第1話
日時は4月5日。明日から通う学校の入学式前日。春も本番を迎え、地球温暖化という最悪現象により、寒いと有名な長野という田舎だというのに、気温も夏日に迫る程の19℃という、今年の最高気温を更新した。
「ねぇ恵、吸血鬼って存在すると思う?」
我が従兄妹である宇佐見 美咲は唐突にそんな事を言い出した。季節は春。更には今の時間は昼真っ盛りである。変人の、変態の一番の活動時間と言っても過言ではない。とうとう俺の従妹も頭を春に犯されてしまったようだ。
ちなみに、美咲は相当な美人だ。綺麗な顔立ち、腰下85cmは有ろう長く細い脚、身長に至っては俺より5cmしか違わない173cm。眉目秀麗。そんな四字熟語が似合う風貌。二字熟語なら流麗。しかし、オカルト好きというレッテルさえなければ、女としてパーフェクトだ。俺みたいなどこにでもいる極一般的な高校生(のはず)に比べ、かなりの違いだ。血が少し違うだけでこうも形が違くなるとは、科学とは奥が深すぎる。興味は無いけれど。科学(理科)は苦手科目その一だ。
ちなみに、どうでもいいと思うが、俺のルックスは美咲に比べ残念なものだ。例えるなら、『男子生徒D』みたいなどうでもいい外見だ。え?あんまりいないって?Cが限度だ、って、そんな細かいことどうでもいいだろ?あくまでも例えなのだから。とにかく、そんなどうでもいい、ただただモブキャラに位置する、人に印象を与えない、冴えない見た目なんだよ。
長野、田舎、吸血鬼。この三つのキーワードだけで某人気シリーズ小説のタイトルが頭を過ぎった人は、大変頭がよろしい様で。
豆知識…と言うより、ただの常識だが、戦場ヶ原という地名は長野の地名だったりする。確か。違うかもしれないが。聖地巡礼したい人、とりあえず長野という田舎にいらっしゃい。
「は?いるわけねーだろ。馬鹿か?俺でさえ、そんな事わかるわ。どうした?頭の良かった従妹は勉強に熱を入れすぎて脳みそがドロドロに溶けだしたか?病院へ行ってこい」
「ひっどい!別に頭がおかしくなった訳じゃなくて、最近その手の噂が流行っているから、恵自体はどう思ってるのかと思ったのよ」
「どうもこうもなくて、そんなオカルトじみた話なんて信じてるやつが頭湧いてるわ。サンタクロースがいるかどうかと同じ様なもんじゃねーか。それに、もし吸血鬼なんていたらもう人類全てが吸血鬼になってるはずだろ?」
「え?どうして?」
「吸血鬼の話なんて詳しく知らねーけど、広まって軽く500年以上経つだろ?吸血鬼の食事は人間の血を吸うことだ。しかも、吸血鬼に血を吸われた人間も吸血鬼になるって聞くし、吸血鬼になった人間だって人間の血をすって吸血鬼を増殖させるだろ?だったら、吸血鬼なんてネズミ算みたく、かなりの早さで増殖するんじゃねーのか?例えば、吸血鬼が1人居たとする。その1人が1日1回人間の血を吸うと、約32と半日で世界中の人間が吸血鬼になる計算だ。まあ、1日3食計算なら11日程度で全員吸血鬼になるわ」
「確かにね…。なんか残念…」
俺が無い脳を全力で使い、吸血鬼がいない理由を力説すると、美咲は落胆した。ていうか、『その手の噂』と言ってると言うことは、そんなオカルトじみた噂が横行しているらしい。まあ、宇宙人やら未来人やら異世界人やら超能力者なんて全て妄想だ。いるはずがない。科学的に不可能だ。異世界にいたっては痛々しくて話にならない。世の中変な考えを思い付く暇人がいたものだ。そんな暇があったら友達とどこかで遊んでいてくれ。某涼宮さんを相手にしていた、未だ本名の出ていない主人公は最初はこんな気持ちだったのだろう。痛い人を相手にするとすぐ疲れるのな。
「恵ていつも否定的だよね。何事もまず否定から入るし」
「は?俺のどこが否定的だよ?普通にしか対応してねーぞ?」
「ふ〜ん。気付いてないのね…。」
「気付く気付かないじゃなくて、本人が違うって言ってるんだから、違うんだろ」
「あ、そういえば『噂をすればなんとか』って言うし、もしかしたら吸血鬼に遭えたりして」
華麗にスルーされた。英語の綴りはthrough。sulruだと思ってた人、良い勉強になったな。ちなみに、それは俺だがな!
