カエルのケロ助Ver.5.01
カエルのケロ助は黄金のハエを探し、旅を続けていた。
・・・はずであった。
気がつくとケロ助はいつの間にか人間の女の姿になっていた。
場所は学校の一室。
外は夕暮れで、部活動に励んでいた学生たちも片づけを始めていた。
ケロ助は夢かとも思ったが、妙に現実感がある。
どうやら夢ではないらしい。
これも運命かとケロ助は全てを受け入れた。
「どうしたんですか?芳崎先輩。ぼんやり外を見つめて」
その一室にはケロ助の他に男が一人いた。
芳崎先輩とはどうやらケロ助の人間の名らしい。
ケロ助はこれを自分の名だと認識した。
「別に何でもありません」
ケロ助の言葉に説得力がないのか、男は怪訝そうにしたままである。
だが、
「ひゃう!」
奇妙な声と共にその表情も一変する。
電灯の明かりに誘われてやってきた蛾が男の顔を襲ったのだ。
反射的にこれを食そうとケロ助は動くが、いかんせん人間の体は勝手が違う。
舌が伸びないので、仕方なしに手で掴みにかかった。
しかし、蛾を手中にしてケロ助は思う。
どうにも食指が向かない。
どうやらこれも人間であるが故の弊害らしい。
仕方がないので、蛾を外に放した。
「芳崎先輩って虫平気なんですか?」
「兵器とは?」
「いえ、一般的に女の子って虫が苦手かなって」
「いえ、むしろ好物です」
「鉱物?」
「正確には好物だったと言うべきでしょうか?」
ケロ助はふと考えた。
己とは何かと。
自己を構成する要因とはいくつもある。
いや、いくつも無いと自己を保てないと言うべきだろうか。
今ここにケロ助は人間であるが、カエルでもある。
しかし、目の前にいる男にしてみれば、ケロ助は風変わりな女の子にしか映らないだろう。
すなわち、自分だけが知る自分。
他人だけが知る自分。
自他ともに知る自分。
自他ともに知らない自分。
これを総合して、もしくはその一面を切り取って自分となすのだ。
曖昧藻子なものではあるが、自分と言うものを定義するときには無意識、意識的であれ、これを選択する。
ただ言うなれば、この選択をする自己と言うものは紛れも無く自分であることは間違いない。
「貴方の目には私はどんな風に映りますか?」
「えっと、あの、その、先輩は可愛いっていうか。素敵で、あの、その、憧れるっていうか。むしろそれ以上っていうか・・・」
顔を赤らめながら男は身悶えている。
どうやらケロ助の人間の姿は可愛いようだと言う事をケロ助は認識した。
「そうですか」
ケロ助がそっけない返事をしたのが、男にはショックだったらしく、男は顔を俯かせた。
「ところでお聞きしたい事があるのですが」
「あ、はい。何ですか?先輩」
「黄金のハエと言うものを知りませんか?」
「はい?」
まあ、何が起ころうとケロ助の旅は続くのだった。