063⚫️公爵ではなく伯爵?だとお!
「予は国を富ませたい。これからについて、そなたの意見を聞きたい。」
レグナス王は豪奢な謁見の間で、居並ぶ重臣たちを背にカナタへ問うた。
カナタは姿勢を正し、王の瞳を正面から見据えて答えた。
「国が富むということは、即ち、民が栄えるということです。民衆の一人ひとりが満ち足りた日々を送ること。その実現の道をこそ、考えるべきかと存じます。」
王は表情を動かさず、さらに問いを重ねる。
「それはつまり、国があって民があるのではなく、民があるから国がある、ということか。」
「その通りです。陛下がその理をご理解されることこそが、国を富ます要諦でございます。」
「では、王城にある財宝や、貴族が持つ領地の扱いはどうすればよいのだ。」
「既にご所有のもの、民にとって暮らしやすい封地は、そのままになされるのがよいでしょう。」
「ふむ。だが予や予の近親者には、相応の文物が必要だ。質素に過ぎるわけにもいくまい。また、各領主の中には、予の直轄地より過酷な税を課す者もいることだろう。」
「王族や貴族の方々が、格式に応じた品々をお使いになることをお諌めはしません。要は程度の問題です。また、もし苛酷な統治を行う領地があれば、その政道はいずれ破綻するでしょう。誰かの犠牲の上に成り立つ繁栄より、皆で分かち合い、耐え忍ぶ窮乏の中にこそ、明日の希望へ歩む力が宿るからです。」
「ほう、なるほどな。・・・カナタよ、そなたの故国、ラベンダー公国の領主ロイ殿は、どのような暮らしをしているのだ?」
「一般の住居地の中に、普通の家を構えておられます。」
謁見の間が、にわかにざわついた。
「普通の・・・家だと?」
「はい。近隣と同じ広さの敷地に、同じような平屋を。」
重臣たちが思わず声を漏らす。侯爵ダレオレがたまらず口を開いた。
「しかし、衣服や食事は公爵としての格式があるはずだ。献上品を納める宝物庫は別にあるのだろう?」
「衣服は高機能ですが、意匠は一般のものと変わりません。宝石も金銀も施されてはおりません。食事は伯爵自らが腕を振るわれます。美味で名高いですが、食材は市場で買い求められたものです。献上品があればすべて国庫に納められ、公的に使われます」
「待て。・・・伯爵?私は領主である’公爵’のことを尋ねているのだぞ。」
ダレオレの困惑に、カナタは深く一礼した。
「ご無礼いたしました。ラベンダー公国の領主は、公爵ではございません。ロイ・ラベンダー・エンジェラム伯爵。それが正式な位階です。」
謁見の間から、一切の音が消えた。
誰もが理解の範疇を超え、言葉を失っていた。
レグナス王も例外ではなかった。
ただ、彼は表情ひとつ変えず、ゆっくりと、深く呼吸している。
ヨセフ・ラヒカは、誰かに呼ばれたような気がして手を止めた。
だが、小さな畑には、彼一人しかいない。
・・・気のせいか。さて、もう一働きしよう。
ウルグの乾いた風が、小さな農場を静かに吹き抜けていった。
伯爵が公国の領主である、というのは 第2部 086●公的地名の名称決定権 https://ncode.syosetu.com/n1477ma/83/ を
ヨセフ・ラヒカについては、「第2部022●世界でいちばん質素な大統領」 https://ncode.syosetu.com/n1477ma/22/ を ご参照くだされば有り難く存じます。




