おわりのはじまり
港町は少し寒かった。
湖から吹く風が、湿った空気をゆっくり揺らしている。
ここはペルーにあるプーノという町。標高3800m。世界一標高の高いチチカカ湖がある町である。
富士山よりも標高が高く,酸素が薄い気がする。
僕たち五人は港の近くのベンチに座り、スマートフォンの画面を囲んでいた。
大学生活最後の卒業旅行。
一か月かけて南米を回り、今日でほとんどの予定が終わった。
マチュピチュ、ウユニ塩湖、アマゾン――思い返せばとても刺激的な旅行だった。
けれど正直なところ、全員かなり疲れていた。高山病の影響もあるかもしれない。
しかし最後はゆっくりすると僕たちは決めていた。そのための目的地ウロス島。
僕たちはすでに宿を決めていた。
藁で作られたホテル。湖の中央に浮かぶ、小さな島にある宿だ。
見た目はバリ島のロッジ。とても広く快適そうな場所だった。
問題は――
どうやって行くのか分からないことだった。
港には小さな船がいくつか停まっているが、ホテルに行くには迎えに来てもらう必要がある。
しかし,僕たちは現地の電話番号を持っていないため連絡手段がない。
「ネットに電話番号書いてあったよな」
大樹がスマートフォンの画面を見せた。
確かに、ホテルの紹介ページには電話番号が載っている。
「誰か現地の人にかけてもらおう」とこばが言った。
僕たちは近くにいた男性に声をかけた。
三十代くらいの、日焼けした男だった。
「すみません。この番号、かけてもらえますか?」
英語で頼むと、男は気さくに笑った。
「いいよ」
スマートフォンを受け取ると、その番号に電話をかけてくれる。
しかし――
数秒後、男は眉をひそめた。
「つながらないな」
「え?」
「この番号、使われてないみたいだ」
僕たちは顔を見合わせた。
「おかしいな……」
「予約確認のメールに電話番号があるんじゃないか」
と男が僕たちに行ってきた。
そこで僕は予約確認のメールを開いた。
そして気づく。
「……あれ?」
メールに書かれている電話番号が、さっきの番号と違っていた。
「本当だ、こっちならかかるかもしれない」
僕はその画面を男に見せた。
「もう一回、お願いできますか?」
男はうなずき、今度はその番号に電話をかける。
数秒の沈黙。
そして――
「つながった」
男はそう言って、スマートフォンを僕に渡した。
受話器の向こうから、低い声が聞こえる。
「もしもし」
それが、ホテルの管理人だった。
事情を説明すると、管理人はこう言った。
「船で迎えに行きますよ」
港まで迎えに来てくれるらしい。
ただ、少し時間がかかるという。14:00に迎えに来るそうだ。
僕たちが礼を言って電話を切ると、さっきの男が笑った。
「迎えが来るまで暇だろ?」
「え?」
「俺、ツアー会社やってるんだ」
男は港の向こうを指差した。
「この島ができた歴史知りたいだろ?お土産も買う場所があるよ」
「時間あるなら案内するよ」
時計を確認すると10:28。
迎えの船が来るまで、まだ時間があった。
僕たちは顔を見合わせる。
そして誰からともなく言った。
「……せっかくだし、行く?」
男は笑った。
「決まりだな」




