第6話 混乱
今日は部署の飲み会だった。
全く行く気がしなかった。
今日もストーリーを進めたり、素材を集めたり、他にもできることが色々あるみたいだから、早く帰ってゲームをやりたかった。
とりあえず一次会が終わったら、速やかに帰ろう。
私は適当に周りの人と話を合わせて、早く時間が過ぎるのを待った。
もしかしたらハヤテさん、もうログインして私のことを待ってるかな……。
ハヤテさんは一体どんな人なんだろう。
オンラインゲームの世界。
年齢も性別もわからない。
もしかしたら海外の人かもしれない。
でも、たとえそれが誰であれ、あの世界を楽しく遊べるのはハヤテさんがいるからで、そういう現実世界の肩書きは関係ない。
ゲームのアプリを立ち上げて、メッセージがないか確認したりしていた。
トイレに行こうと立ち上がって歩こうとしたら、羽山さんとすれ違いそうになった。
今度はぶつからないようにしないと……。
その時、私のスマホが手から滑り落ちた。
羽山さんがそれを拾ってくれた。
「あ……ありがとうございます!」
私がスマホを受け取ろうとした時、羽山さんの表情が一瞬変わった気がした。
画面には、“あまる”のステータス画面が映っていたままだった。
あ……エタクエやってるの、バレたかも……。
でも別にバレたって、羽山さんが何かする訳でもないからいいか。
羽山さんは静かにスマホを手渡してくれた。
「……気をつけろ」
羽山さんはその場をすぐ離れていった。
その時の羽山さんの顔は、いつもと違って少し戸惑っているように見えた。
気のせいだろうか──
◇ ◇ ◇
急いで家に帰った後、ゲームにログインしてハヤテがいるか確認した。
でも、ハヤテはいなかった。
もう23時になりそう。
昨日はギリギリ会えたけど、今日は厳しいかな……。
私は少しだけフィールド探索をしてから寝ようと、ゲーム内をうろうろしていた。
日付が回りそうになって、さすがにもう寝ようとした時、ハヤテからチャットが来た。
ハヤテ『遅れてごめん!』
あ!来た!
でも、さすがにもう寝ないと……。
あまる『ごめん、私もう寝ようと思ってて』
ハヤテはしばらく黙ったままだった。
ハヤテ『わかった。また明日遊ぼう!』
手を振るジェスチャーをしてくれた。
あまる『うん!また明日!』
私が落ちようとしたする寸前、ハヤテが少しあまるに近づいてきた。
ハヤテ『あまる、おやすみ』
その距離が、いつもより近くて、また緊張してしまった。
ハヤテさん──
やっぱりどんな人か、すごく気になる。
◇ ◇ ◇
その日、私は寝不足の影響か、仕事でミスをしてしまった。
そのせいで修正作業に追われて、終わるのはかなり遅くなりそうだった。
ちょっとゲームに入り込みすぎた……。
ここ最近、毎日遅くまで遊んでいる。
日常生活に支障が出るのはまずい。
これからはほどほどにしないと……。
とにかく今日は、帰ったらすぐ寝よう。
もうオフィスには私しかいない。
その時、足音が聞こえた。
振り返ると、そこに羽山さんがいた。
「まだ仕事してたのか……」
羽山さんは忘れ物をしたようだった。
「どうした?」
「ちょっとミスをしてしまって……」
眠くて集中できないから、明日早く来ようかな。
「俺でできるものがあればやる」
「いえ、大丈夫です。これ、事務方じゃなきゃ判断できないものもあるので……」
羽山さんは少し困ったような表情を見せた。
「ごめん」
……なぜ羽山さんが謝るのだろうか。
「寝不足だろ?」
バレていた……。
「寝不足なのは確かなんですけど、羽山さんのせいじゃないですよ?」
ゲームのやりすぎで寝不足なだけで……。
羽山さんは何か言いたそうな表情をしていたけど、結局何も言わなかった。
そのまま少し遠くの席に座った。
──え?
「何時に終わるかわかりませんよ……?」
「それは気にしなくていい」
羽山さんのその行動に、私は少し驚いた。
上司として、私のことを気遣ってくれているのかな……?
「ありがとうございます」
その後、羽山さんが側にいてくれるおかげもあってか、仕事は思ったより早く済んだ。
「お待たせして申し訳ありませんでした!」
羽山さんに深々と頭を下げた。
「一人で残業してる部下、放置できないだろ」
普段は口数が少ないけど、ちゃんと気にしてくれてるんだな。
その後、駅まで帰る途中、また特に何も話さず羽山さんと歩いていた。
その時、羽山さんに思いきり抱き寄せられた。
──え!?
そしたら、後ろからすごいスピードで自転車が通り過ぎた。
自転車に乗っていた人は、スマホを見ながら運転していた。
「びっくりした……!ありがとうございます」
羽山さんは私の顔を見て、優しく微笑んだ。
「……天川は目が離せないな」
胸がぎゅーっと苦しくなった。
やばい、これは……ちょっと、距離が縮まりすぎて、心が追いつかない!
そのまま何事もなかったかのように二人で歩いていたけど 、私の頭は大混乱だった。