「あるかっ。『遭える』って、被害被るの決まってんのかよ…。それなのに、会いたいって…とんだドMだな」
「なっ…!失礼ね!私はドMなんかじゃありません!」
「あっそ。てか、『噂をすればなんとか』て本当はなんて言ったっけ?俺、『噂をすればなんとやら』としか聞かねーんだけど…」
「え?う〜ん…そう言われると詰まるかも…。確か、『噂をすれば影がさす』だったかな?」
『そう言われると詰まる』と言いながらも、しっかり答えている従妹であった。正解かは知らないがな。まったく言ってる事とやってる事がたまに噛み合わない従妹だ。ちなみに成績は優秀。中学の頃は生徒会長だったらしい。
「しかしまあ、暇なもんだな。この時期の田舎は。やることがねーのな」
「何いかにも帰省して来た都会民アピールみたいな発言してるのよ」
「ちげーよ。本当に無いんだから。少しでも都会な所とかに住んでたらゲーセンにでも行くってのに、何処も行く所が無いからな…。なんか、とびっきりびっくり仰天する様な出来事でも起きてくれないものかねぇ…。まあ、無理な話だろうけどね。結局暇な毎日を過ごすんだろうなぁ…」
「いまどき『びっくり仰天』なんて言葉を使う人がいる事に驚きを隠せないよ…。」
「………仰天する様な出来事起きないかなぁ…」
「普通、消すのは『仰天』の方じゃない?」
「………びっくりする様な出来事起きないかなぁ…」
「そんな現実逃避をするんじゃなくて、何かを楽しもうとは思わないの?」
「何をよ?」
「何かをよ」
「…………」
「…………」
二人の間に短い沈黙が流れた。7秒程経った頃だろう、美咲が1つの提案を出した。
「じゃあ、駅前の商店街に行かない?ゲーセンくらいならあるし、多少は運動になるでしょ?」
「自分で言うのも何だけどな、俺はかなりの面倒臭がりだから、駅前の商店街までは徒歩で1時間もかかるうえに、終始上り坂だったりする道のりを歩きたくない。帰りは楽だけどな。確かに案としては良いものだが、それは聞こえだけだ。実際は約1時間も歩く事になるから却下」
「じゃあ、何するのよ?」
「俺は……寝る」
俺はそこに突っ伏した。暑苦しくて寝れないが。
「寝ないでよ!」
「げふっ!」
腹に一発、美咲の渾身の蹴りが炸裂した。
俺に3865のダメージ!
言ってみただけだ。そこ、痛いとか言わない。痛いのは俺の腹だから。頭じゃないぞ。決して。
「何?恵は私と並んで歩くのが不服なの?」
「当たり前だ」
全力で肯定した。いや、してやった。
美咲は一気に気を落とし、泣きそうな顔になった。というか泣いた。
「嘘泣きしても無駄」
「ばれたか」
「そんな事で泣く奴はお前じゃない誰かだ。あんまり俺を甘く見るな。こう見えても俺、十分テキトーなんだぜ」
「適当に嘘泣きて見抜いたの!?」
「あぁ、テキトーに答えた」
「あれ?話が噛み合ってない?」
ばれたか、と思ったが、あえて口にはしなかった。
「まぁ、どうでもいっか。駅前がダメなら何処行くの?そこら辺歩いてデート?」
「デートなんてしたくない。第一に、俺とお前は恋人同士でもなければ友達同士でもない。それに、俺は寝るって言ってるだろ」
「私が暇になっちゃうじゃない」
「なら寝ればいい」
「私は恵みたいにこんな時間から寝れないから!」
「だから寝ればいいだろ?」
「寝れないんだってば!」
「ZZZ」
「寝るなぁー!!」
美咲が叫んだ瞬間、俺のケータイが鳴った。俺は番号を確認したが、どうやら公衆電話からの電話だ。
「西野入か?どうした?」
俺はいつものように、なんの躊躇いもなくその電話に出た。
『やっほ〜。恵ちゃん。4日ぶり〜』
しかし、その声は西野入ではなく、ましてや俺の友達でも、親でも、知り合いでも、中学時代の担任でもなく、4月1日に俺が出会った、自称吸血鬼からだった。
あらすじにほとんど触れない第1話でした。
執筆開始して2ヶ月、それでこれってどうなの…
ん~、忙しい…(ノ△T)