バスの中での話す声
「ひゃー!遅くなった遅くなった!」
外灯が照らす夜道を私は急いで駆けていく。
「天体観測の動画とってたらもうこんな――あー!」
後ろからやってきたバスに私は追い越される。
「そのバス乗る!乗りまーす!」
私が叫びが夜の山道に響き渡っていく。
バスはそのままバス乗り場を通り過ぎ夜道を進む。
「そんな……今の最終バスなのに……」
「……文化祭の準備に夢中になりすぎた」
時刻表を確認した私はがっくりと肩を落とす。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「どうしようかなー……歩くか呼ぶか」
天体観測の動画を撮ったスマホで時間を見る。
「お小言で時間とられるぐらいなら麓まで歩こう」
私は夜空に瞬く星々を撮るためにスマホをかざす。
「え?霧?ウソでしょ!?」
スマホが霞み周囲を見渡した私は途方にくれる。
「どうしよかなーやっぱ呼ぶかなあ」
完全に霧に飲み込まれ視界が遮られた。
「霧に覆われたらその場にいろってあったし……」
前に親と見に行ったとある映画のことを思い出す。
外灯の光さえうっすらとしていく中心細くなる。
「……決めた!呼ぼう――って光!?」
遠くからぼんやりと光が見えた。
やがて光は朧げながらバスの明かりとわかった。
「そっか臨時バス!夏休みだもんねー助かったー」
バスは私のいるバス停に止まり扉を開く。
☆ ☆ ☆ ☆ ★
「やー助かった助かった。地獄に仏とはこのことね」
私は乗車券を取ってバスに乗りこむ。
「ありゃ満員か。まあいっか立ってよ」
イスについてる取っ手をハンカチで拭き私は握る。
座席の人に会釈をしたらその人も会釈を返す。
その直後バスはゆっくりと発進した。
(何時ぐらいにつくのかなあ)
そう思っていながらバスの中を見渡す。
薄暗い明かりの中でみんな疲れてる気がした。
(こんな時間だからねえ……)
ふと視線を座席に戻す。
座席の人が赤ちゃんを抱いていることに気づく。
「赤ちゃんだー!べろべろばー」
あやしたり顔を隠してびっくりさせたりする。
「?あれ?」
赤ちゃんはぐったりしていた。
(眠ってるのかな。にしては顔色が――)
赤ちゃんが気になりちゃんと顔を見ようとする。
「おいねーちゃん」
後ろの座席からの声に私は顔を上げて振り向く。
「みんな疲れてるからさ。静かにしてくれや」
「あははそうですね。私も早く帰りたいですし」
「そっか。ねーちゃんには帰るところがあるのか」
私の乾いた笑いが響くとバスが急に止まる。
前を見るとうっすらと赤信号が灯っていた。
☆ ☆ ☆ ★ ★
「すいませんお客さん。降りていただけませんか?」
運転手の人が私に話しかけてきた。
「はい?私?」
「そうです。夜行バスでは静かにお願いします」
「だからって降ろすって――」
「すいません。お代は結構ですので」
「……わかったわよもう。はい乗車券」
正直反論したかった。
(近くに赤ちゃんがいるし騒ぐのはね……)
騒いだ私に責がある。
そう自分に言い聞かせ私はバスの扉をくぐった。
「問題行為ですかねえこれは」
「俺たち黙っとくしさそれでOKにしとこうぜ?」
会話に耳を傾けていると扉が閉じてバスは行く。
☆ ★ ★ ★ ★
バスが霧の中に消えていくのを私はひとり見送る。
「ここどこだろ?こうも霧深くっちゃ――あれ?」
ぽつんと佇んでいると霧がすうっと晴れていく。
「なんなのよもう!」
そういいながら私はきょろきょろと周囲を見渡す。
「えーっと今いるのが大通りで近くには書店……」
街灯が照らす街中と私の記憶を照らし合わせる。
それはまるでパズル。
あるタイミングでぴったり重なった。
「今いる場所がわかったわ。家はあっちね」
私は記憶を頼りに家路を急ぐ。
★ ★ ★ ★ ★
翌朝私は目覚まし時計の音で目が覚める。
んーと伸びをして身支度を整えていく。
「おはようお父さんお母さん。いただきまーす」
私は親に挨拶をして食事を始める。
ふっとダイニングから奥の間のTVに視線を移す。
『以上バスの転落現場からお送りしました』
『ありがとうございました。転落は昨夜ですよね?』
『はい。バスが出発する映像がありますのでどうぞ』
昨日の霧が深かったことが脳裏をかすめる。
(あれは事故るよね。よかった帰ってこれて。ん?)
TVのバスに乗り込む男性に見覚えがあった。
(あれ?あの人後部座席にいた人にそっくり……)
ふしぎなこともあるものねと食事を続ける。
少ししてTVはCMを流し始める。
「水子供養のCMか」
「お父さん水子ってなに?」
「赤ちゃんのことだよ」
CMを一緒に見ながらお父さんとは話す。
「え?なら水子供養って?」
「どういう意味か考えてごらん」
お父さんは私にそう伝えてから手を合わせる。
「ごちそうさまでした。洗い物はやっとくよ」
「ありがとう。助かるわ」
一緒に手を合わせていたお母さんがお礼を言う。
「どしたの?お母さん」
なにか言いたげな目をしたお母さんに聞いてみる。
「お母さんね」
私をじっと見てお母さんは私に話す。
「考えるならいろんなことに目を向けてほしいの」
「たとえばどんな?」
「時間とか」
お母さんの声に私は時計を見る。
「あ!トモちゃんとの待ち合わせ!」
私は急ぎ味噌汁をご飯にかけてかきこむ。
そして洗面台へと走っていく。
「お行儀も考えてって言ってもかったかしら?」
「まあ今は気づいてくれただけでもよしとしようよ」
☆ ★ ★ ★ ★
お父さんとお母さんの会話を背に私は扉を開ける。
「行ってきまーす」
と言って家を出た瞬間バスが通り抜けていく。
「えー!今のバス乗るバスー!」
私はそう叫んでバスを追いかけた。
(チャンス!)
バス停の手前の大通りには交差点がある。
その前の交差点に大型トラックが左折でいた。
(信号も変わるしこのままダッシュで!)
信号が青になり私は横断歩道に渡っていく。
左折しかけた大型トラックは停車する。
私を行った後少ししてトラックは動き出す。
「間に合ったー!」
「ギリギリだね、おはよあーちゃん」
「トラックがいてくれて助かったよー」
友人と会話して息を整えているとバスが来た。
★ ★ ★ ★ ★
バスの中で世間話の花が咲く。
学校のことやクラスのことや部活のことを話す。
いろんな会話の花を咲かせているとバスが止まる。
「そういえばさ」
赤信号の中でトモちゃんが私に聞いてきた。
「もしこのバスがあの世行きだったらどうする?」




