第40話 祭
あれから羽山さんの仕事が落ち着いてきて、私達は新居を探していた。
これから二人で暮らすのかと思うと、幸せでいっぱいだった。
色々な物件を見て、だいたいイメージが固まってきた頃──
毎日何度も何度もかかってくる母からの電話。
「いつになったら連れてくるの!?」
「もう少し待って!」
「そんな事言って一ヶ月くらい経ってるじゃない!」
羽山さんとのことを両親に報告はしたけど、実家には行きたくなかった。
羽山さんをあの集団の中に放り込みたくなかった。
「もうそろそろ行こうか」
羽山さんはずっと行こうとしている。
私が逃げているだけだった。
入籍日は近づくし、羽山さんも早く挨拶したいだろうし、もう限界だ……。
私は腹をくくった。
──数日後
憂鬱な気持ちで羽山さんと新幹線に乗っていた。
「そんなに帰りたくないの?」
「はい。あそこは色々特殊で……」
なんだかんだ話しているうちに、とうとう地元に着いてしまった。
ゆっくりと駅の改札に行こうとすると──
待ち受けていた。
実家の家族、義兄さん、義姉さん、義弟さん、甥っ子、姪っ子。
「瑠美ねーちゃん!男の人といる!」
響き渡る幼稚園児の声。
「えー!すごいかっこいい!瑠美羨ましい」
お姉ちゃん、義兄さんいるのに言わないで。
「瑠美!早く来なさい!みんな待ってるのよ!」
みんな……?
「みんなって?」
「親戚にたくさん声かけたの!」
なぜ!?
結婚式ならともかく。
ただ挨拶に来ただけなのに!
「瑠美、たくさんいるんだね。家族」
羽山さんは楽しそうにしている。
私たちは車に無理やり乗せられて本家へ。
本家は大賑わいだった。
羽山さんが部屋に入った瞬間、すごい歓声が上がった。
「いらっしゃい!」
「瑠美ちゃんの旦那さんだ!」
「すごい男前……」
「瑠美ちゃんやるね!」
──恥ずかしくて逃げたい!
「この前までランドセル背負って走り回ってたのに……早いねぇ」
いつの話してるの……?
「中学生の時は、好きな男の子に振られて泣いてたねぇ」
なんでそんな話するの!?
羽山さんが笑いを必死に堪えている。
もーー!
「いやだー!!」
私は本家から咄嗟に逃げ出してしまった。
全力で追いかけてくる母と姉。
そのまま町内を一周していた。
──羽山さんごめんなさい!落ち着いたら戻ります!
一時間に渡る追いかけっこの末、限界で本家に戻った。
羽山さんはその間、本家にいる家族親戚その他と楽しく話していたみたいで安心した。
息を切らして、両親と私と羽山さんで向き合った。
「羽山さん、素敵な上司だね。話し方も柔らかくて、とてもいい人だね」
お父さん、私何も聞けてないんだけど。
「瑠美は昔は結構お転婆で大変だったから色々心配してたけど、ちゃんと結婚できてよかったわ……」
「過去の話するのもうやめて!」
「俺は楽しいけど」
羽山さん……!!
もう私は諦めた。
私は別の部屋の隅で耳を塞いでいた。
一通り母が話した後、羽山さんが迎えに来た。
「瑠美の事、もっと知れてよかった」
半泣きのまま振り返った。
その顔を見た羽山さんが笑いをまた堪えていた。
もういいんだ。
笑ってくれるなら。
あれもそれもこれも全部私。
私を全部知って、それでも愛してくれるならいいんだ。
その後、私たちは泊まる流れになり、夜遅くまで羽山さんは酒盛りに付き合って、私は台所で家事を手伝っていた。
「瑠美、安心した。ちゃんとした人と結婚できて」
「まだ入籍もしてないよ」
「細かい事はいいの。ちゃんと羽山さんの妻として、しっかり支えるのよ」
母は真剣な顔だった。
「うん」
私の中で、羽山さんと結婚する覚悟がちゃんとできた気がした。
◇ ◇ ◇
お風呂から上がると、羽山さんが来た。
酔って目が座ってる羽山さん。
唐突に私の胸を触ってきた。
「何してるんですか!?」
「あ、ごめん。触ると落ち着くからつい……」
羽山さんはそのままお風呂に入った。
彼には未だによくわからない部分がある。
その後、今日の疲れがどっときて布団の中で半分寝ていたら、お風呂から出てきた羽山さんが覆い被さってきた。
「羽山さん!何してるんですか!ダメですよ!」
羽山さんは動かない。
「瑠美って、想像以上にアクティブな奴だったんだな」
それは昔だけ。
「もうあの頃の私は捨てたんです。そして東京に来たんです」
「そうか……」
羽山さんは隣の布団に行って寝てしまった。
私は羽山さんの寝顔を見ながら、眠りについた。
これから羽山さんも、ここの住人達の仲間入りをするんだと思うと、不思議な気持ちになった。




