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イベント・夏

バスの中での話す声

作者: 雪陽炎
掲載日:2026/07/18




「ひゃー!遅くなった遅くなった!」

 外灯が照らす夜道を私は急いで駆けていく。

「天体観測の動画とってたらもうこんな――あー!」

 後ろからやってきたバスに私は追い越される。

「そのバス乗る!乗りまーす!」

 私が叫びが夜の山道に響き渡っていく。

 バスはそのままバス乗り場を通り過ぎ夜道を進む。

「そんな……今の最終バスなのに……」

 

「……文化祭の準備に夢中になりすぎた」

 時刻表を確認した私はがっくりと肩を落とす。


   ☆    ☆    ☆    ☆    ☆


「どうしようかなー……歩くか呼ぶか」

 天体観測の動画を撮ったスマホで時間を見る。

「お小言で時間とられるぐらいなら麓まで歩こう」

 私は夜空に瞬く星々を撮るためにスマホをかざす。

「え?霧?ウソでしょ!?」

 スマホが霞み周囲を見渡した私は途方にくれる。

 

「どうしよかなーやっぱ呼ぶかなあ」

 完全に霧に飲み込まれ視界が遮られた。

「霧に覆われたらその場にいろってあったし……」

 前に親と見に行ったとある映画のことを思い出す。

 外灯の光さえうっすらとしていく中心細くなる。

 

「……決めた!呼ぼう――って光!?」

 遠くからぼんやりと光が見えた。

 やがて光は朧げながらバスの明かりとわかった。

「そっか臨時バス!夏休みだもんねー助かったー」

 バスは私のいるバス停に止まり扉を開く。

 

   ☆    ☆    ☆    ☆    ★

 

「やー助かった助かった。地獄に仏とはこのことね」

 私は乗車券を取ってバスに乗りこむ。

「ありゃ満員か。まあいっか立ってよ」

 イスについてる取っ手をハンカチで()き私は握る。

 座席の人に会釈(えしゃく)をしたらその人も会釈を返す。

 その直後バスはゆっくりと発進した。

 

(何時ぐらいにつくのかなあ)

 そう思っていながらバスの中を見渡す。

 薄暗い明かりの中でみんな疲れてる気がした。

(こんな時間だからねえ……)

 

 ふと視線を座席に戻す。

 座席の人が赤ちゃんを抱いていることに気づく。


「赤ちゃんだー!べろべろばー」

 あやしたり顔を隠してびっくりさせたりする。

「?あれ?」

 赤ちゃんはぐったりしていた。

(眠ってるのかな。にしては顔色が――)

 赤ちゃんが気になりちゃんと顔を見ようとする。

「おいねーちゃん」

 後ろの座席からの声に私は顔を上げて振り向く。

 

「みんな疲れてるからさ。静かにしてくれや」

「あははそうですね。私も早く帰りたいですし」

「そっか。ねーちゃんには帰るところがあるのか」

 私の乾いた笑いが響くとバスが急に止まる。

 前を見るとうっすらと赤信号が灯っていた。


   ☆    ☆    ☆    ★    ★


「すいませんお客さん。降りていただけませんか?」

 運転手の人が私に話しかけてきた。

「はい?私?」

「そうです。夜行バスでは静かにお願いします」

「だからって降ろすって――」

「すいません。お代は結構ですので」

「……わかったわよもう。はい乗車券」

 正直反論したかった。

(近くに赤ちゃんがいるし騒ぐのはね……)

 騒いだ私に責がある。

 そう自分に言い聞かせ私はバスの扉をくぐった。

「問題行為ですかねえこれは」

「俺たち黙っとくしさそれでOKにしとこうぜ?」

 会話に耳を傾けていると扉が閉じてバスは行く。


   ☆    ★    ★    ★    ★


 バスが霧の中に消えていくのを私はひとり見送る。

「ここどこだろ?こうも霧深くっちゃ――あれ?」

 ぽつんと佇んでいると霧がすうっと晴れていく。

「なんなのよもう!」

 そういいながら私はきょろきょろと周囲を見渡す。

 

「えーっと今いるのが大通りで近くには書店……」

 街灯が照らす街中と私の記憶を照らし合わせる。

 

 それはまるでパズル。

 あるタイミングでぴったり重なった。

 

「今いる場所がわかったわ。家はあっちね」

 私は記憶を頼りに家路を急ぐ。


   ★    ★    ★    ★    ★


 翌朝私は目覚まし時計の音で目が覚める。

 んーと伸びをして身支度を整えていく。

 

「おはようお父さんお母さん。いただきまーす」

 私は親に挨拶をして食事を始める。

 

 ふっとダイニングから奥の間のTVに視線を移す。

『以上バスの転落現場からお送りしました』

『ありがとうございました。転落は昨夜ですよね?』

『はい。バスが出発する映像がありますのでどうぞ』

 昨日の霧が深かったことが脳裏をかすめる。

(あれは事故るよね。よかった帰ってこれて。ん?)

 TVのバスに乗り込む男性に見覚えがあった。

(あれ?あの人後部座席にいた人にそっくり……)


 ふしぎなこともあるものねと食事を続ける。

 少ししてTVはCMを流し始める。

 

「水子供養のCMか」

「お父さん水子ってなに?」

「赤ちゃんのことだよ」

 CMを一緒に見ながらお父さんとは話す。

「え?なら水子供養って?」

「どういう意味か考えてごらん」

 お父さんは私にそう伝えてから手を合わせる。

 

「ごちそうさまでした。洗い物はやっとくよ」

「ありがとう。助かるわ」

 一緒に手を合わせていたお母さんがお礼を言う。


「どしたの?お母さん」

 なにか言いたげな目をしたお母さんに聞いてみる。

「お母さんね」

 私をじっと見てお母さんは私に話す。

「考えるならいろんなことに目を向けてほしいの」

「たとえばどんな?」

「時間とか」

 お母さんの声に私は時計を見る。

「あ!トモちゃんとの待ち合わせ!」

 私は急ぎ味噌汁をご飯にかけてかきこむ。

 そして洗面台へと走っていく。

 

「お行儀も考えてって言ってもかったかしら?」

「まあ今は気づいてくれただけでもよしとしようよ」


   ☆    ★    ★    ★    ★


 お父さんとお母さんの会話を背に私は扉を開ける。

「行ってきまーす」

 と言って家を出た瞬間バスが通り抜けていく。

「えー!今のバス乗るバスー!」

 私はそう叫んでバスを追いかけた。

 

(チャンス!)

 バス停の手前の大通りには交差点がある。

 その前の交差点に大型トラックが左折でいた。

(信号も変わるしこのままダッシュで!)

 

 信号が青になり私は横断歩道に渡っていく。

 左折しかけた大型トラックは停車する。

 私を行った後少ししてトラックは動き出す。


「間に合ったー!」

「ギリギリだね、おはよあーちゃん」

「トラックがいてくれて助かったよー」

 友人と会話して息を整えているとバスが来た。

 

  ★    ★    ★    ★    ★

 

 バスの中で世間話の花が咲く。

 学校のことやクラスのことや部活のことを話す。

 いろんな会話の花を咲かせているとバスが止まる。

 

「そういえばさ」

 赤信号の中でトモちゃんが私に聞いてきた。


「もしこのバスがあの世行きだったらどうする?」


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― 新着の感想 ―
すると視点人物が昨夜に乗ったバスは… あのまま乗っていたら、彼らと一緒に行く事になっていたのかも知れないのですね。 運転手も乗客も生者を道連れにするのを良しとしないモラルの持ち主なのは立派だと思いまし…
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