を何度かかわして、うまく群れの中にそいつをねじ込む。
さっきから何度も繰り返してきた作業だ。既に十二回死んだ俺に死角はない。さっきまではあったが。
「神々まします天空より、かのものを滅ぼす力をお貸しください――」
精霊の力を借りるのか神様の力を借りるのかハッキリさせて欲しいが、アイズの詠唱も佳境に入ってるっぽい気配めいたものが漂っている気がしないでもないと思う。正直分からん。
こんな詠唱なんて破棄するか、りくらくららっくなんとやらでいいと思う。
ただ俺に言えるのは、俺もあれの巻き添えだけはごめんこうむるという事だけだ。
と、アイズが右手を上げた。そろそろ発動するという合図だ。
アイズの合図だ!
……ごめん、ちょっと言いたくなっただけなんだ。
さて、気を取り直して俺は全力で逃げる。
周囲の協力してくれた奴らも一目散に逃げていく。
「万物一切、その息吹を止めよ。食らえ、エター○ルフォースブ○ザード!!」
アイズが手を下すと、そこには銀世界が広がっていた。
一瞬でにゃんとらーの群れは氷づけになっている。
何を考えたのかアイズがにゃんとらー型の氷で氷づけにしているので、巨大な氷像のようにも見える。
とりあえず、成功したようだ。
「相手は死……ぬ……」
アイズはそう言って倒れた。なぜか、顔がミイラみたいにしわしわになっている。
さて、色々カオスなので順番に説明していきたいと思う。
まずアイズのチートは本来、相手を大気ごと凝結させて氷づけにするというものなのだが、彼の要らない想像力のせいでいくつか無駄な効果が付加されている。
今回プラスに働くのもその一つで、本来彼のセリフの通り“相手は死ぬ”はずのこの禁断の魔法(笑)、そもそも相手は死なない。
氷づけにされて仮死状態になり、彼と同レベルの強力なチートで解凍させなければ、永遠に生き返らない。
俺がアイズのチートを毛嫌いしていたのもこのせいで、俺の『リスタート』は死なないと発動しない。つまり、これを食らうと俺も当分氷づけにされてしまう。
コリスなら解凍できると思うのだが、面白いという理由で一ヶ月くらいなら放置されてしまう気がする。
だが、仮死状態とはいえ死んでいる事に変わりはないので、にゃんとらーはこれで倒した事になる。
そしてもう一つ、アイズの要らぬ想像力のために起きる迷惑極まりない現象がある。
「み……水を……」
主に使った本人がダメージを受けているが放置する。
さて、アイズがどうなったのかと言うと、体の水分をアホみたいに抜き取られているのである。
何故かというと、彼のチートのせいである。
ここからは多分に俺の想像が入るが、おそらくアイズが中途半端に「あれ、空気中の水分集めても、あんな大きい氷作れなくね?」と思ってしまっている事がこの現象を引き起こしている。
アイズのこの邪念は彼のチートにも影響し、とある結論を彼の中から引き出した。
「無いなら有るところから集めればいい」
という、まるで投げやりな徴税官のような考えである。
この結果、アイズのチートは最終的にこのような効果を生み出す。
『周囲から水分を集められるだけ集めて瞬間的に巨大な氷を生み出し、相手を仮死状態にして永遠に閉じ込める』
つまり、このせいでアイズの周囲から水分が一気に奪い取られるのである。
以前、検証のためアイズにペットボトルに入った水を持たせてチートを使わせた事があるのだが、どういう訳か密閉されているはずの中の水まで持って行かれた。
このせいで、とにかくアイズがチートを使う時は近づいてはならないという共通認識が、知り合いの間で芽生えつつある。
また、アイズ自身が水を携帯しても無駄なため、重度の脱水症状からすぐに回復する事が難しくなっている。
毎度毎度死んでいる俺が言うのもなんだが、よくあれでチートを使おうという気になれると感心してしまう。
あと、「相手は死ぬ」と言っておいて相手は死なず、自分だけ死にかけているのは皮肉以外の何物でもない。
さすがに放置するのは可哀想なので、コリスと合流した後肩ぐらいなら貸してやろうと俺が思っていた時、町の方で閃光がほとばしった。
特攻隊の皆さんが戦っているのでそれ自体は珍しくないのだが、俺はあの閃光に見覚えがあった。
「あれ、レール○ンじゃね?」