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「4月」
突き刺すようだった風が 包み込む風にかわっていた。
薄めすぎた絵の具で描かれていた風景画は
色鉛筆が加わって、やわらかい雰囲気を醸している。
すべての歯車が動き出す――4月。
肌を優しくなでる風が、私の心をときめかす。
「新しい私」が待っている気がして
プラットフォームに響く足音は速くなる。
一瞬、あの鋭い風が心を貫き、私はどきっとして足を止めた。
冷たい棘が胸に刺さる。
未知への――畏れ。
でもまたすぐに、穏やかな風が私を抱いた。
大丈夫。
大丈夫。
私の心はまた前を向き、それにつられてまた歩き出す。
「私」の待つ場所へ、一歩一歩、確実に。
ちょうどそのとき 電車がきた。