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トトラ  ~方舟読んだ方おすすめ~ ~ホラー好きな方おすすめ~  作者: るらべー


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3/10

嵐の前その1

「おれの名前はディエゴよろしくな」


ディエゴの操縦するボートは、湖の上を滑るように進んでいた。


「おれは大樹」


一番近くにいた大樹がそう言うと、他の四人も順番に自己紹介をした。


彼は留学に行っていたので英語が得意である。なので基本的に現地の人との会話は彼に任している。


ディエゴはうなずきながら言う。


「君たち、中国人か?」


「日本人だよ」


僕たちは聞き飽きたような顔で笑って答える.この旅行で何度間違えられたことやら


ディエゴは「ああ」と納得したようにうなずいた。


「なるほど、日本人か。たまに見かけるよ。」


ボートは軽く跳ねるように湖の上を進んでいく。エンジンの音と、水を切る音だけが周囲に響いていた。


僕は後ろを振り返った。


さっきまでいた港が、もうずいぶん小さく見える。


うっちーが湖を見ながら言う。


「チチカカ湖って、思ったより広いな」


「海みたいだよな」


僕がそう言って、ボートの縁に肘をついた。


「そりゃそうだよ琵琶湖の何十倍も大きいんだよ」


とこばがいう。


「まじか」


想像以上の大きさに僕は驚いた。


「おい、あれ見ろ」


大樹が身を乗り出した。


「島じゃね?」


「浮島だよ」


こばが言う。


「ウロスだ」


僕たちはその言葉に反応した。


湖の上に浮かぶ、藁でできた島。湖の上には、小さな島のようなものがいくつも浮かんでいる。


ドキュメンタリーで見て以来、ずっと来てみたかった場所だった。


「おー、ほんとに浮いてる」


ウッチーがのんびり言う。


その間にもボートはどんどん進み、浮島が近づいてくる。


しかし僕たちが想像していた景色とは、少し違っていた。


「……人多くね?」


大樹が言った。


確かにそうだった。


島の周りにはボートが何艘も停まっている。


観光客の姿も意外と多い。


「思ったより観光地だな」


大樹が笑う。


「もっと静かな場所かと思ってた」


ディエゴがそれを聞いて笑った。


「みんなそう思う」


「でもここ、かなり有名な場所だからな」


ボートはさらに近づく。


浮島の上には藁でできた家が並び、観光客が歩いているのが見えた。


子供たちが湖の上で遊んでいる。


「あれ……普通に生活してる?」


ウッチーが言う。


「もちろん」


ディエゴはうなずいた。


「ここは観光地だけじゃない」


「人が住んでる」


「学校もある」


「学校?」


大樹が振り返る。


「湖の上に?」


「そう」


ディエゴは湖の遠くを指差した。


「あっちの島に学校がある」


「子供たちはボートで通う」


大志が突然立ち上がった。


「マジで?」


「危ねえって!」


こばが慌てて大志の肩を掴む。


「落ちるぞ」


大志は湖を見つめたまま言う。


「すげぇな……」


「湖の上の村じゃん」


ディエゴは少し誇らしそうに言った。


「ここはウロス」


「この湖に昔から住んでる民族の名前だ」


僕は思わず聞いた。


「島の名前じゃないんですか?」


ディエゴは首を振る。


「違う」


「ウロスは民族の名前」


「そしてこの湖に浮かんでいる島の文化を全部指す言葉でもある」


「つまり――」


ディエゴは湖を大きく指差した。


「この湖に浮かんでいる島は、全部ウロス文化の島だ」


僕たちは思わず周りを見渡した。


湖には、本当にたくさんの浮島があった。


数えきれないほど。


「こんなにあるのか……」


僕は思わずつぶやいた。


「でもさ」


大樹が湖を見渡しながら言った。


「どうやって作ってるんだ?」


「島」


ディエゴはうなずいた。


「トトラだ」


「トトラ?」


大志が聞き返す。


ディエゴはボートの後ろに積んであった乾いた植物を持ち上げた。


細長く、麦わらのような色をしている。


「これ」


「湖に生えてる植物」


「トトラ葦」


僕たちはそれを手に取ってみた。


思ったより軽い。


「これで島作るの?」


ウッチーが言う。


ディエゴは笑った。


「そう」


「まずトトラを束ねて浮かべる」


「その上にまたトトラを重ねる」


「それを何層にもする」


「すると――」


ディエゴは湖を指差した。


「島になる」


「マジかよ」


大樹が笑う。


「藁の島じゃん」


「そうだ」


ディエゴは言った。


「藁の島だ」


ボートはゆっくりと浮島の間を進んでいく。


観光客の乗ったボートが何艘もすれ違う。


島の上では、子供たちが走り回っていた。


「これってさ」


僕が聞く。


「昔からこうやって生活してたんですか?」


ディエゴはうなずいた。


「昔、この辺りはインカ帝国の支配下だった」


「かなり大きな帝国でな」


「今のペルー、ボリビア、エクアドル……広い範囲を支配していた」


「ウロスの人たちは、その帝国に吸収されるのを嫌った」


「だから逃げたんだ」


「どこに?」


大樹が聞く。


ディエゴは湖を指差した。


「ここだ」


「湖?」


ウッチーが驚く。


ディエゴは笑った。


「湖なら追ってこない」


「当時、湖の中央まで船で来るのは大変だった」


「それに、島を動かすこともできた」


「動かす?」


大志が反応する。


「そう」


ディエゴは言った。


「トトラの島は、固定されていない」


「必要なら場所を変えることもできる」


僕たちは思わず顔を見合わせた。


「移動する島ってこと?」


「そういうことだ」


ディエゴは続ける。


「だからウロスの人たちは湖の上に村を作った」


「陸にいれば帝国に支配される」


「でも湖なら、自由に生きられる」


こばが静かにうなずく。


「だから今もここで生活してるんだ」


「そう」


ディエゴは笑った。


「五百年以上前からな」


ディエゴは笑う。


「今は観光地だけどな」


島の上では観光客が写真を撮り、子供たちが土産物を売っている。


僕が想像していた“湖の上の静かな村”とは、少し違っていた。


「観光用?」


こばが聞く。


「そう」


ディエゴはボートを操縦しながら説明する。


「この湖には、ウロスの島がたくさんある」


「でも観光客が来るのは、その一部だけ」


大志が身を乗り出した。


「じゃあ他の島は?」


ディエゴは湖の遠くを指差した。


「少し離れると、普通に人が生活してる島がある」


「そこは観光客はほとんど行かない」


「静かな場所だ」


僕は湖を見渡した。


確かに、観光客でにぎわっている島の向こうにも、さらに小さな浮島が点々と浮かんでいる。


そこには人影が見えるだけで、ボートはほとんど来ていない。


「へぇ」


ウッチーがのんびり言う。


「同じ湖でも、場所によって全然違うんだな」


「そうだ」


ディエゴはうなずいた。


「観光の島」


「生活の島」


「いろいろある」


大樹が笑う。


「なんか村みたいだな」


「村だよ」


ディエゴは言った。


「湖の上の村」


そのとき、大志が突然ボートの端に移動した。


「おい!」


こばが慌てる。


「危ないって」


「いやいや見ろよ」


大志は湖の水を指差した。


「意外と水透明」


大樹が笑う。


「お前ほんと落ち着きないな」


「だってさ」


大志は子供みたいな顔で言う。


「湖の上に村だぞ?」


「テンション上がるだろ」


その言葉に、僕も少し笑った。


確かにそうだった。


この湖には、想像していた以上にたくさんの島がある。


しかも、その多くは


人が普通に生活している島だった。


学校もある。


家もある。


子供たちはボートで通学する。


湖の上に、ひとつの文化がある。


僕はしばらく黙ってその景色を見ていた。

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